第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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翌日には少女も目を覚まし、自分が城に居る事に驚いている様子だった。
その上、双子や子供たち、仲間達までもが城に戻れていたのを知り、とてもホッとしていたのを仲間たちは笑顔で見届けていた。
宣戦布告されたことは敢えて言わないでおこうという仲間達の気遣いもあり、少女がそれを知ることは無かったのでホッとしたその顔も変わることは無かった。
リコリス「メルクちゃ~ん!!」
リコリスが病室のベッドで体を起こしているだけの少女に勢いよく抱き着いたことで、少女はその勢いを殺せぬままベッドに倒れ込んでしまう。
そのままベッド上で抱き締め、少女へ擦り寄るリコリスに、周りの人間も「はあ、」と溜息を吐いてそれを見守っていた。
流石、性格が変わるととんでもない事になる。
そんな皆からの視線をものともせず、リコリスはベッド上でもがいている少女を強く抱きしめていた。
リコリス「元気になったのね~!良かったわ~!」
『うっ、リコリスさん…。首が、首がっ…締まってます…‼』
ヴィスキント「はぁ…、何をしているのですか、貴女方は…。」
ヴィスキントがリコリスの首根っこを持ち、ヒョイと上げると借りてきた猫の様に静かになる。
そのまま少女から離そうとすると、「えぇ~?!もうちょっとメルクちゃんを堪能する~」などと言って暴れ出すリコリスを持ち、ヴィスキントはそのまま病室から出ていってしまった。
嵐のような人物が過ぎ去ったことで、ようやく少女に平穏が訪れる。
『はぁ、はぁ、…助かりました…!』
カロル「あの人、性格全然違うからギャップで風邪引きそう。」
ユーリ「本人も悪気がなさそうってのが…なぁ?」
『悪気はないと思います。いつもああいうお方なので。』
ふふ、と笑った少女に二人も笑顔になる。
顔色も戻っているようで安心しているのも束の間、医師が病室に入ってきて「検査をします」と言い出すものだから少女が顔を真っ青にして突飛な行動に出る。
窓を開け放ち、逃げ出そうとする少女にこれまた目を剥いた仲間達。
レイヴン「メルクちゃん…気持ちは分かるぞ…。」
フレン「えぇ…。僕も気持ちは分かりますから…。」
二人は拳を握り、うんうんと頷いている。
しかしそれを見抜いていた医師がいつの間にか少女の後ろに立ち、脇の下へと手を忍ばせると、ヒョイと持ち上げてしまった。
医「はい。では行きましょうかねェ。メルクさん?」
『ひっ…!!』
諦めたように手足をだらんとさせた少女を連れて行く医師の顔は、それはそれはニッコリとしており「逃げれませんよ?」という顔でもあった。
そのまま悲しい顔で仲間達の横を通り過ぎた少女に誰しも心の中で合掌をする。
そして遥か壁の向こうの方から、あの機械音が聞こえた―――気がした。
再び気絶しただろう少女を待つことにして、ユーリ達は各々の時間を過ごすことになる。
何人かは鍛錬へ行き、自己研鑽を。
また他の人は、研究や仕事へと出向いていき各々の時間を過ごしていった。
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少女は目覚めてからというもの、リコリスと居る時間が多かった。
信徒たちの間では神子様お付きの薬師という認識でいるからか、信徒たちが神子のところまで案内してくれるのだ。
たまに医者と居る時には声を掛けないが、単独でいると案内される―――そんな生活を送っていた。
リコリス「良かったわ~。無事に帰ってきて。」
『まさか一か月が過ぎてるなんて思いもしませんしたが…。』
リコリス「でも、それくらい難しかったってことでしょ~?神子ってやっぱり大変なお仕事ねー?」
『…そうですね?』
そんな中、ヴィスキント様がこちらに近寄ってくるのが分かり、私達はお互いの顔を見合わせた。
どっちに用事があるんだろう?
