第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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「「「 神子様~! 」」」
とある村で疫病が流行ったという噂を聞き、霊薬アムリタを持った神子が清楚な振る舞いで村人に薬を分け与える。
リコリス「…これは、私の大事な薬師が作った薬です。更に私がこれに神子の祈りを込めた物ですから、効果は絶大なはずです。これを病人へ使ってください。」
いつもの賑やかさは何処へやら、どうやら他の顔も出来るらしい神子様を横目に私は周りの人達を確認する。
疫病というからには何かあるだろうと思うのだが…。
「神子様…!それに薬師様も…!ありがとうございます…!!」
「これでもう誰も死ななくてすみます…!!」
リコリス「えぇ。もうこれで大丈夫ですよ? 貴方がたに、ユグドラシル様のご加護があらんことを…。」
「「あぁ…!神子様…!」」
恍惚な表情でリコリスさんを見て、そして地面に伏して祈るポーズをした村の人。
信者ではなかった為か、その服装は白装束ではない。
後ろに控えていた信徒たちが村の人相手に白装束を配っているのを私は見つめていた。
これで、着々と信者が増えてきている…。
流石アビゴール様とヴィスキント様が考えられたシナリオ…。
疫病は予想外だ、とお二人は言っていたがそれさえも好機に変える辺り…お二人にはそういう才能があるのだと感じさせられる。
「薬師様、ありがとうございます…!今までの皇帝とはまるで違います…!」
『…そうなんですか?』
「えぇ!今までの騎士や皇帝はこんな下賤の者たちは見捨てなさる…!!上級貴族だけを贔屓にしておられたのです…!それに…薬師様も騎士団に攫われてお可哀想に…。」
『…。』
あれは皆が助けてくれた、と言えればどんなにいい事だろう。
でもそれは今は言えない。
こちら側に居る私には、そう言える資格は…ないのだから。
「村は救われました…。ありがとう…、ありがとうございます…!」
リコリス「では、私共はこれで。」
リコリスさんがお淑やかに去っていくのを、白装束に着替えた村人が地面に顔をつけ感謝の意を表した。
…本当に感謝されているんだ。
複雑な感情が湧き上がってきて、それを首を振って思考を余所にやった所で私もリコリスさんを追いかける。
リコリス「ぷはぁ…。」
『あらあら、ふふ…?お疲れ様です。』
リコリス「う~ん。神子ってやりがいはあるけど、ちょ~っと窮屈よねぇ?」
村から離れた私たちはそのまま〈
〈
リコリス「無事に帰ってきてね…?メルクちゃん。」
『はい。ヴィスキント様も一緒ですから大丈夫です。』
リコリス「それでも大変な場所なんでしょ?アブゴール様が仰ってたわ~。"よくあの二人は行けたな"って。」
『ふふ…!それってアビゴール様の真似ですか?』
リコリス「あ!分かってくれる?!これやると、アビゴール様呆れるのよ~。結構似てると思うんだけど~。」
そうやって笑いながら二人で〈
途中は船が必要だから、ヴィスキント様が港で待っているはずだ。
リコリス「あ!ヴィスキント様~!」
ヴィスキント「…もう少し神子らしくなさい。周りに信徒たちが居たらどうするおつもりで?」
リコリス「げ、説教モードだ…!」
ヴィスキント「説教モード、と名付けるくらいなら普段からしっかりしていただきたいものですね?」
いつもの素のヴィスキント様ではなく敬語姿のヴィスキント様は、私には珍しくて少しだけ驚いた顔で二人を見つめる。
すると二人も不思議そうにこちらを見るので、笑顔で首を振っておいた。
リコリス「さ、行くわよ~♪」
ヴィスキント「はぁ…。言った傍からあなたという人は…。」
船に乗り込んだ私達だったが、すぐに目的地である〈
そこにはもうすでに信徒たちが集まっていて、神子を見た瞬間地面に頭を伏せていた。
「「「 神子様、教祖様、万歳!! 」」」
声が揃ったそれは最初は恐怖でしかなかったが、段々と慣れてしまっていた。
私たちはそのまま〈
アビゴール「信徒たちよ!今日この時、神子様の体を治すために我らが薬師ともう一人の教祖が〈
「「「 教祖様!薬師様!万歳!! 」」」
信徒たちの前に立つ私たちは静かにその光景を見つめる。
私は緊張で顔を俯かせていたが、隣に居る二人が小声で声を掛けてくれる。
リコリス「大丈夫…!メルクちゃんならやれるよ…!」
ヴィスキント「……緊張するのはいい事ですが…私が付き添うという事を忘れないでください。貴女を踏破させるために私が居るのですから…。」
『…はい…!』
私は意を決して俯かせていた顔を上げる。
すると信徒たちも丁度顔を上げた所だった。
アビゴール「では、健闘を祈るのだ!!」
「「「 ユグドラシル様のご加護があらんことを!!! 」」」
ヴィスキント「…行きますよ。」
『はい。』
私とヴィスキント様は歩き出す。
〈
『……やっぱり緊張します…!』
ヴィスキント「フッ…。貴女にはそれくらいがちょうどいいかもしれませんね。」
