第7界層 〜永久不変たる薄霧の鍾乳洞〜
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吐血した少女を連れ、城へと戻ったユーリ達。
そこはユーリの想定していない景色が拡がっており、なんと騎士と白装束の信徒達で溢れかえっていた。
だが、不穏な空気はなくお互いに上手くやれているのか喧嘩している様子もない。
……あんなに騎士に対して不満を持っていた奴らなのに、だ。
カロル「びっくりしたよね!ユーリはこの事知らないんだ?」
ユーリ「あ、あぁ…。一体どうなってんだ…?」
医者が少女を連れて診察室へと向かったのを横目で確認したユーリは仲間たちを振り返る。
───何故、ユグドラシル教とかいう白装束の奴らに占拠された城が解放され、こうして仲良く出来たのか。
騎士や皇族の現状はどうなっているのか。
そういった疑問なら沢山有って、早々に尽きそうにない。
そんなユーリを見兼ねて、仲間たちは客間に座り事情を話し始めた。
リタ「───ま、簡単に言うと仲が悪かった二つの勢力は今や仲直りしたのよ。……というより、向こう側の奴らがお得意の情報操作でそうさせたのよ。」
ユーリ「向こう側の奴らってのは……」
レイヴン「メルクちゃんのギルドのメンバーであるヴィスキント・ロータスとアビゴール・ジギタリスだ。」
ジュディス「第6界層を突破した私達は、貴方たちを置いて外に出ちゃったのよね。」
パティ「ウチらは二人が湖に落ちたから死んだと思ったんじゃぞ?!」
カロル「でも、ベンが〈
何故〈
それに信用ねぇな、俺達……。死んでたと思われてたのかよ。
フレン「彼が言うには、神子が死亡すれば新たな神子を生み出す為に〈
リタ「あの細身の男、アンタが死んでると楽だとかなんとか言ってたわよ?」
ユーリ「……はっ!そりゃあ残念だったな。」
カロル「でも本当、生きてて良かったよ!」
パティ「んじゃ!本当に生きた心地がせんかったぞ!」
ユーリ「そりゃ悪かったな。」
レイヴン「まっさか、お二人さん、一ヶ月も行方不明なんてね〜?」
ユーリ「……は?」
ユーリは驚いてレイヴンを見る。
いやいや、そんな馬鹿な…。
だってキラーモンスターを倒してからここまで来るのに数日かかっただけの筈だ。
それが何をどうしたら一か月も居ない事に…。
ユーリ「(…もしかして、前にメルクが行方不明だった時もこんな感じだったのか…?)」
カロル「ユーリ?」
ユーリ「いや?何でもない。んで?仲良くなったはいいが…向こうさんはどういう風の吹き回しだ?いきなり仲良くしようだなんて虫のいい話だな?」
ジュディス「まぁ…、仲良くって言っても上っ面だけね?」
フレン「どうせメルクさんの体を治すにも〈
ユーリ「…なるほどな?そういう事かよ。」
つまり〈
そこからは勝手に少女を攫ってでも向こうは願いを叶えるに違いない。
…悪党が何を願うか興味はないが、こんなご時世に願う事と言ったら碌なものではないことくらい簡単に想像がつく。
ユーリ「上辺だけの協力関係、ね…?」
カロル「僕は、ベンとこうして仲良く出来るのは嬉しいけど…。そうも言ってられないよね…。」
リタ「敵に絆されてんじゃないわよ。ガキンチョ。」
カロル「うん…。本当ならそうなんだろうけど…、メルクもベンには気を許していたから何だか複雑で…。」
レイヴン「…ま、確かにな?メルクちゃんを子供のころから見てるって言ってたしなぁ?」
ジュディス「彼って、見た目に寄らず歳なのね?」
パティ「確かにそうなのじゃ。ウチはてっきり…まだ20代かと思ってたぞ?」
レイヴン「いやいや、そんなはずないでしょ~?だってメルクちゃんを子供のころから―――いや、あり得るのか…?」