ヴィスキント「二人とも、よろしいですか?」
リコリス「はい、なんでしょうか?」
ヴィスキント「今から出掛けます。二人も準備をお願いしますよ。」
『急ですね…?どちらに行かれるんですか?』
ヴィスキント「例の疫病が流行った場所の近くにあった村です。そこでも疫病が流行っているようです。」
『…やっぱりあそこには何かある気がしますね。原因の特定も急いだほうがいいかと思います。』
ヴィスキント「出来るならばそうしたいですが、今回の目的はあくまでも疫病を治す薬を持っていくのであって、原因の特定ではありません。もしこれが拡大するようなら考えます。ですから、今はその村に行くための準備をしてください。」
『分かりました。』 「分かりました~♪」
リコリスがお色直しに行く中、私はヴィスキント様に呼び止められる。
それに振り返れば、耳元に口を寄せられ小声で話しかけられた。
ヴィスキント「―――ウェケア大陸、およびデズエール大陸には近寄らないようにしろ。これはギルドマスターからの命令だ。」
『…? あそこに、何かありましたか…?』
ヴィスキント「例の男―――神子を壊すと断言している男がそこらで頻繁に出没しているのを確認した。」
『…! クレイ…、まだあんなところで迷子になってたんですね…?』
ヴィスキント「そういえば知り合いだったな。だがお前にとって要注意人物に変わりない。今後奴と
『…仕方ないですよね…。分かりました。気を付けます。』
ヴィスキント「それから…あいつからはおおよその事を聞いているが、副作用がどんどんと出てきているらしいな?」
ヴィスキント様の"あいつ"とは多分お医者様の事だと想定する。
二人は以前からの知り合いと聞いていたので、何となくだがそう思った。
私はそれに大きく頷いて見せれば、ヴィスキント様は「そうか」と一言発して沈黙してしまった。
ヴィスキント「…一番厄介なのが"痛覚器官の麻痺"だ。体の状態に限らず、戦闘になれば俺の後ろに居ろ。…お前に怪我をされては俺らが困るからな。」
『はい。ありがとうございます。』
ヴィスキント「元より、お前の戦闘技能を高くは買っていない。…危ないから素直に大人しく隠れていろ。」
『あらあら、ふふ。分かりました、そうさせてもらいますね?』
少女が笑うと、ヴィスキントも肩の力が抜けたように「ふっ」と笑い、目を閉じる。
そして優しく少女の頭を撫でるのだ。
ヴィスキント「…良いですか。絶対に無理はしない事。私との約束ですよ。」
急に敬語になったヴィスキント様を見遣れば、ヴィスキント様は私を見た後何処かを睨みつける様にして見ていた。
何が居るのかと視線の先を追うが、そこには何も見えては来ない。
不思議に思い、首を傾げるとヴィスキント様は私の腕を取り、急ぐようにその場を後にした。
引っ張られる形で歩いていた私がもう一度振り返ったが、やはりそこには何もいなかった。
……後でヴィスキント様に聞いてみようかな…?
ユーリ「…チッ、気付いてやがったか。」
壁に隠れる様に見ていたユーリは、連れて行かれた少女を見て心配そうに眉を潜める。
今は協力関係だとしても心配なものは心配だ。
それこそ、奴らに抜け駆けされない為にも監視は必要だろうと考えていたユーリは、普段はそっと少女を見守っていたのだ。
ユーリ「…さっき何の話をしてたんだ?…またメルクに聞いてみるか。」
今日の夕食の時にでも聞いてみよう。
そう思ってユーリは連れて行かれた少女の後を追いかけていくのだった。
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___とある村。
疫病が流行ったと言われる村があった場所から数百メートル先にある村。
そこでは人々が疫病に苦しめられていた。
教祖としてきたヴィスキントも、そんな村の様子に嫌そうに顔を顰めさせた。
ヴィスキントとしても、そこまでこの疫病を軽視しているわけではなかったからだ。
ヴィスキント「…これは酷いですね。」
リコリス「何だか、拡大しているようですね~…。」
