第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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〈
辺りを警戒しつつ来ては見たものの、やはり〈
人っ子一人いないその町は、かつて栄えていたという栄光を喪っていた。
ユーリ「……あいっかわらず誰も居ねぇな。」
リタ「っていうか、どうやってゲートを開けるのよ?」
レイヴン「それはちょちょいとメルクちゃんがやってくれるから大丈夫っぽいよ?」
そう言ってユーリ達はメルクを見る。
その少女は既に〈
『────第3界層への扉、開き給え。』
その瞬間、大きな〈
慌ててユーリ達もメルクの後を追いかけるようにゲートの中へと入っていった。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.
____第3界層〈窮猿投林の流転の森〉
リタ「うわ、ホントに来ちゃったわ……。」
カロル「すごいね、メルク!どうやってやったの?!」
『神子にはそう言うスキルがあるみたいで、それもユグドラシル様に教えてもらったの。』
レイヴン「ユグドラシル…か。」
ジュディス「今回の騒動の発端ではあるけれど、どうせ相手は嘘つきなんだし。早いところこの〈
ユーリ「その為にはまず、メルクに元気になってもらわないとな!」
皆がそう言う中、キラキラと目を輝かせて森を見る少女がいた。
そう言えばこの少女、最初は目が見えない状態でこの界層へ来ていたからこんなに喜ぶ姿は初めてなのかもしれない。
『なんて…!宝の山なんでしょう…!!』
「「「(うわぁ……笑顔が眩しい……。)」」」
いつまでもキラキラと目を輝かせる少女に声を掛けるのは躊躇われたが、早く行かないとまた迷子になるのも必然。
暫し少女の珍しい姿に皆もジーンと微笑ましく見ていたが、ユーリが肩を叩き現実に呼び戻す。
ユーリ「おーい。帰ってこーい。」
『…はっ!?私ったら……だらしない顔を……!』
「「「(だらしない顔じゃなかったけどねー…。)」」」
再び微笑ましく見ていた仲間達。
しかしそんな中、メルクは近くにあった草を千切るといきなりそれを食べ始めた。
『(これは……チグハグ草かも。)』
ユーリ「おいおい!!いきなりそんなの食べるなよ!?」
急に草を食べだしたメルクに流石に仲間達が顔を青くする。
一体何をしているのか、と。
ユーリはメルクの頬をつねり、現実へと戻した。
『ゆーり、いひゃいです。』
ユーリ「だったら急に草を食べる奇行をやめてくんねぇか?」
『あ、それはつい……手が伸びてしまうといいますか……。』
リタ「……流石、植物馬鹿。」
カロル「リタも人のこと言えないじゃん。」
リタ「なんか言った?ガキンチョ。」
カロル「いーえ!!なんでも!!」
しかし次々と目を輝かせては草を千切っていくメルクに、仲間達も呆れを通り越し、見守ることにしたようだった。
適当な場所に座ってメルクの奇行を見届ける仲間達。
そんな中、珍しくはしゃいでいる少女を見てしまえば各々たまにはいっか、と片付けてしまう。
『あ!ありました!!千寿草です!!』
「「「「(うわ……普通の草に見えるー……。)」」」」
今回の一番の要であり肝心の千寿草だったが、仲間達にはそこら辺の草と見分けがつかない。
手助け出来ることと言えば、戦闘くらいで。
草に夢中になっている少女に魔物が近付けばそれを倒すということくらいしか、今回は役に立てそうに無かった。
『ここは天国ですね……!』
「「「「「(可愛いなぁ……)」」」」」
今まで摘んできた草(皆には雑草に見える)を抱きしめて天を仰ぐ少女に、仲間達は本日何度目か分からない微笑みを向ければ、少女も笑顔で返してくれた。
ここでなら少女は素直になるんだなぁ、とつくづく感じているとどこからか大きな物音が聞こえてくる。
パティ「な、なんじゃ…?」
エステル「段々近付いてますよ…?!」
ユーリ「皆、武器を構えろ!」
ユーリの警告通り、魔物が現れる。
しかしそれは、まだ現れるはずのない第3界層のヌシだった。
それもメルクの近くに現れたものだから仲間達が慌て出す。
『わぁ…!動く樹ですね…!!』
ユーリ「メルク!よく見ろ!!そいつはこの界層のヌシだ!!!」
カロル「ダメだ…!完全に自分の世界に入り込んじゃってるよ!!!」
パティ「でも確か、こやつ……何かふりかけないとダメなはずじゃったが……?」
エステル「えっと……あれです!あれ!タノシミの実ですよ!!?」
パティ「忘れとったのじゃ〜!!!」
慌てふためく仲間達と、目を輝かせるメルク。
しかし、その動く樹の枝に触れられればたちまち生命が抜き取れられると───
『あぁ……お花畑が、見えます……』
「「「「メルクーーー?!!!」」」」
枝に触れられていたメルクを急いでユーリが助け出し、見てみると少女は目を回している。
これでは戦闘は難しいだろう。
