第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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『…う、ん…。』
私が目を覚ませば、既に帰還していたのか例の病室だった。
簡易的に作られた病室で、今は私しか使われていない場所…。
ウェケア大陸に越してからは、ギルドの方たちの恩賞で町が出来たのだとか。
それを聞いてギルドの人間として申し訳ない気持ちが湧き上がってきたのだが、そんな私に皆は「メルクの所為じゃない」と言ってくれたのが救いだったのを覚えている。
……千寿草を探して第3界層へ行った後の事を覚えていない。
結局千寿草はどうしたのだろうか。
医「お目覚めですね。」
『…!』
お医者様がゆっくりとこちらに歩み寄ってきたのを見て、私は体を起こしてベッドの淵に座ろうとするがやんわりと止められた。
医「ゆっくりしててくださいね。今はお疲れでしょうから。」
『あ、いえ。大丈夫です。』
医「そうですか。では、ゆっくりと起き上がってくださいね?急に起きると眩暈がしますから。」
『はい。』
言われた通りにゆっくりと起きてベッドの淵に腰掛ける。
眩暈もなく起きれた私にお医者様はにっこりと笑いかけてくれた。
医「調子は良さそうですね。」
『はい。寧ろ、体が軽いくらいです。』
医「…体が軽い…?ふむ、そうですか。」
『この間、ユーリに言った時もそんな顔をされました…。』
医「失礼しました。メルクさんを心配させるつもりは無かったのですが…。少し驚いていまして。」
『やはりおかしいですかね…?』
医「少々、気になりますが…ともかく今は大丈夫でしょう。」
そう言って医者は私の近くにしゃがむと、私の手を取って脈を計ったりと簡単な診察をしてくれる。
手に持っていたカルテに何かを記入していくのを静かに見届けていると、薬草の話を持ち掛けられた。
医「薬草、ありがとうございました。おかげで沢山作れそうですね。」
『あそこは宝の山でした…。まるで夢のような場所です…!』
医「ムフフッ…。メルクさんでもそんなに興奮することがあるのですねェ?」
『あ、失礼しました…。』
思わず顔を赤くして俯くと、お医者様が笑い出す。
本当、植物のことになると我を忘れてしまっていけません…。
反省しながら、千寿草の事を聞くとどうやらお医者様が預かってくれていた様子だった。
医「調子も良さそうですので、早速調合に入りましょうか。」
『はい…!』
気を取り直して私たちは簡易実験室へと向かう。
その道中、騎士の方たちが居て気さくに手を振ってくださったので私も笑顔で手を振り返す。
行く人行く人、私を見ては笑顔で挨拶を交わしてくれて……何だかそんな日常的なことがホッとしてしまう。
行く先…死が待ち受けていると分かってしまったら、この光景が大事に思えてしまって。
私は精一杯笑顔を見せて手を振り返した。
……心から、笑えていたでしょうか?
医「…。」
そんなメルクの様子を見て医師が何かを考えこむ。
果たして、その考え事はメルクの未来の事だったのか―――本人にしか分からない。
『着きましたね。』
医「えェ。では早速やってしまいましょう。心の準備はよろしいですか?」
『はい!』
私たちは手分けして調合を開始する。
一人は千寿草をすり潰すところから。
一人は器具の消毒から始めて、ぬかりなく準備を進めていく。
お互いにやる事をしたら調合を開始した。
濾過作業に液に浸す作業、途中機械で撹拌させたら…
『出来ました…!』
医「完成ですね。いやはや、素晴らしい手際でした。」
完成された漢方を袋に包んで、一つは早速私が服薬する。
ごくりと飲み込まれた苦めの漢方。
