第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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メルクが目覚めて一週間が経とうとしていた頃、ある程度育ちつつある菜園を見て、メルクも騎士の面々も嬉しさに顔を綻ばせた。
『いい感じですね!』
あれからふらつくこともなく過ごせているメルクに安堵していた双子は、メルクの喜ぶ姿に暫しの安寧を感じ取っていた。
騎士達もあれからメルクを心配するようになり、作業をなるべく自分たちでするようになっていた。
雨が降った時なんかもメルクが出てくる前に何とかしていたし、枯れそうになればメルクの助言通りにこなし、ようやく野菜達も見るからに成長できていたのだ。
これが嬉しいと言わず、なんというのだ。
「メルクさんのおかげです!」
「ようやくお野菜が食べられる…!」
『いえ、こればかりは皆さんの努力の賜物です。よく頑張りましたね。』
「「「「はいっ!!」」」」
あともう少ししたら花が咲き、実をつけるだろう。
そう伝えれば、騎士達は嬉しそうに各々ポーズを取っていた。
『折角なら他の野菜にも手を出してみますか?』
「そうですね。種類は多いに越したことはありませんし、試してみますか!」
自信をつけた騎士達は次は何の野菜を植えようか、と相談を始める。
それを微笑みながら見ていたメルクは助言をしようと一歩歩き出す。
しかし、
『(あ、あれ…?急に、眠気、が……)』
……バタッ
「「「っ?!!」」」
サリュ「メルク様?!」
カリュ「い、医者を呼んできます!!」
カリュが慌てて医者の所へ駆け出す。
サリュと周りの騎士達は必死にメルクへと呼びかける。
しかしその瞳が開くことは無かった。
医「メルクさん!!」
医師が肩を揺する。
しかし、少女の反応は無かった。
聞こえてくるのは穏やかな寝息だけ。
何故、急に眠り出したのか。
医者はすぐにメルクを抱え、簡易診察室へと駆け込む。
しかし検査で何か問題が出てくる訳でもなく、少女はただ眠っていただけだった。
これを受け、医師は一つの仮定を思い浮かべる。
もしかして、今回の副作用は“強い眠気”なのではないか、と。
医「…だとしたら辻褄が合います。」
急な眠りにつく、その不思議な行動。
予兆もないまま倒れたと話していた騎士の慌てよう。
これはどう見ても、例の副作用だとしか言いようがない。
他にその様な症例がないからこそ、その仮定が現実味を帯びていく。
ユーリ「メルクっ?!」
ユーリ達が慌てて診察室に駆け込んでくる。
そこには双子の姿や他の騎士、メルクが気に掛けていた子供達の姿もあった。
チラッと見た医者だったが、皆に気づかれぬ様溜息を吐く。
果たして、どう説明したものか…と。
医「取り敢えず、命に別状はありません。ですからそんなに慌てなくとも大丈夫ですよ。」
ココ「ほ、ほんとか?」
ロロ「もう、倒れたりしませんか?」
医「それについては今はまだ、と言うしかありませんね。」
カロル「やっぱりどっか悪いんだ…。」
ジュディス「もしかして、また大風邪でも引いたのかしら?」
ユーリ「(もしかして…。)」
ユーリが医師をじっと見つめる。
それに気付いた医師はユーリに頷いてみせた。
…やはり、そうか。
ユーリは一度視線を逸らせた後、皆にどう説明つけるか考えていた。
ユーリ「で?大風邪を引いたのか?お医者さんよ?」
医「…いえ、大風邪は治っています。ですが、今のメルクさんは2ヶ月間眠っていただけあり、何処か不調があるのも事実です。今後は畑仕事は控えてもらう様伝えなくてはいけませんね。」
カロル「体が鈍ってるってこと?」
医「そんなものです。」
リタ「急に動いたりするからよ。あーあ、心配して損した。」
パティ「そんなこと言って〜。リタ姐は心配屋さんなのじゃ〜。」
ジュディス「ホント、そうよね?」
リタ「な、何言ってんのよ!私が心配なんてする訳ないじゃない!!」
ギャアギャアと話しながら3人が離れていく。
それにつられて、カロルやエステル達も部屋を去っていった。
残ったレイヴンは、医師とユーリを見て目を細めさせた。
レイヴン「…おたくら、何か隠してるんじゃないの?」
