第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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ユーリに手を握られ、よく分からないまま走っている私達。
一体、何が起きているのだろう…?
『な、何が…?』
ユーリ「血塗れの男が追っかけてきてんだよ!」
『え?!』
驚くべきは仲間達が減っていた事だ。
いつの間にかヴィスキント様だけでなく、ジュディスやレイヴン、リタまでも居なくなっている。
『ほかの、人達は…?!』
ユーリ「分からんが、生きてる!絶対に、な!」
気休めなんかじゃなくて、仲間だからこそ信頼出来たのだろうことがユーリの表情からも分かる。
私はそれを信じて前を向いた───否、前を向くしか無かった。
後ろからはまたあの男が狂った笑いをしながら追いかけてきていたからだ。
後ろを見たら命が無い…ような感覚にさせられる。
『はぁっ、はぁっ、』
ユーリ「行けるか?!メルク!」
『がん、ばりますっ!!』
ユーリ「よし!その意気だ!」
カロル達も少女の後ろで挫けそうになりながら走り続ける。
しかしずっとこんな事をしていても、埒が明かない…!
『はぁっ、はぁっ…!っ、ユーリ…!』
ユーリ「どうした?!」
『私がっ、残るからっ…!相手はっ、私を狙って、るんでしょう…?!』
ユーリ「っ、」
それはいつだったか、起きた事件と同じ。
ユーリが怒りに身を任せてしまい、我を忘れた──あの事件を思い出させた。
あの時少女は自分の所為だと、自分が攫われてしまえば誰も傷つかない、と絶望してしまっていた。
だから何度声を掛けても反応が無かった。
それが今回もまた同じ事の繰り返しなら───
ユーリ「…。」
走りながら離そうとした手を何故か余計に強く握られ、私は困った顔でユーリを見る。
何故、ユーリはこの手を離してくれない…?
ユーリ「絶対ぇ、お前にだけ背負わせねぇ…!お前が何と言おうと、絶対に一人にさせないからな?!」
『…!』
また、同じ事の繰り返しだと思った。
また、自分が狙われているなら自分さえ差し出せばユーリ達が苦しむ事は無い──そう思っていたのに。
ユーリ「言っただろ!!辛い時は辛いって言え!他人に甘えろよ!?何で、それが出来ない…?!」
『…!』
ユーリの言葉が胸に刺さって痛い…。
痛みが分からない体の癖に、何故か胸の所に痛みを感じた気がした。
ユーリ「絶対逃げ切るぞ!」
後ろの皆がユーリの言葉に反応して肯定する。
皆、もう息切れをしているのに。
辛いはずなのに。
苦しいはずなのに。
何故そんなに頑張れる…?
───“私を捨てれば済む話なのに”。
『…。』
走りながら俯いた私をユーリが意志の籠った瞳で見る。
私はそれを見つめ返して、口を引き結んだ。
辛い…。
苦しい…。
助けて欲しい…。
でも、それは…みんなを苦しめない…?
少女は苦しそうな顔をしていた。
明らかに助けを求める顔をしていたのに、少女は何も言わない。
ユーリがそれに口を開こうとしたが、先に少女が言葉を口にした。
『はっ、はっ、ユーリ…!』
ユーリ「…!」
『一度っ、応戦しましょ、う!このままでは…っ、追いつかれ、ますっ!!』
ユーリ「それもそうだな…っと!」
ユーリは私から手を離すと、すぐに後ろへと向かい武器を振り翳す。
いきなり攻撃された男は笑いを止め、すぐに回避に専念する。
それを好機と捉えたフレンもまた後ろを振り返り、男へと攻撃を繰り返した。
「「 はぁぁあ!! 」」
「!!?」
二人の一斉攻撃に、男は堪らず後退した。
そして短杖を持ち、男を警戒している様子の少女を悔しそうに見つめ、男は何処かに去って行ってしまった。
後に残ったのは、皆の息を切らしたその音だけ。
呼吸を整えるように皆はその場で座り込んだり、膝に手を付いたりしていた。