ヴィスキント「さて、仕事です。さっさとやって帰還しましょう。」
リコリス「了解です!」
『…。』
少女は村の様子を満遍なく見ていた。
何か…、何か解決の糸口が見つからないか、と。その一心で少女は村の様子を見ていた。
それに気付いた教祖は、やれやれと頭を振りながら少女へと声を掛ける。
ヴィスキント「行きますよ。」
『あ、はい。』
慌てて追いかける少女を待ち、一行は村人へと薬を渡す。
感謝の極みと言えるほど深いお辞儀をした村人たちは、リコリスを見て涙を流しながらお礼を伝えた。
それを女神の如く微笑み、神子として(無事に)やり通したリコリスは村を離れようとする。
そんなリコリスの前に、厳つい男たちが立ちふさがった。
「『…!!』」
「あんたが神子ってやつか?」
リコリス「はい。私が神子であり、ユグドラシル様より力を授かっている者です。」
「そうか。なら一緒に来てもらおうか。」
にやりと男が笑うとリコリスの腕を容赦なく掴む。
しかし、それを見た偽神子は目を見開くと口を
そしてそのまま容赦ない蹴りを食らわせるとニコリと笑顔で男たちを見た。
リコリス「申し訳ありませんが、触らないで頂けますか?」
「あのやろ…!女だからって優しくしてやったら…!!」
リコリス「女だから、と侮るからではないですか?違いますか?」
「おい、捕まえろ!!」
一斉に男たちがリコリスに集まった行ったのを見て少女が慌てて助けに行こうとする。
しかし横に居たヴィスキントに止められてしまい、少女は止めた本人を見上げた。
『ヴィスキント様…!!』
ヴィスキント「まぁ、見てろ。あいつが神子に選ばれた理由が分かると思うぞ。」
『え、』
そのままヴィスキント様の横で様子を見ていると、偽神子は次々と男たちを物ともせず倒していく。
……それも、腕一本で。
村人はあの厳つい男たちに見覚えがあるのか、既に逃げ去っており見る影もない。
だからあの"神子様"が腕一本で男をはっ倒したなど、想像だにしないだろう。
『……。』
ヴィスキント「これで分かっただろ?あいつに援護なんて不要だ。……強いて言えばあれが、自己防衛の出来る"神子様"の真のお姿だな。」
呆れたように話すヴィスキント様に私は開いた口が塞がらない。
まさか、リコリスさんにそのような特技があったとは…。
逆に男たちが
ヴィスキント「くく…。やっぱりそうなるよな。気持ちは分かる。俺もあれを見た時は流石に体が動かなかったな。」
『さ、流石、です…。』
「おりゃー」と最後に掛け声を上げた"神子様"はパンパンと手を叩くとこちらを見て、よよよと地面に倒れ込む。
少女が驚いていると、いつもの事だと教祖が言うので暫く見守る事に。
リコリス「いたいけな女性に、なんてことを…」
ヴィスキント「(何処がいたいけなんだ…。)ほら、馬鹿やっていないで早く離れますよ。疫病がうつってしまいます。」
リコリス「え、それは勘弁ですー!」
ヴィスキント「でしょう?なら、早く行きますよ。逃げた村人は捨て置きなさい。」
そう言って一番に走り出したヴィスキント様を追いかけて私たちも走り出す。
しかし誰かの視線を感じた気がして、私は立ち止まり村を振り返る。
…今日は何だか、こういう事が多いけれどやっぱり何にもない。
感覚がおかしいのかな、なんて思っていると誰かに腕を掴まれてハッとしてしまう。
するとそこには先ほど走って行かれたはずのヴィスキント様が居た。
ヴィスキント「何をしてるのです!早くいきますよ!」
『は、はい。』
―――違う、待って…
『あ…、れ…(お、かしいな…。今日、わたし……ちゃんと、くすり、飲んだ、のに…)』
ヴィスキント「っ?!」
ヴィスキント様が一歩踏み出した瞬間、私は何故か睡魔に襲われた。
いつも飲んでいるあの漢方は服用していて、今日も完璧だったはずなのに―――
―――何故、こんなにも眠たいんだろう。
私はそのまま眠る様に瞼を閉じて、意識を失った。