今はもう近くにリコリスさんは居ないのに、変わらず敬語で話すヴィスキント様は扉に手を置いていた。
そして何か呪文のようなものを唱えたかと思えば、聞き覚えのある声が頭上からしたのだ。
…うそだ、ここに居るはずがないのに。
流石に聞き馴染みがあり過ぎた声にヴィスキント様も目を見開き、背後振り返った。
しかし扉は既に開かれてしまった。
ユーリ「メルクっ!!!」
何故か白装束を着た皆が上から降り立ってきていた。
流石にアビゴール様のシナリオにもそれは無かったのだろう。
向こうに居る二人の表情が驚きに顔を染めていた。
ヴィスキント「チッ…!早く門の中へ!!」
『は、はい…!』
「「「 メルク!! 」」」
私は逃げる様に〈
だって私が居ると皆は"不幸になってしまうから"。
空間移動特有の浮遊感が襲ってきて、ぎゅっと目を閉じた私はそのまま浮遊感が終わるのを待つ。
そして浮遊感が無くなったその先―――
目を開けた先は何処かの街道だった。
『ここ、は…』
ヴィスキント「チッ…!ふざけんな…!」
私の横に降り立ったヴィスキント様は背後を振り返り、武器を手にしていた。
そして白装束姿のユーリ達もゲートを通ってきたのが分かった。
だって、目の前には彼らが居たのだから。
息を呑む私にユーリ達は必死にこちらに声を掛けてくれた。
でも、でも私は―――
『っ、』
「「「 …!! 」」」
思わず後退してしまっていた。
それを見たヴィスキント様は、頭を掻き舌打ちをした。
ヴィスキント「チッ、一時休戦です。この〈
『…。』
それって、少しだけでも彼らと一緒に居られるってこと…?
思わず思い描いてしまったそれに私は慌てて首を横に振る。
ヴィスキント「…ともかく、今は休戦です。」
カロル「ベン。メルクを返してくんない?」
ヴィスキント「…休戦だと言ったのが聞こえませんでしたか?三度も言いましたが?」
カロル「それって……話してもいいって事?」
ヴィスキント「勝手になさい。それよりも今は彼女の精神安定を図るのが先です。…ここは~〈
それを聞いた皆は恐る恐るだが、私の近くに寄った。
そして無事を喜んでくれて、心の底から嬉しかった。
…でも私は罪悪感から思わず俯いてしまった。
エステル「メルク…。」
『ごめんなさい…。私の所為で、けが人も出して…街も……。』
カロル「違うよ!あれはメルクの所為なんかじゃない!!」
ユーリ「そうだぜ?こいつらが悪いんだからよ?」
そう言ってユーリはヴィスキント様を睨んでいた。
それを睨み返すヴィスキント様は流石というべきか、なんというか…。
二人の間にヒュオ~と冷たい何かが過ぎった気がして、私は思わず身震いをした。
それを見たヴィスキント様は、大きく溜息を吐くと私の頭へと手を伸ばしてきた。
ヴィスキント「…ともかく今は、何も怖がる必要はありません。こんなに味方が居て、何を臆する必要があるのですか。」
「「「 え?! 」」」
ヴィスキント「…何ですか。」
リタ「あんた、敵でしょーが!」
レイヴン「ちょっと、ちょっと!何勝手に仲間扱いにしてるのよ!!」
ヴィスキント「野垂れ死にしたければどうぞ。私は彼女と二人で行きますので。」
カロル「んー…。」
それでもカロルは何か思うところがあるのか、悩んでいるようだった。
私は困った顔でヴィスキント様を見ると、再び困ったように頭を掻かれていた。
カロル「……うん、一緒にいこうよ!」
「「「 はぁ?! 」」」
リタ「ちょっと、あんた頭沸いたの?」
カロル「今までもそうだけど、ベンが悪いことしてるってのはもちろん知ってるんだ。でもこれは良い機会じゃないかなって。」
ユーリ「良い機会?」
カロル「うん。お互いを知れる良い機会なんじゃないかな?あわよくば情報交換したいしね!」
レイヴン「まぁ……少年の言い分も分からなくはないけどねー?」
敵を知るならば確かに良い機会だろう。
元々ヴィスキント様は全員で行く事を決めていたみたいで、それには何も言われなかった。
ユーリ達も渋々といった感じで頷いたのを確認したヴィスキント様は、皆に向き直った。
ヴィスキント「貴方達がどうなろうと知ったことじゃありませんが、……彼女のためにもここでは生き残ることを優先して下さい。分かりましたね?」
カロル「はーい。」
それほどまでに精神安定が必要な界層なのだろう、と全員が首を縦に振った。
私はどうしていいか分からないまま、その場で立ち止まっていればパティが私の手を取った。
パティ「メルク姐。あの事件はメルク姐のせいじゃないから気にしなくて良いのじゃ!それに吉報もあるのじゃ!」
カロル「僕達、あれから街の復興を頑張ったんだよ?」
リタ「ま、見れるようにはなったわね。」
フレン「寝床も確保出来ていますし、何より、メルクさんが残して下さった野菜の種たちが役に立っているんです。」
『…私が残した……?』
ユーリ「メルクの病室に野菜の種置いてたんじゃないのか?」
『…あ!』
そう言えば、騎士の皆さんと野菜を作ってる際に他の野菜を育ててみたいって話から、野菜の種をカバンから出していたんだ…!