一度退避を選んだユーリ達ははぐれないように近くを移動しながら後退することになったのだった。
ユーリ「はぁ、はぁ、はぁ……!全員、無事、か…?!」
カロル「はぁ、はぁ、なん、とか…ね……?」
リタ「ちょっと……!なんで…、そんな、嬉しそうに、してん、のよ!!」
メルクを見れば、目を回しているもののそれはそれは嬉しそうにしていた。
仲間がはぁ、と溜息を吐けば、また誰かがはぁ、と溜息を吐く。
溜め息の負の連鎖が仲間達の間で暫く続いていた。
___数分後。
ようやく回復したメルクを連れて、タノシミの実を探しに来たユーリ達は、少女からタノシミの実の特徴を聞き出していた。
“見た目も面白くて楽しめる実”なんだそう……だが……。
「「「「(わっかんねぇ……。)」」」」
ユーリ「おい、パティ!一回見てるならどんなのか教えてくれ!」
パティ「うーむ。確かに見たが……メルク姐の説明そのままなのじゃ。」
ユーリ「エステル!」
エステル「え、えっと……。メルクの言うとおりなんです……。」
「「「「(ダメだ、こりゃ……)」」」」
界層から元の世界に戻るには、ヌシを倒さないといけない。
その為に必要な道具を探さねばならんとは……。
カロル「先駆者って、ほんと……尊敬するよね。」
ジュディス「逆にヒント無しでよく踏破出来るわ。私達も見習わないといけないわね。」
ユーリ「見習いたいのは山々だが……こればっかりは得手不得手っつーもんが……。」
『ありました!』
メルクの声に全員が視線を向ければ、小さな身長で頑張ってピョンピョン飛び跳ね、木になる実を取ろうとしているメルク。
『ぅぃしょ!』
「「「「(可愛いなぁ……?)」」」」
高いヒールを履いているというのに、慣れているのか飛び跳ねても大丈夫らしい。
暫くその微笑ましい光景を見ていた皆だが、ユーリが重い腰を上げメルクに近寄る。
そして簡単にその実を取ってしまった。
『ありがとうございます、ユーリ。』
ユーリ「……まぁ、確かに。“見た目も面白くて楽しめる実”……なんだろうがな。」
恐らくその説明は純粋な子供だったら分かったのかもしれない。
大人になったユーリからすると、何の変哲もない実に見える。
少し不可思議な色や模様をしているだけで、他は何にも変わりない。
タノシミの実を受け取ったメルクは一度笑顔になってタノシミの実を頬擦りすると、その場で座り込んで何かをし始める。
その行動にユーリ達が目を丸くしていると、パティとエステルだけは知っているのか手伝いを申し出た。
そこへメルクも笑顔でそれを受け入れるので、仲間達は各々休憩をしながらメルク達の作業が終わるのを待つことにした。
パティ「今度はイロイロバナがないからつまらないのじゃ〜。」
エステル「も、もうあれは……暫くは良いです…。」
『あらあら、ふふ?あれはあれで楽しかったけれど…ね?』
パティ「さっすがメルク姐なのじゃ!乙女心を分かっておるのぉー!」
エステル「それって……乙女心って言うんです?」
パティ「乙女の心なら、何を思おうが乙女心なんじゃ!細かい事を気にするな!エステル!」
細々とした作業が続く中、三人は楽しそうに話を進める。
すると急にメルクが顔を上げて、何かを警戒するように立ち上がる。
それを見た仲間達は何事だ、と武器へと手を置いておく。
パティ「メルク姐…?」
『……何か聞こえます…。』
全員がその場で耳を澄ませてみるが、そんな音聞こえては来なかった。
何も聞こえなかった───そう伝えようとした皆だったが、それよりも前にメルクが武器である短杖を取り出し構えた。
『•*¨*•.¸¸♬︎』
突然メルクが歌い出すと、仲間全員を覆う程の魔法陣が地面に展開される。
そしてその魔法は、
リタ「これ…!?フォースフィールドだわ!こんな規模の大きい絶対障壁見たことがない…!!」
リタがそう叫んだ瞬間、仲間たちに向けて太い
先程少女が聞こえていたという物体の正体は、きっとこれだったのだ。
しかし何処から攻撃が来ているのだろうか。
ユーリ「カロル!ここの界層には何かいるのか?!」
カロル「え、えっと……そこはメルクに聞いたほうが…」
リタ「バカね!?今、あの子は詠唱中でしょ?!」
カロル「そ、そうだよね!!えっと……もしかして……?」
レイヴン「早いところ思い出してチョーダイよ!少年!」
カロル「もしかしてだけど、二回目以降に現れるとかいうレアモンスターじゃない…?」
恐恐とカロルがそう呟く。
それにメルクが頷いた事で、カロルの仮説が正しい事を表していた。
ユーリ「本体は何処だ!」
カロル「そ、それは分かんないよ!! メルクに聞いてーー!」
しかし今少女は、ユーリ達を守るために詠唱中なのだから聞く事は不可能だ。
どうしたら見えない敵に勝てるか。
そんな時、少女の状態が一瞬だけおかしくなる。
フラリとした少女はすぐに立ち直り、顔を険しくして詠唱を続けた。
「「…っ!?」」
レイヴンとユーリがそれを見てハッとする。
もしかして、副作用が起きてしまったのか…?