でも味覚の分からない私からするとそれはただの粉でしかなく、それが……寂しい。
医「効果は今日の様子を見て、ですね。薬剤師であるメルクさんの調合なので間違いはないとは思いますが、念のため経過観察としましょう。」
『はい。そうしましょう。』
医「これだけあれば優に2か月分はありそうですねェ?」
『これでも足りなければまた取りに行きますね?』
医「代替品も考えておいて損は無いでしょう。いつ、あのゲートが消えてしまうか分かりませんから。」
『そう、ですね…。』
あのゲートが消えるなんてことがあるのだろうか。
ユグドラシル様が発現させたあの〈
私は少し俯いた後、代替品を思い浮かべるべく口元に手を置いた。
それは私がいつもする、考える時の癖だった。
『……代替品。』
医「私が提示する気付け薬では、メルクさんの体がもちません。それこそ長期的に服用するのであれば猶更です。」
『確かに…そうですよね。』
漢方ではない錠剤タイプは薬効が強い分、身体に負担がかかりやすい。
いつまでも眠れない様にするには些か不安が残る。
それに夜も眠れなくなってしまう。
それでは体調を崩しかねない、とお医者様は言ってくれているのだ。
『……今のところは、思い付きません。お役に立てず申し訳ありません…。』
医「いえ、こちらこそ。メルクさんの主治医ですのにお役に立てず…」
『そんなことはありません!十分に良くしてもらってます!…お医者様が私の主治医で良かったです。』
医「メルクさん…。……そうですか。医者冥利に尽きますね。」
お医者様は微笑みながら私を見ていた。
そんなお医者様へ、私も笑顔で返した。
…あと、どれくらいお医者様と話せるんだろう。
そんな事を思った―――思ってしまった。
ユーリ「メルク起きてるか?」
『はい、起きてますよ?』
ユーリ「やっぱ、ここだったんだな。で?薬は出来上がったのか?」
『丁度完成した所だったんです。』
ユーリ「敬語。」
『あ、』
中々慣れてくれない敬語にユーリは呆れたような顔で私を見つめた。
お医者様も眉根を下げて笑っていて、私も困った顔で笑っていた。
『でも、2か月分しか出来なかったからまた時が来れば第3界層に行かなくちゃいけないわ?』
ユーリ「ま、その時はその時だな。取りに行くのは全然構いやしねえが…絶対に一人で行こうとすんなよ?お前、植物が目の前にあると我を忘れるんだからな?」
『う、気を付けます…。』
医「ムフフッ…!」
『そういえばユーリ。私に用事?』
ユーリ「あぁ。そうだったな。悪い、ちょっとこいつ借りてくわ。」
医「どうぞ。無理ない程度で楽しんできてくださいね。」
『??? 楽しむ…?』
お医者様の言葉に私は首を傾げつつ、ユーリによって手を引かれ強制的に実験室から外に出された。
そのままユーリは私の手を引っ張って何処かへ行こうとする。
でも肝心な場所までは教えてくれなかった。
『ねえ、ユーリ。どこに行くの?』
ユーリ「ん?そりゃあ、お楽しみってやつだな?」
『?????』
連れて来られた場所は食堂だった。
そしてそこには―――
パァン!
『っ!?』
「「「メルク、いつもありがとうっ!!!」」」
騎士の皆や、カロルやパティ…仲間の皆―――
それぞれクラッカーを手に、こちらに向かって鳴らしていた。
目を丸くさせる私に隣に居たユーリはクスクス笑っていた。
突然の事過ぎて、理解が追いつかないでいるとカロルとパティが私に寄ってきてその手をゆっくりと握る。
そして、皆の居る場所の中央に優しく誘ってくれた。
『――――』
感極まりそうになりながら、その中央に行けば皆の笑顔があって。
エステルとリタが手に鮮やかな花束を持ってこちらに傾けてくる。
「「いつもありがとうございます。/いつもあんがと。」」