ユーリ「ともかくだ。あいつ等と協力関係はいいが、抜け駆けされねえようにしないとな?」
パティ「というより、こっちも願いを決めておかないとなのじゃ。いざって時に願いが無いというのは向こうの良い様にされるんじゃないのかの?」
カロル「確かに…。パティの言う通りかも。」
リタ「じゃあ誰か勝手にお願いしたら?アタシは無いわよ。」
カロル「う~ん、ギルドの為に一攫千金とか?」
レイヴン「それ、向こうさんと一緒じゃな~い?」
神子である本人そっちのけで願いの事を話す仲間達。
ああでもない、こうでもない、と話に花が咲いていたがレイヴンが話を元に戻したことにより、ユーリは自分自身にあった出来事を話すことに。
ユグドラシルに会った事、そして〈
カロル「海を割る剣なんてすごくない…?」
パティ「でもそれを使ったおかげで海に流されたんじゃろ?もう使わない方がいいのじゃ~。」
ユーリ「ま、使う予定もないが…。」
カロル「でも、ご褒美は気になるよね…?」
ユーリ「死ぬ気で欲しいなら俺は止めないぜ?」
カロル「じょ、冗談だよ…。はは…ハハハ…。」
ジュディス「あら?私は気になるわね?そのご褒美とやらのこと。もしかしたらいい武器がもらえるかもしれないわよ?」
リタ「…アタシも気になるわ。なんで、その剣にマナが含まれているのかとか…、あと神子の力もマナを糧にして術を発動させてた…。っていうことは―――」
ブツブツと呟き始めたリタを放っておき、仲間たちは再びユーリが持っているキュアノエイデスを見る。
その剣の表面には、波の模様が光を帯びて揺らめいている。
水を纏いしその剣を皆が綺麗だと褒めた所で、サリュとカリュが客間に入ってきてフレンの前で敬礼をした。
それを見てフレンも姿勢を正し、双子を見る。
サリュ「フレン様、メルク様の事でご報告が。」
カリュ「現在、回復傾向にありそのまま治療を続行されるとのこと。…まだ意識は戻っていませんがその内意識は戻るだろうと医師の見解です。」
フレン「なるほど。分かった、引き続き護衛を任せる。」
「「はっ!」」
再び敬礼をして退室した後、ココ達も同じ報告をしにフレンのところまで来ていた。
それを笑顔で受け取り、子供たちも笑顔で客間を去っていった。
ヴィスキント「…こんな所に居ましたか。」
その後すぐに教祖姿のヴィスキントが現れる。
しかしその後ろには白の正装のような恰好をした女性も着いてきており、ユーリは首を傾げる。
…そういえばこの女性、どこかで見たような…?
リコリス「初めまして。リコリスと申します。神子をやらせていただいていますので、以後お見知りおきを。」
清楚な振る舞いでユーリに辞儀を入れた女性にユーリが「あぁ。」と返事を返す。
しかし、紹介されて思い出した。
確かにあの集会の時に居た女性だ。どうりで見覚えのある人物だ、と思ったものだ。
ヴィスキント「よく湖に入って生き延びていましたね。」
ユーリ「ハッ!残念だったな?俺が死んでなくて。」
ヴィスキント「まぁいいでしょう。彼女を助けただけ良しとします。ギルドマスターに代わり、お礼を。」
嫌そうに言いながら胸に手を当て綺麗に辞儀を入れるヴィスキントに、ユーリはそれを鼻であしらう。
顔を上げた両者の視線はバチバチと火花が散っていた。
…どうにもこの2人、相性が悪いらしい。
リコリス「私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、私の薬師を助けていただいて…。」
ヴィスキント「あぁ、この人にそのような喋り方は不要です。この人たちは貴女が偽物の神子だと知っていますから。」
リコリス「えっ?!そうなの~? やだー、早く言ってくださいよ~!」
急に態度を変え、ふんふんと踊り出す女性に全員が目を剝く。