『はぁ、はぁ、はぁ…、』
フレン「皆、無事かい?」
エステル「な、何とか…なりました、ね…!」
カロル「あー…、もう僕…歩けない…。」
ユーリとフレンは普段から鍛えているのもあり、息切れも大した事はなさそうである。
子供組は不平不満を溢しながら、もう駄目だと座り込んでしまっていた。
そんな中、少女もまたガクッと膝が折れその場に座り込んでしまう。
慌ててユーリがメルクの顔色を窺えば、呼吸を整えながら困った顔で微笑んでユーリを見た。
カロル「なん、で…あの人、諦めたんだろ…っ。」
エステル「ユーリとフレンの攻撃がそれ程、彼にとって脅威だったからじゃないでしょうか?」
カロル「さすが、2人とも、違う、ねー…」
ユーリ「カロル、大丈夫か?」
カロル「大丈夫って、言いたいけど、しばらくは、休憩希望〜」
パティ「賛成なのじゃ〜………。メルク姐も、流石に、筋力落ちてるから、心配なのじゃ〜…」
ユーリはパティの言葉にメルクを見る。
完全に息が上がってしまっていて、暫くは動けそうに無かった。
ユーリとフレンとエステルで今後の事を話し合っている間、カロルとパティはメルクに話しかけていた。
カロル「メルクがあれを提案してなかったらと思うと、ゾッとするよ…。」
パティ「良い機転だったのじゃ!」
『私、も…限界、だったから…。』
カロル「僕たち結構走ってきたよね? ここって何処らへんなんだろ…?」
パティ「何処となく寒いのじゃ…。」
『もしかしたら…。』
私は3人で座り込んでいた場所から後ろを振り返る。
木々に覆われて見えないが、もしかしたらこの木の向こうには罪過の湖があるかも知れない。
『湖が近かったのかもしれないわね…?』
「「え?!」」
カロル「危なかった…!」
パティ「落ちたら死ぬ、って言ってたやつなのじゃ。そう思ったら本当にギリギリじゃったんじゃなー…。気付かずに走ってたら湖に片足突っ込んどったわぃ!」
カロル「こ、怖い事言わないでよ…。」
『…ごめんなさい。』
「「…?」」
私は2人の顔を見られず、そのまま俯きながら謝る。
私の所為で皆はこんな目に…。
早くヴィスキント様と合流して、この界層を終わらせなければ…。
「「 それは違うよ?/それは違うのじゃ。 」」
何かを悟った2人がメルクを見てそう断言した。
そして2人はそのままメルクに近付き座ると、メルクの手をギュッと握り締めた。
パティ「何度も言うが、全部メルク姐の所為じゃないと思うぞ?」
カロル「そうそう!悩むだけ無駄だって!」
『でも私が居なかったら追われる事も無かったのよ…?それでも違うと言える…?』
カロル「うーん、メルクは考えすぎなんじゃないかなぁ…?」
パティ「うむうむ。」
カロル「あれって、結局誰かが狙われることになっただろうし。ただそれがメルクなだけだと思う。言うなら、メルクって運が悪いなって思うくらいかな!」
パティ「今度パワースポットなるものの所に行ってみよう、メルク姐!そうしたら自然と運も味方につくはずじゃ〜。一石二鳥なのじゃ!」
運が悪い、のかしら…?
確かに…最近運がついてないかもしれない。
思わず2人の言葉に頷き、考え込んでしまう。
カロル「だからさ!深く考えない方がいいよ!メルク。メルクにはメルクの良い所があるんだし。」
パティ「歌とか最高なのじゃ〜。」
カロル「それにさ!メルクが誰と居たいとか、何かをしたいっていうのはメルクでしか叶えられない事でしょ?なら、自分のやりたい事をすればいいと思うんだ!」
パティ「うむうむ…。メルク姐がうちと一緒に居たいというなら一生着いていくのじゃ〜!」
カロル「だからメルクが気にする事じゃないよ。それに気にしても仕方ないじゃん。メルクは運が悪いだけなんだから。」
『う、うん…?』
なんか流されそうになったけど、果たしてそれで良いのか…?
……良いの…だろうか?