リタは照れながらその花束を渡してくれて、エステルはいつもの優しい笑顔で花束をくれた。
それを受け取って私はしばらくその花束を見ていたけれど、気付けばこの食堂全体に沢山の植物が飾られていた。
きっとここまでするのに苦労は計り知れないほどあったに違いない。
ここはウェケア大陸。
草木が育つには厳しい環境だと、この間も野菜の栽培で分かっていたのだから。
集めるにしても人目をはばかる様にここに移り住んだと聞いていたので、並々ならぬ苦労があったはずなのに。
なのに、
私のためだけに、
ここまでのことをしてくれて―――
『――――』
「「「「「「…!!!」」」」」」
頬を濡らす涙が溢れて仕方がなかった。
何故、こんなにも私のためにやってくれるんだろう。
それはいつだったか、アルストロメリアが降ってきたあの日だってそう。
苦労は半端ないはずなのに、何故皆はこんなにも良くしてくれるのだろう。
私は皆に、何もしていないのに。
私は皆を、裏切った存在だというのに。
カロル「メルク。ここに居る皆はね?メルクが大好きだから集まってくれたんだよ?」
エステル「騎士の皆さんからも聞きました。ここにいる皆のために食糧難を救ってくれたのだと…。その事についてヨーデル皇帝も喜んでいました。皆に代わって私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます、メルク。」
リタ「アンタのおかげで、少しは私の研究も前進してるのよ。……だから、ありがと。」
レイヴン「素直じゃないねえ?天才魔導少女は。」
リタ「うっさいわね!いいでしょ、別に!」
フレン「僕からも騎士を代表して言わせてください。ご自分が辛いときにここにいる全員を救ってくださってありがとうございます。貴女のその力で、どうかこれからも指南してやってください。」
「「「お願いします!」」」
見たことのある騎士たちを見かけて私は驚いた。
あれは確か、菜園を担当していた騎士たちだったからだ。
苦労していたのは彼らも同じなのに、あんなにも素直にお礼を伝えてくれる。
それが今の私には響いて仕方がない。
余計に流れゆく涙に、私が花束で顔を隠せば辺りは笑いにあふれた。
優しい笑顔に、優しい笑い。
『わ、たし……なんにも、出来て、ないのに…。』
「「メルク姉!/メルクお姉さん!」」
ココとロロが駆け寄ってきて、笑顔を見せてくれる。
ココ「おれ、メルク姉のおかげで夢が出来たんだ!市民を守る騎士になるって―――メルク姉みたいな人を助けれる騎士になるんだって思ったんだぜ!」
ロロ「ぼくも同じです…!メルクお姉さんみたいに助けが必要な人の支えになりたい…!!ぼくも騎士を目指すことにしたんです!」
『ふたり、とも…。』
「「だから、メルク姉(メルクお姉さん)いつもありがとう。おれたち(ぼくたち)を優しく見守っててくれて。」」
『っ、』
余計に涙が出てきてしまう。
やめて欲しい、のに。
子供たちからそう言われて、嬉しい気持ちも出てきてしまうのはこの子たちを大事に思っているから。
夢を語るこの子たちが―――酷く愛おしいから。
『二人とも、私がいらなくなるくらい、大きく、なりました、ね…!』
ココ「はあぁ?!そんなこと言ってねえだろ?!メルク姉居なかったらおれたちどうすりゃいいんだよ?」
ロロ「そ、そうですよ…!!まだまだぼくたち、メルクお姉さんと一緒に居たいんです…!!」
『あらあら……ふふ…。そうなの…?』
「「当り前じゃん!/当り前ですよ…!」」
『そう…。そう、なの、ね…?』
ココ「つーか、メルク姉泣きすぎだって。そんなに嬉しかったのかよ。」
そんなの、嬉しいに決まってるわ。
だってあんなにも小さかった貴方達が、まさか私に夢を語ってくれるほど大きくなっていたなんて。