まさか、そんな性格の女性だとは夢にも思わなかったからだ。
リコリス「ではあっらためまして~♪私、リコリスって言いまーす!よろしく~。」
カロル「な、なんか全然違う人に見えるんだけど…」
ジュディス「猫を被ってたのね?」
パティ「すごいのじゃ…。高低差が激しくてまるで別人なのじゃ~。」
ヴィスキント「はぁ…程々になさい。信徒たちが見ていたらどうするのですか。」
リコリス「はーい。」
再び清楚な振る舞いに戻ったリコリスを見て全員が訝し気にその姿を見ていた。
…見た目で判断しちゃいけないって事をまさに体現している女性だな、と全員が思っているとヴィスキントがユーリを見て、そしてその手に持っていたキュアノエイデスを見遣り、目を細める。
ヴィスキント「…それは?」
ユーリ「なんであんたに言わなくちゃいけないんだ?」
ヴィスキント「なら良いです。言わないのなら結構。…それと。粗方、他の方からも聞いたかもしれませんが、改めてこちらからも言わせて頂きましょう。…神子が完全踏破するまでは貴方達を信用します。ですが、そこから先は―――覚悟なさい。」
目を細めさせ、見下すような視線を仲間達に向けるヴィスキント。
その様子に、隣の偽神子は何も分かってない様子で未だにふんふんと小躍りをしている。
その対比が凄まじいが、ヴィスキントの視線は本気のようでカロルもそれに悲しそうな顔をして見つめていた。
カロル「ねえ、ベン。〈
ヴィスキント「…現在踏破済みの界層は第10界層…。そこから先はまだ分かりません。資料もありませんので。」
カロル「え、10界層?!」
パティ「誰が踏破しとるのじゃ~?」
ヴィスキント「私しか居ませんよ。」
レイヴン「あんさん、一人であの〈
ヴィスキント「信じてもらわなくて結構。あなた方がどう思おうとこれは変わりのない事実ですから。」
フレン「やはり…ユーリが言った通り、それほど強いってことか。」
ヴィスキント「侮ってもらっては困りますね、騎士団長様?貴方もお強いですが、私もそれより強いと自負していますから。」
リコリス「さっすが、ヴィスキント様~!頼りになります~!」
ヴィスキント「……少々黙ってなさい。」
リコリス「はーい。」
途端に渋い顔になったヴィスキントにユーリが嘲笑う様に鼻であしらえば、二人の視線は再び火蓋を切って落とされる。
しかし二人とも大人だ。
ここで勝負をするような思考はないようで、静かに睨み合い、そして視線を外した。
ヴィスキント「…次の第7界層まで精々各々腕を上げる事ですね。」
それだけ言い捨てると、ヴィスキントはリコリスを連れて退室した。
リコリスだけは気楽に「バイバーイ♪」なんて言って手を振ってきたが…。
ユーリ「一々、腹の立つ奴だな。」
レイヴン「ま、敵さんだしねぇ?仲良しこよしはしないって事なんでしょ。」
カロル「…ベン。」
パティ「まぁ、何にしてもメルク姐が起きたら向こうの様子も変わるじゃろて。」
ジュディス「彼、結構彼女の事気にしていたものね。…親心ってやつかしら?」
レイヴン「それならそれで、酷い気しかしないんだがね~?自分の娘にあんなこと、強要するかね?普通。」
フレン「娘、ですか…。」
パティ「やっぱりそうなると、30は超えてるな!」
リタ「っていうか、越えてないとおかしいでしょ。普通に計算が合わないわよ。」
カロル「え、っていうか。ベンって既婚者だったの?」
「「「…。」」」
謎が謎を呼ぶこの現象を何と呼んだらよいのだろう。
仲間たちは不思議そうな顔をして、お互いを見つめていた。
話は脱線してしまったが、先ほどの宣戦布告を受け取りユーリ達も覚悟を決める。
踏破するまでは、取り敢えず放置しておこう。
でなければ、少女が悲しむだろうから―――