カロル「じゃあさ!ここから出たら今人気のパワースポット巡りしようよ!それで運が上がったら儲けじゃない?」
パティ「メルク姐も狙われなくなるし、良いと思うぞ?」
『…。』
それで狙われなくなるというのなら、何度でも通いたいものだ。
私は2人にようやく「うん」と頷いて見せた。
すると顔をあからさまにパァと明るくし、地面に何かを書き始めていく2人。
それを見ると、ちゃんと題名が施されていた。
──“メルクと行く、パワースポット巡りの旅”
いやにシンプルな題材だが、今の私にはくすりと笑えるものだった。
実に子供らしい、可愛いお題である。
その下にはツラツラと何処かの名称が書かれており、見たことも聞いた事もない場所まで記されているものだから、「ほぅ…」とそれらを魅入ってしまう。
ユーリ「何だ?今度は旅行でも考えてんのか?」
カロル「ちょっと!ユーリは見ないでよ!」
パティ「そうじゃそうじゃ!これはうちらの考えた作戦なのじゃ!!」
ユーリ「何だよ。んな寂しい事言うなって。」
フレン「…本当にここに行くつもりなのかい?」
「「フレンも見ちゃダメ!!」」
フレン「ご、ごめん…。」
エステル「何が書かれているんです?」
作戦会議も終わったのか、ユーリ達がこちらに来た事で一層賑やかになる。
カロルとパティはどうしても3人に見せたくないのか、地面に書いた文字に覆い被さる様に守っているのが……子供らしくて思わず微笑んでしまう。
ユーリ「何だよ。別に俺たちが見ても良いと思うよな?メルク。」
『あらあら、ふふ。これは秘密、かしらね?』
「「ほらね!?」」
ユーリ「メルクまで…。」
フレン「まぁ良いじゃないか。その内きっと彼らも教えてくれるよ。」
パティ「その時は全てが終わった時なのじゃ。」
カロル「そうそう。」
2人は腕を組み、何度も頷いている。
どうやらこの話は私達3人だけで共有するものらしい。
さっさとカロルが地面に書かれていたものを消してしまい、結局何処に行くか決まらないまま私達はスラム街まで戻ることにしたのだった。
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血塗れの男が居なくなったからか、私達が戻ってきたスラム街は草臥れた子供達で再び溢れていた。
道ゆく私達を見てはすぐに視線を逸らせ、我関せず、と言った雰囲気を出し歩き去っていた。
カロル「相変わらずだね…?」
ユーリ「ま、こっちはこっちで好きにさせてもらおうぜ?」
パティ「じゃな。」
『歓迎はされてないようです。』
フレン「それどころか、まるで外の人間を忌み嫌っているようですね。」
私達がスラム街を歩いているそんな時、私の耳に誰かの助けを求める様な声が聞こえた。
…この声、聞いたことがない。一体だれ…?
私が耳を澄ませたのを見て、ユーリが静かに警戒を強める。
…右?……いや、左?
私が声の主を探そうとふらりと一歩前に出れば、皆が不思議そうに私を見た。
『…だれ?』
ユーリ「メルク、どうした?」
『何か声が聞こえるの。助けを求める様な、そんな声が…。』
「「「???」」」
ユーリ達もメルクに倣い耳を澄ませてみたが、やはり聞こえてこない。
最近そう言うことが多発している為、ユーリ達はメルクを疑わずにそのままメルクを注視する。
すると少女はまるで何かに誘われる様に足を進めていた。
『(聞こえる…!)』
突然歩みから、走りへ変わった少女の後をユーリ達が慌てて追いかける。
少女の足取りは確かで、ちゃんと目的地がある様な走り方だった。
ユーリ達はただ少女を追いかけていく。
しかし、その道中のことだった。
「みーつけた!」
周りの子供たちが蜘蛛の子を散らす様に慌てて走り去っていく中、血塗れの男がユーリ達の前に現れる。
少女が前を走っていた上に、子供たちが散開していくものだから肝心の少女を見失ってしまったではないか。
ユーリ「っ!メルク!」
カロル「やば…!離れちゃったよ?!」
パティ「どうするんじゃ?!ユーリ!」
ユーリ「どうもこうもねぇだろ!こいつを倒してから探しにいくぞ!」
早く行かないと、いつの間にか攫われてしまうような儚い少女なのだ。
メルクを狙っていたであろう、目の前の血塗れの男を倒せば少しはメルクも心安らかになれるだろう事は仲間なら誰しもが思った事だ。
ユーリ達は、そのまま武器を持ち血塗れの男と対峙した───