『えぇ…!貴方たちが、まさか…夢を……語ってくれる、なんて…!』
ロロ「あわわわ…。」
ココ「逆に、メルク姉の夢は何だよ?」
『私…?』
ココ「おれたちだって言ったんだぜ?メルク姉の夢も教えてくんなきゃ"ふこーへー"ってやつだろ?」
ロロ「"不公平"だよ、ココ。」
ココ「いーんだよ!伝われば!」
その言葉に周りからドッと笑いが飛び交う。
騎士たちからは「まずは勉強が先だな」なんて言われて嫌そうな顔をするココに勉強の出来るロロはおかしそうに笑っていた。
ココ「んで?夢は?」
『……。』
ココ「なんだよ。ないのかよ?」
ロロ「ココ、早いって。メルクお姉さんだって考える時間が必要でしょ?」
『私は…』
「「うん?」」
『私は、貴方達が立派な騎士になった姿を見てみたいわ…?』
ココ「そんなことでいいならその夢、すぐに叶っちまうかもな!おれ、すぐに騎士だんちょーってやつになるからさ!」
ロロ「ココ…絶対無理だよ…。」
ココ「なんでだよ。」
ロロ「だって…その……。」
ココ「あ?」
フレン「はは。それにはまず、僕に勝ってもらわないとね?」
ユーリ「いや、その前に…その頭だろ…。」
ココ「あたま?頭が何だよ。なんかおかしいのかよ。」
レイヴン「騎士団長になるにはまず、それはそれはたっくさん勉強しないとなぁ?」
ココ「ええ……?」
そんなココに再び笑いが飛び交って、気まずそうにココは頭を掻いていた。
そんな時、ロロは近寄って耳元で何かを話すのを静かに私は聞き入れた。
ロロ「メルクお姉さんの夢って、植物研究だったでしょ…?ぼくたち、将来メルクお姉さんが城付きの学者になって、その警護につくのが夢なんだ。市民を守るだけじゃなくって、もっと身近な人の助けになりたい…。それこそ、今まで大切にしてくれたメルクお姉さんの助けになりたいんだ。ココもそう話してたんですよ…?」
『…あらあら、まぁ。そうだったのね…?』
きっと貴方達が騎士になるころ、それは私が居なくなった後。
この世界が誰にも優しい世界になった頃、貴方たちはきっと大きくなって市民を守れるような立派な騎士になっている。
それが見られないのは残念だけど…でも、空の上から見ているからね…?
『ごめんね…、ありがとう…?』
ロロ「??? 何でメルクお姉さんが謝るの…?」
『そうね…。あまりにも立派な夢に、感動して…また泣いちゃいそうなの…。』
ロロ「えへへっ…!そっか…!」
嬉しそうに顔を綻ばせるロロの頭を撫でれば、「ずるい!」とココも近寄って頭を差し出してくる。
それに応えてあげればココも嬉しそうに顔を綻ばせていた。
ユーリ「まだガキじゃねえか。」
ココ「なんか言った?」
ユーリ「いーや?なんにも?」
しらばっくれるユーリに苦笑をすれば、ユーリも笑っていた。
エステル「さ!皆で食事にしましょう!メルク、この食事はメルクが頑張ってくれた証なんですよ?」
見たことのある野菜たちが並んでいて、私は目を見張る。
いつの間にかここまで大きくなっていたんですね…!
「皆であの後頑張ってみたんです。すると見る見るうちに大きくなっていきまして…!」
「沢山取れたのでこうやって今日はパーティが開けたんですよ!」
「腕利きの料理人が作ってますから是非味わってください!」
『あらあら、ふふ…!それは良かったです…!』
騎士たちに連れられ、出来上がった食事の前に通される。
味は分からないけど、それでも皆の好意を無下にはしたくない。
私は一口その料理を頂いて、笑顔を見せた。
『…えぇ。美味しいです。』
「「「よし!!」」」
嬉しそうに騎士たちがガッツポーズをしていて、私はもう一口だけ料理を口にした。
心配そうにユーリが近寄ってくれたけど、笑顔で頷いておいた。
彼らの努力を今は称えないとね…?