しかし他の皆は違う事を思っていたようで、メルクへと慌てて声を掛けていた。
パティ「メルク姐、やめるのじゃ!」
カロル「体調が悪いのに無理はだめだよ!?」
リタ「後は戦闘マニアに任せておきなさいよ!」
ユーリ「おーい、リター?それって誰の事だー?」
リタ「知らないわよ!自分の胸に聞いてみたら?!」
ジュディス「あなた達、喧嘩してる場合かしら?」
メルクが皆の言葉に甘え、その場に座り込むと詠唱を中断する。
直ぐに回復隊がメルクに近寄り回復を掛けていたのを横目に、前衛組が武器を手に駆け出す。
蔓の元を辿れば本体がいるはずだ。
そう考えたからこそ、ユーリ達は蔓を頼りに走り続ける。
ユーリ「居たぞ!!」
そこにはこの界層のヌシほどある大きさのモンスターがいた。
蔓をうまく使い、ユーリ達はそれにあっという間に翻弄されてしまい、隊列は乱れ、味方との連携もうまく行かなくなっていた。
ユーリ「くそっ…!」
ジュディス「やっと歯が立つ魔物に出会ったわ。」
カロル「楽しんでる場合じゃないってー!!」
フレン「これは……厳しい戦いになりそうだ。」
メルク達後衛組と離れてしまい、必要な支援が受けられない。
圧倒的パワーを持つ前衛組も、流石に後衛無しでは諸刃の刃である。
その上、ここは流転の森。
仲間と別れてしまえばそれ程合流が難しくなる。
ユーリ「メルクはこいつの気配を察知出来ていた!それを頼りにさせてもらおうぜ!!」
カロル「そんな無茶なー!!」
ラピード「……クンクン」
ラピードが何かの匂いを嗅ぎとる。
そして一声吠えれば、ユーリとフレンは笑みをこぼした。
ユーリ「ほらな…?!」
フレン「エステリーゼ様!ご無事ですか?!」
ユーリとフレンの言うとおり、後ろからメルク達が追い掛けてきたのだ。
後衛組も合流したのなら向かうところ敵なし。
前衛組は勢いに乗ってレアモンスターと呼ばれる敵を叩いていく。
エステル「え?!本当に全員いますよ?!メルク、すごいです!」
リタ「んなこと言ってる場合じゃないわよ!さっさと詠唱しなさい!」
レイヴン「俺様…いる?」
ユーリ「サボったやつは今夜のメシ抜きなー?」
レイヴン「ちょ、酷くない?!青年!やります!やらせていだきますっと!!!」
レイヴンが弓で敵を攻撃していく中、後衛組が次々と支援の術を前衛組へと掛ける。
エステル「アスティオン!」
『…•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪』
リタ「おっさん!あたし達も負けてられないわよ!」
レイヴン「えぇ?!いつになく天才魔導少女がやる気になってるじゃない!明日は雨が降るわー…。」
リタ「これでもくらえ!」
レイヴン「あっっっつぅ!!?」
ユーリ「おーい、そこで喧嘩するなー?」
パティ「おっさんはダメダメなのじゃ……。」
そんな会話の中でも攻撃を繰り出す前衛は、動き回る蔓を掻い潜りながら本体を叩いていく。
荒々しく動き回るレアモンスターだったが、最終的にはユーリ達の敵ではなかったことが窺い知れる。
カロル「何だかんだ…僕達ってモンスター倒せてるよね……。」
ユーリ「今更だな、カロル先生?」
目の前の敵が倒れていくのを確認しながら、各々無事を確認し合う。
時には回復を掛け合ったり、時には励ましの言葉を言ったり。
仲間同士で無事が確認出来たら、全員の顔から笑顔が戻ってくる。
『皆さん、ご無事で何よりです。』
エステル「それより、どうやってあのモンスターの場所を特定したんです?メルクの行く場所に本当にいて驚きました…。」
リタ「野生の勘じゃない?」
ジュディス「あら、女の勘かもしれないわよ?」