ユーリ「おいおい、俺達が何を隠してるって?」
医「……いえ、味方は多い方が良いでしょう。ですので、話しておきましょうか。」
ユーリ「良いのか?」
医「えェ。レイヴンさんにもこちらの片棒を担いで貰いましょう。」
レイヴン「え、俺様、なんか恐ろしいこと聞いちゃった感じ?」
途端に嫌そうな顔をしたレイヴンの肩をユーリが押えつける。
まるで逃がさないとでも言うように、指が肩にくい込んでいた。
レイヴン「痛い痛いっ!青年!ちょっと痛い!!」
痛がるレイヴンだったが、医者が話し始めると流石に真剣な顔になる。
そしてレイヴンは知ってしまう。
〝神子〟であるメルクが宝石を食べるとどうなるのか、を。
そしてその副作用についても聞いてしまったレイヴンは、難しい顔をして頭を掻いていた。
レイヴン「……マジかよ。おたくら、それ隠してたわけ?」
医「メルクさんの意思ですので。」
レイヴン「にしたって、それって結構大事な事じゃない?いつまでも隠し通せるような事じゃないと思うわよ?」
ユーリ「だから言ってんだろ。仲間は多い方が良いってな。」
レイヴン「……メルクちゃんはそれを隠してたのか…。そして今回のこれも、副作用って奴な訳ね……。」
医「恐らくメルクさんはこの事を意識していません。副作用だとも気付いていないはず。」
レイヴン「余計にヤバいやつじゃない…。」
悪い事を聞いてしまった、とレイヴンは天を仰いだ。
そう言えば何時だったか、激辛のスープを作っていたなと思い当たる物があって、その顔を顰めさせた。
ユーリ「にしても、今回も厄介な副作用が来たな…?」
レイヴン「逆に厄介じゃない副作用なんてあるわけー?」
医「……眠気は恐らく薬で防げます。ただ、そうなるとメルクさんの体が何処までついていけるか…。」
ユーリ「それなら薬に詳しい本人に聞いてみたらどうだ?医者でも知らない薬を知ってるかもしれねぇだろ?」
レイヴン「青年の提案に俺様も賛成ー。変に薬を使うとバレる確率上がっちゃうし?だったら本人に聞いてみよーや。」
ここでお開きにしたユーリ達は一度メルクを見たが、見ていても仕方ないとその場を去った。
残った医師は一人、メルクを見遣る。
医「……いつまで持つか、ですね。今後の課題は…。」
呟かれた言葉は誰に聞かれることも無く、ただ空中に消えてしまった。
少女の頭を撫でた医師は、そのまま様子を見るべく、その場に居続けた。
……その少女が目覚めたのは、翌日の夕方だった。
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翌日の夕方、メルクが目を覚ますと医師がニコリと笑い、メルクを見た。
医「お目覚めですか?メルクさん。」
『あれ……?私、何で診察室に…?』
医「……やはり覚えていませんか。」
『……もしかして、私……副作用が出てるんですか…?』
医「その前にメルクさん。ひとつ聞かせて下さい。最近、宝石を飲み込んだ覚えは?」
『あります…。ヴィスキント様に鎖で捕らえられて……そのまま強制的に……。』
医「……やはりそうでしたか。では、今回の副作用についてどれほど理解していますか?」
『まだ全然……ハッキリとしたことは分かってません…。』
俯く少女の頭を撫で、優しく医師は問う。
結果、宝石を飲んでいた事を知れたから良しとしよう。
医師は今回の副作用についてメルクに話す。
そしてレイヴンにも副作用が知られた事も話していた。
『……。』
医「彼らが勘の鋭い方ばかりなのは、メルクさんも分かっていたのではないですか?」
『……いつか知られるくらいなら……いえ。やはりいつか知られる方が、私には丁度良いのです。皆を心配させてしまいますから…。』
医「……分かりました。私はメルクさんの意思を尊重しますよ。」
『すみません。ご迷惑をおかけします。』
医「いえいえ。とんでもありませんよ。メルクさんの主治医としてやるべき事はやりたいですから。」
『ありがとうございます…!』
ようやく微笑みかけてくれた少女へ、医師もニコリと笑う。
……相変わらず、笑顔は苦手なようだ。
メルクから見てもまだ、ぎこちないというか……子供が泣き出すというか……。
医「それはそうと、メルクさん。今回薬で抑えるにしても良い薬を知りませんか?」
『……
医「??」