この後、賑わいを見せたパーティは夜遅くまで続いた。
時折、皆から感謝を言われたり、それから他愛ない話をして…そして食べて、飲んで。
お医者様も参加していて、お酒には手を出さず料理ばかり摘まんでいたのを見た。
声を掛ければ体調を気にしてくれて、それにいつものお礼を込めて「ありがとうございます」と伝えればお医者様はいつも以上に柔らかに笑って私の頭を撫でてくれた。
―――あぁ、もっと、もっと皆とこうして居たい。
願ってはいけない事だと、
出来ない事だと分かっているからこそ――――願ってしまう。
ユーリ「よ、楽しんでるか?」
『ユーリ。』
ユーリ「すげえだろ?皆、お前に礼が言いたくて企画したんだぜ?」
『私、そんなにお礼を言われるようなこと…』
ユーリ「してなかったら、こんなに集まらねえだろ? それくらい、お前に皆感謝してんだよ。素直に受け取っとけ。」
『…うん。』
ユーリと見る皆の姿は束の間の安息を意味していて、誰も彼も今日だけは無礼講だと言わんばかりだ。
酒を飲んで豪快になっている指揮監督、それを止めようとする騎士の人たちやフレン騎士団長。
皇帝と一緒に飲んで笑っているエステルや、サリュやカリュのように先輩騎士に酒を貰って飲むか飲むまいか迷っている人たちも居る。
ここは一層賑やかで、反対に――――私だけは相反して隔離されているかのよう。
その賑やかさに手を出せない私も居て、辛く感じる。
でも、本当は手を伸ばしたい。
手を伸ばしてあの中に入り込んでいたい。
そう、思うのに―――何故出来ないのだろう。
ユーリ「…メルク?」
そう言って私を見つめるユーリの瞳には、私の泣いている姿が映し出されていた。
涙をただ静かに流して、それで辛そうにしている私の姿が。
ユーリ「なんか悩んでるんなら、相談に乗るぜ?何なら胸も貸してやる。」
『…だめね。私、こういうの見ると感動して泣いちゃうの。』
嘘。
本当は、一緒に騒いでみたいの。
『こんなに涙腺弱いなんて、思わなかったわ…?』
うそ。
本当はとても泣き虫なの。
『……ありがとう、ユーリ。皆にもそう言っておいて?』
ユーリ「それはメルクの口から言った方が皆も喜ぶと思うぜ?」
『そうよね…。うん、そうするわ…?』
うそ…。
ほんとうは あそこに 行けやしないのに。
怖くて こわくて その一歩が 踏み出せないで いるのに。
『…。』
ユーリ「…。」
『ねえ、ユーリ…』
ユーリ「ん?」
未来でこうやってにぎわった時、その時私はいないの。
だから、
いまこそ、貴方に最大の感謝を―――
『―――――たすけてっ…!(ありがとう)』
ユーリ「…!!!」
『あ…ちが、う…』
違う。
心で思った言葉と口から出る言葉が反対だ。
間違えた私は慌てて取り繕うとする。
しかしユーリはそんな私の腕を掴んで真剣な顔で話しかけてきた。
ユーリ「…また、隠しごとか?」
『違うの…!本当は感謝の言葉を言いたかったの…!』
ユーリ「でも、そっちが出てきたって事は何かあるんだろ?」
『ユーリ、その…』
ユーリ「"嘘はつかない"。…俺とした約束だっただろ?」
『…!』
いつだったかした約束。
これから嘘を吐かなければいい、とそう思っていたあの約束。
でも、いま嘘を吐けば約束を破る事になる。
『……。』
だから、嘘はつかないけど、優しい嘘を吐かせて―――
『怖いの…。こうやって沢山の人が祝ってくれてるのに……今もまだ、どこかで狙われてるんじゃないかって…。』
ユーリ「…。」
『ユーリに言っても困らせるって分かってるの…。でも…………怖い、の…。』
嘘はついてないわ…。
だって、本当の事だもの。
今こうしている間にも、何処かに誰かが潜んでいて、こっちを見て私を狙ってるんじゃないかって。
ユーリ「…今、ここにはたくさんの奴がいる。それでも不安だって言うならもっと皆の所に寄ろうぜ?それに、俺もここに居るだろ?」
『…うん、ごめんなさい。…私のわがままですから、あまり気にしないでくださいね…?』
ユーリ「敬語。」
『あ…。』
思わずなってしまった敬語に、私は口を押える。
ユーリは困ったように頭をガシガシと掻くと私の腕を引く。
そのままパーティの中央に戻ると、皆が気付いたように私へと集まってきてくれる。
そして賑わいを見せるのだ。
『…………ありがとう、ユーリ。』
そして、ごめんなさい。
ユーリ「難しいだろうけど今はあんまり考えるなよ?」
優しい嘘を吐いた私をどうか、
――――許さないで。
『(今は目に焼き付けよう。この光景を…。もう見る事の出来ない、この賑やかさを…。)』
―――もう、私に残された時間はあまりにも少ない。
。