第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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___パーティが終わった後の夜中
皆で片づけをして、皆それぞれ床に就いたその夜。
私は相変わらず一人簡易病室で休ませてもらっている。
扉の向こうではカリュとサリュも疲れているだろうに、辺りを警戒して私の安全を守ってくれている。
それに申し訳なく思いながら甘えさせてもらっている。
パーティのあと、ユーリは私に何かを言いたそうにしていたけど逃げる様に私はここに戻ってきていた。
これ以上ユーリの傍に居ると、ボロが出そうで…。
それは聞かせてはいけない私の使命なのに。
つい、心が緩んでしまって
つい、零しそうになる。
…弱音を吐いてしまいそうになる。
今日はたくさん泣いたからか、私はすぐに瞼を閉じた。
そして夢の中に旅立ったのだ。
しかし、何故か体が圧迫されているような感覚。
呼吸が苦しくて、私は目を開けた。
「けへへ…。 よォ? か弱くて病弱そうなお姫サマ?」
『っ?!』
夢だ、これは夢なんだ。
咄嗟に扉を見れば、そこには血を流して倒れているカリュとサリュが居た。
口を手で塞がれている上に、男が私の上に乗っかっていて息苦しい。
片手をベッドに縫い付けられたように男の手がキツく押さえている。
なけなしの力でもう片方の手で男の胸を押せば、男は可笑しそうに笑った。
「ハハッ!そんなか弱い力で俺が押しのけられるとでも思ってたのかぁ?お姫サマ?」
『んー、んっ!』
「悪いが、騒がれたら困るんでね。口は塞がせてもらうぜ?」
ビリビリと粘着テープの音がして私の口を瞬時に塞いでしまった。
これじゃあ、詠唱も出来ない…!
「こーんな無防備に寝ちゃって…。可愛いねェ…?攫われる可能性があるっての、分かってないんだなぁ?」
『んーー!!!』
「けへへ…。誰も助けに来ねーよ。今頃、お仲間たちは必死に逃げてるだろーしな?」
『(どういうこと…?)』
すると鼻についたのは、何かが焦げた匂い。
それだけで何かが燃えてるって事がすぐに分かった。
「さーて、お姫サマ?ここで俺と楽しい事してもいいんだが…、あんたを攫ってくるよう依頼されてるんでね?俺と一緒に来てもらうぜ?」
『んぅ?!』
「けへへっ…!!あぁ…相変わらず、攫い甲斐のあるお姫サマだ。そんな可愛い声を出されたら―――たまんねぇだろ?」
嗤いながら縄を持つ男に両手を後ろで拘束され、ニヤニヤと卑しく笑う目の前の男に恐怖の眼差しを向ける。
それに堪らないという顔をした男は私を軽々と持ち上げてしまった。
「さて、行くとするか。」
『んんっ!!(サリュ…!カリュ…!)』
血を流しているのだ。
無事ではない事が窺える。
せめて彼らを回復させたいと思うのに、身体は男に抱えられ彼らから遠ざかっていく。
「―――――!!」
『!!』
遠くから彼の声が聞こえた気がした。
それに応えたくて、私は口を塞がれている中、精一杯抵抗を試みる。
『んぅぅ!!!んーー!!』
「そんなに可愛らしい声を出してくれるなよ。それにそんな力じゃあ解けねえだろ?」
男が窓から外に出ようとしたその時、
ユーリ「メルクっ!!?」
「あ?」
ユーリ「てめえ、性懲りもなくまたメルクを!!」
「なんだ、逃げてなかったのか。もう火の手がすぐそこまで上がってただろぉ?」
ユーリ「あぁ、そうだな…!やっぱりお前らの仕業か!!」
『んー!!!(ユーリ…!)』
「撹乱作戦は失敗だな。真っ先にここに来るとは、その度胸は認めてやるよ。だが何もかもが遅すぎるなぁ?予想くらいできただろ? あんたらの消息が分からず困っていた時にあんたらが〈
ユーリ「てめぇ…!!」
後をつけられていたなんて…。
まさかそんなことになってるとは思わず、私は頭が真っ白になりそうだった。
私が薬草を取りに行くって言わなかったら、皆は住処を奪われてなかったし、サリュもカリュも怪我をしていなかった…!