『
医「なるほど。それはどれくらいの効果が期待出来そうですか?」
『
医「では、それを処方しましょう。作り方はご存知ですか?」
『……材料が…。』
医「……なるほど。そう簡単ではありませんか。」
二人で悩んでいると、そこへ夕食の誘いに来たユーリが現れる。
ユーリ「お、メルク起きてたのか。」
『ごめんなさい、ユーリ。ご迷惑おかけしてて……』
ユーリ「それはお前のせいじゃないだろ?その体を治すために頑張ってるんだ。一々詫びとか礼とかいいから。」
笑いながらそう言ってくれるユーリにメルクは俯いて頷いた。
それに困った顔をしたユーリだったが、メルクの横にいる医師が何か悩んでいる様子に目を丸くさせた。
ユーリ「……なんかあったのか?」
『え?』
ユーリ「あんなに横で悩んでる医者がいるんだ。どうせ、お前の体のことだろ?」
ズバっと言い当てたユーリに、思わず『うっ…』と唸るメルク。
そして視線を逸らせられれば気にならないはずが無い。
それをユーリが聞き出す前に、メルクが言葉にした。
『……私、もう一度、〈
ユーリ「……理由は?」
『今回の副作用を治すため。』
ちゃんと言い切ったメルクは真剣な顔でユーリの顔を見た。
それは明らかに嘘をついている顔ではなかった。
それにユーリがフッと笑うと、腰に手を当てて息を吐き出した。
ユーリ「(以前のようなことを言い出したらどうしようかと思ってたが…なるほどな。)どうせ、一人で行こうとしてたんじゃないのか?」
『……今回、リスクが大き過ぎるのは分かってるの。……逆らえない眠気に襲われて、その隙をつかれて命を落とすかもしれない。でも危険は承知で行かないといけないの。……分かってくれる…?』
ユーリ「……分かんねぇな?何で一人で行こうとするんだよ。」
『皆に迷惑掛けたくない、から……。』
ユーリ「だったら、余計に仲間を頼れって。メルクが居なくなったら大変なんだぞ、アイツら。」
『……え?』
ユーリ「泣き始めるわー、怒り始めるわー、失神するわー……。な?大変だろ?」
『……。』
驚いた顔でユーリを見るメルクに、ユーリが更に言い連ねる。
ユーリ「迷惑なんか思っちゃいねえよ。寧ろ、頼られない方が辛いってもんだ。だからそういう事は頼ってこい。前から言ってるだろ?辛い時は辛いって言えってな?」
『……ユーリ。』
ユーリ「行くなら早いに越したことはないよな?じゃ、そういう訳で他の奴ら呼んでくるわ。」
サッサと行ってしまったユーリに手を伸ばしたが、すぐにその手は元に戻っていく。
そして胸の前でギュッと握りしめた。
その顔は少しだけ嬉しそうに綻ばせていたのを、医者は優しく見届けていた。
医「……メルクさん。」
『?? はい。』
医「
『わ、分かりました…!』
医「ムフフッ…!これで治れば良いですね?」
『…はい!』
向こうから「メルク〜」と呼ぶ声が聞こえてくる。
もう夕方だというのに皆は私のために出てくれるというのか。
カロル「メルク〜!体しんどいんだって?!大丈夫?!」
リタ「あんたねぇ……そういうことは早いところ誰かに打ち明けなさいよ。心配するこっちの身にもなって欲しいわ。」
ジュディス「あら。やっぱり心配してたんじゃない。」
リタ「う、うっさいわね!!」
パティ「リタ姐も素直じゃないのじゃ〜。」
リタ「あぁ、もう!!あんたのせいだからね!!」
『あらあら、まあ…!』
リタ「“あらあら、まぁ”……じゃないわよ!のほほんとしない!!」
パティ「なんだかんだ、リタ姐も心配性ってやつなのじゃ。気にすることないぞ、メルク姐。」
診察室が一気に賑やかになる。
それに医師も笑いを零し、メルク自身も微笑みながら笑っていた。
パティ「んで?今回の目的の野草は何じゃ?またイロイロバナかの〜?」
『今回は千寿草よ?』
エステル「どんな野草なんです?」
『見た目は何処にでもある草だけど、その特徴は華やかな香りが辺りに広がると言われているの。』
ユーリ「へぇ?華やか、ねぇ?」
ジュディス「あら。一気に楽しみが増えるじゃない。華やかな香りなんて中々拝めないわよ?」
リタ「また〈
結局ユーリだけが付いてきてくれるかと思っていたメルクは、皆の優しさに甘えることにした。
『……じゃあ、行きましょう?〈
▷▶︎▷▶︎NEXT
千寿草……?