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ヴィスキントに抱えられる様にして運ばれた少女は、そのまま城にいた主治医に引き渡される。
急いで診察を受けた少女だったが、例の副作用による眠気だと診断が下される。
しかし、例の薬を欠かさず服用していることは医師も確認済み。
何故、こんなことが起きてしまったのか不明なまま、その日は過ぎ去った。
少女が倒れたという悲報は、その日の内に城の全体へすぐに行き渡ってしまっていた。
そして心配した仲間達が駆け付けるのも早いものだった。
リタ「ちょっと!なんであの子倒れてんのよ?! だって、薬も皆で取りに行ったじゃない!」
医「…。」
「「……。」」
ユーリとレイヴンはお互いに顔を顰め合う。
きっと副作用で倒れたと分かっているからだ。
医「すみません、先日の検査が不十分だったかもしれません。」
カロル「また薬取りに行く?」
ジュディス「というより他の薬の方がいいのではなくて?医者が処方した薬なら大丈夫なんでしょう?」
パティ「確かにジュディ姐の言う通りなのじゃ。薬が合わなかった可能性もあるのじゃ。」
レイヴン「まぁ、それで治るならそれに越したことは無いけど…ねぇ?薬の副作用があるからあれにしたんじゃなかったっけ?」
医「そうですねェ…。ですが、いよいよそうも言ってられない時まで来てしまったかもしれませんね。……別の薬を処方します。皆さんには暫くメルクさんの経過観察をお願いします。」
ヴィスキント「それなら問題ありません。私が居ます。」
その言葉に全員がヴィスキントを見る。
しかしその視線を受けても尚、ヴィスキントはどこ吹く風で受け止めていた。
ヴィスキント「要観察対象なのであれば、私がやります。彼女にも起きたらその事を伝えておいてください。」
カロル「ま、待ってよベン!僕たちも一緒にするよ!!」
ヴィスキント「ここは、複数でするより1人で対応した方が事態は早く収まる―――違いますか?」
カロル「そ、それは……」
リタ「ちょっと何で流されてんのよ。ガキンチョ。」
カロル「え、僕のせい?」
リタ「細身男!」
ヴィスキント「………それは、私の事ですか?」
リタ「アンタ意外にいると思う訳?」
ヴィスキント「で、何ですか?要件は早く言って下さい。」
リタ「一々、ムカつくやつね…。ま、いいわ。あの子の観察ならアタシと…この子がするわ!」
リタは隣に居たエステルの肩を掴み、そう言い放つ。
それにエステルが「え?」という顔をしたが、しかしメルクの為である。この姫がそういった事を断るはずもなく、話の流れは二人に軍配が上がる。
エステル「は、はい!!そういう事なら任せてください!!」
ヴィスキント「お二人とも、最近は研究に仕事がお忙しい…とお聞きしてますが?」
エステル「いえ。今日で大分仕事も落ち着きました。メルクとお話したいというのもありますし、リタも一緒なら心強いですから。それに私には回復も持ってますから、何かあれば回復は任せてください。」
リタ「そーいうことよ。アンタの出る幕は無いってわけ。分かった?」
ヴィスキント「(…確かに、こいつらなら多少任せたところで支障が出ることは無いだろう…。問題は―――)」
一瞬だけユーリを見たヴィスキントだったが、二人の意見に賛成してしまい忙しそうにその場を後にしていた。
それにリタが「アンタが一番忙しそうじゃない」と愚痴っていた。
カロル「さっすが、二人とも…。あのベンを丸め込むなんて…。」
リタ「あんなの簡単でしょ。アンタが弱いのよ。」
カロル「う、」
ユーリ「ま、ともかくだ。メルクの様子は二人に任せるか。」
「「はい!!/いいわよ。」」
レイヴン「何か分かったらすぐに教えてちょーだいね~?」
ジュディス「そうね。向こうに情報が行く前に教えて欲しいわね?」
パティ「ウチもメルク姐の事見るのじゃ~!この双眼鏡でどこまでも~なっ!」
ユーリ「双眼鏡じゃなんにも見えねえだろ…。」
結局明日からは皆で様子を見ることにした仲間達。
―――果たして、少女のその眠気の理由は?