パティ「その種がちょうど発芽したのじゃ〜。しかもじゃぞ?!ちょーど、メルク姐が寝ていた場所を中心に広がってたのじゃ〜。神秘的じゃろ?!」
ヴィスキント「……神子の力ですね。」
『え、そんな事が可能なのですか?』
ヴィスキント「神子は通常、その力を垂れ流ししているものですから貴女がずっと寝ていたところには“マナ溜まり”と呼ばれるスポットが発生していたはずです。ですから野菜の種が勝手に発芽し、生育出来たのでしょう。」
パティ「やっぱりそうなのじゃー!メルク姐のお陰じゃな!」
『私の、おかげ……?』
ニコニコと笑顔で頷くパティに私は困った顔で頷いた。
でも、皆の役に立てたならそれは嬉しい。
カロル「あ、そうだ。メルク、これ渡しておくね!」
そう言ってカロルがカバンから取り出したのは、例の眠気を抑える薬だった。
私がお礼を言いながら受け取ると怪訝な顔で私を見るヴィスキント様がいた。
ヴィスキント「……貴女、身体は治ってなかったのですか?」
『あの、身体は治ったのですが……。』
言い淀む私を見て、更に怪訝な顔で見てこられたので、私は慌てて今までやったことのないアイコンタクトを試みてみた。
恐らくあの顔は分かってないだろうが、ヴィスキント様が頷いたのでホッと安堵する。
ヴィスキント「……(アイコンタクトにしては瞬きが多するがな……?)」
あまりにも少女が必死に瞬きを繰り返すものだから、可笑しくてヴィスキントはフッと笑いを零した。
すると皆が驚いた顔でヴィスキントを見る物だから、ヴィスキントの顔が再び歪む。
ヴィスキント「……何です?」
レイヴン「いや……あんさん、そんな顔出来るんだなって。」
ヴィスキント「誰も彼も私を何だと思ってるのですか。……人間ですよ?」
『ふふ…!』
次はメルクが笑った事で全員の視線が少女へと向けられる。
慌てて取り繕った少女はそのまま顔を赤く染め、俯いてしまった。
『(だって……ヴィスキント様……この間と同じ言葉だったから…つい可笑しくて……。)』
ヴィスキント「……ふん。」
少女の笑った顔を見てヴィスキントも前日の事を思い出して笑う。
二人のその様子に、今度はユーリ達も怪訝な顔になっていく。
カロル「ベンとメルクって仲間良いんだね!」
「『……。』」
お互いを見てしまった二人はお互いにキョトンとした顔をしていたからか、二人して笑う。
ヴィスキント「まぁ、彼女の事は子供の頃から見ていますからね。」
『ヴィスキント様は元々お優しい方ですから。つい心を許してしまいます。勿論緊張するときもありますが…。』
ヴィスキント「……貴女、私の前で緊張することあったんですか?」
『え?あ、はい…。たまにありますよ?』
ヴィスキント「……それは知りませんでしたね。」
『結構顔に出ていたと思いますが……。』
はて、と二人して首を傾げる。
それを見て面白くないのがユーリ達である。
敵と仲良くしているのが、複雑なのだ。
『ヴィスキント様も顔に出やすいですから、何となく察しますよ?』
ヴィスキント「……以後気をつけましょう。」
『あらあら、ふふ。頑張ってくださいね?』
何だかんだ仲良さそうにしているので、困惑したり複雑な気持ちにさせられたがようやく、メルクもユーリ達を少しずつ見れるようになってきていたので安心していた。
パティ「ここのヌシはどんなのなんじゃ?」
『……そう言えば私も知りませんね?』
カロル「僕もだ。」
ヴィスキント「ここは罪人が蔓延るエリアです。その罪人の中でも特に酷い罪人がいるのでそれを探し当てる界層になります。」
「「「 えぇ……? 」」」
それは難しい……。
ただでさえ罪人なのに、その中でも酷い罪人とは……?
ヴィスキント「……特に、貴女みたいな純粋で優しい心を持つ人間が一番惹きこまれやすいのです。罪人の言葉に耳を傾けないように。」
『は、はい……。』
注意を貰った私はしゅんとして、ここでは大人しくしておく事にした。
ジュディス「謎解きなら貴方達に任せるわ。」
パティ「うちもパスなのじゃ〜。」
ユーリ「俺もだな。」
フレン「あとの者達で頑張りましょう。」
「「「 おー! 」」」
『……おー?』
ヴィスキント「貴方は大人しくしてなさい。」
『は、はい……。』
こうして一行は、第6界層へと挑むことになった。
果たして、貴女達は罪人を見つけられる?