パティ「何かキッカケみたいなもんがあるのかの?」
『…何ででしょう?何故か感じ取ってしまったんです。』
目の前の少女でさえ不思議そうに口にするので、きっと本当なのだろう。
結局その質問によく分からないままとなってしまった一行だったが、当初の目的である千寿草を探し回る。
リタ「…………やっぱ、あたしには分かんないわ。あんた達に任せるわねー。」
カロル「え?!ちょっと!」
レイヴン「俺様もパス〜。」
ジュディス「こう言うのは見極められる人で探せばいいのよ。私達は周りを警戒してるから。」
ラピード「ウゥ…ワフッ!」
『あ!それです、千寿草!』
「「「「(流石犬の嗅覚…)」」」」
メルクに褒められる犬を遠巻きに羨ましそうにする仲間たちに、少しだけ誇らしげな顔をしたラピードだった。
___数十分後。
満足出来るほどの量を取れたメルクは仲間達にお礼を言う。
……まぁ、結局エステルとラピード、そしてパティとカロルくらいしか参加していなかったが。
カロル「後は主を倒すだけだね!」
『先程居たということは、そこら辺を歩き回ってるみたいね?』
ユーリ「厄介だな。」
レイヴン「大丈夫っしょ。青年くらい悪運が強いと───」
《キェェェェェェェエ!!》
レイヴン「…………青年くらい強い悪運の持ち主なら向こうから現れてくれるって。」
カロル「レイヴンのばかぁぁぁぁ!!」
『パティ!』
パティ「分かってるのじゃ!これを……食らうのじゃ!!!」
主目掛けてパティがタノシミの実で作った粉末爆弾を投げる。
するとそれが弾けた瞬間、以前と同じく主の顔が笑顔になり、その恐怖感が薄れていく。
『〈
「「「了解!」」」
『あと例の樹液には気を付けてください!抜け出せなくなりますから!』
カロル「げ、あれはもう勘弁っ!」
前回の教訓もあってか、それぞれがやるべき事をやって怒涛の攻撃に主も怖気づく。
慌てて逃げようとする主をメルクが魔法で拘束し、その間に前衛組が攻撃をする。
断末魔の様な悲鳴を上げた主はそのまま光と共に消えていった。
感動する間もなく〈
そして皆の前にはあの閑散とした街並みが見えたのだった。
カロル「戻ってきたぁぁ……!」
リタ「早いところ戻りましょ。」
ユーリ「だな。メルク行けるか───」
ユーリがメルクを見遣れば、少女は眠そうに目を擦っていた。
そして逆らえない眠気に負け、その場で倒れそうになっていたのだ。
ユーリとレイヴンがその様子を見て息を呑む。
慌ててユーリがメルクを支え、メルクの持っていた草をレイヴンが回収した。
エステル「メルクっ?!」
パティ「ど、どうしたんじゃ?!メルク姐!さっきまで元気だったのに……。」
レイヴン「……疲れが来ちゃったんでない?ずっと俺達、動きっぱなしだった訳だし。」
ジュディス「なら、早く帰って休ませてあげましょう?」
「「「さんせーーい……」」」
疲れたと子供組から苦言が漏れ、皆はさっさと帰り道を歩き出す。
ユーリはレイヴンを見て大きく頷き、メルクを抱えた。
レイヴン「……こりゃ、酷いわね。」
ユーリ「だからこそ、薬草を見つけに来たんだろ。」
レイヴン「……メルクちゃん、痛みも分かんないんでしょ?後でちゃんと医者さんに診て貰わないと。」
ユーリ「分かってる…、分かってるって。」
まるで自分に言い聞かせてる様に反復したユーリを見て、レイヴンがそっと溜息を吐く。
レイヴン「(こりゃあ……フォローも大変だな。早いところケリをつけないと、大変な事になりそうだ。)」
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