「おーおー、可哀想になぁ?震えてやがるぜ、このお姫サマ。自分がここに居なけりゃ、こいつらだって安らかに過ごせてたのによ~?」
ユーリ「!!」
「それにこうやって迷惑をかけることもなかったのになぁ?!!」
ユーリ「やめろ!!!それ以上言うな!!」
メルクは静かに涙を流していた。
その瞳は絶望の色が浮かんでいた。
それを見たユーリが息を呑んで、急いでメルクに話しかける。
ユーリ「メルク、今助ける!!だからそいつの言う事を聞くな!!」
「お姫サマよぉ?もう分かってんじゃないのか?自分の置き場所くらいな?こんな温い場所なんかじゃなくって、もっと自分に相応しい場所ってもんがよ?それに何度こっちに来ようが、俺たちが何度だって攫ってやる。何度も、何~度も、何度だってなぁ?!!アッハハハハハ!!!!!」
『…。(わたし、…やっぱりここには……)』
ユーリ「メルク!!」
声を発さなくなったメルクにユーリが必死に声を掛ける。
しかし、その少女の瞳は涙が乾ききって、何処か分からないところを映し出すだけになっていた。
「さて、お姫サマがお人形になっちまったから、そろそろ撤退するか。」
そんな男にユーリが武器を翳す。
その怒り狂った剣先は……瞳は、憎しみに満ち溢れて男を射抜いていた。
それをメルクを持ったまま避けた男。
そのまま窓の外に逃げようとして失敗する。
仲間達が外に回り込んでいたからだ。
カロル「メルク!大丈夫だよ、今助けるから!!!」
レイヴン「随分と派手にやってくれるじゃないのー。」
ジュディス「また一から作り直しね?でもどうせ、拡張工事もいったのだし丁度良かったんじゃない?」
「ハッ!流石に何度も同じ手は通用しないってことか!流石にお姫サマで遊びすぎちまったなぁ?」
男は余裕そうなその表情を崩すことなく仲間達を見遣る。
後ろには怒り狂ったユーリ。
そして前方は仲間たちが逃がさないとでもいう様に広がり逃げ場がなさそうに見える。
「残念だったなぁ?お姫サマはもうそっち側にはいかねえぜ?」
カロル「どういうこと…?」
「なんせ、何度も何度も自分のせいでこうやって不幸になっていく人間がいるんだからなぁ?そうだろ?お姫サマ?」
『……。』
レイヴン「っ!(メルクちゃんの様子がおかしい…!それに青年の様子も…。)」
男はニヤニヤと抱えているメルクを見る。
しかし俯いて何も発さない少女は、既に心を壊していた。
涙も流さず、為すがままの少女に仲間達が不穏な気配を察知した。
「今日この時から!お姫サマは生まれ変わるのさ!ユグドラシル教の神子サマ専属の薬師としてなぁ?!信者たちは大喜びだろうさ!」
レイヴン「メルクちゃん!!そっち側はダメだ!」
『……。』
カロル「メルク…?」
パティ「なぜ黙っとるのじゃ!!メルク姐はこっち側の人間じゃろがい!!」
『……。』
何故か黙っている少女に男は溜まらないとばかりに大声で嗤う。
「案外、今日で攫うのは最後かもしれねえなぁ?あぁ、惜しい事をしたぜ。」
ジュディス「話はそれだけかしら?それならさっさとその子を置いてどこかに行ってもらえないかしら?」
「けへへ…。そうもいかねえなぁ?こっちも"瑠璃色の少女"を攫ってくるよう、依頼されてるんだからよ?」
レイヴン「やっぱり奴らか…!」
そんな中、ユーリは男を背中から切りつけようとして失敗する。
男があまりにも身軽に避けたからだ。
何度も何度も単調に攻撃を繰り返すユーリに、仲間達は呆然とする。
あんなユーリ、見たことがない、と。
ユーリ「~~っ!!!」
「ハハッ!!それで攻撃したつもりか?!!」
フレン「ユーリ!!頭に血が上り過ぎだ!!!」
幼馴染の彼の言葉でさえ、聞こえていない様子で既にバーサーカーと化しているユーリ。
カロル達も武器を持ち、男を攻撃しようとするが男は懐から煙幕を取り出すとそのままカロル達に向けて投げ捨てた。
一瞬にして煙幕が辺りを包み、誰が何処にいるのか分からない状態になる。
煙が晴れた時にはもうそこには男の姿も、少女の姿もなかった。
残されたのは頭に血が上っているユーリと、愕然としている仲間達だけだった。
後ろには火の手が上る。
苦労して作った町も今や見る影もない。
焼け跡からは騎士たちが頑張って育てていた野菜の跡があった。
幸いにも死亡者はいなかった。
怪我人は何人もいるが、医者たちが寝る間も惜しみ頑張ったおかげで重傷者もいなかった。
だが、そこには全員が愛してやまない少女の姿は無い。
今日の朝、あんなに優しく手を振ってくれていたのに。
あんなに泣きながらパーティを喜んでくれていたのに。
そんな少女の姿は何処にもないのだ。
___街の空気は未だかつてないほど冷え込んで、そして暗く、眠れない夜を過ごす。
次の日、復興する皆の手は…何かがのしかかっているように重くなっていた。