第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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メルクが目覚めた翌日。
朝早くに目を覚ましたメルクは、料理人と共に調理を手伝っていた。
そんな時、昔あったようにカロルとユーリが起きてくる。
ユーリ「お、早いな。メルク。」
『おはようございます。お二人とも。』
カロル「さっすがだね〜、メルク。第一界層の船の中を思い出すよ…。あれからそんなに経ってないはずなのに大昔のように思えちゃう。」
『あらあら、ふふ。本当にそんなに経ってないわね?』
カロル「メルク〜。今日はなに?」
『今日は朝から元気が出るようにと、和食メインで作っています。リタには別でサンドイッチを作っていますから、もし来られたらそう伝えてもらえますか?』
「「へーい。」」
そう言ってメルクはひとつ笑うと、調理に励む。
その横顔をじっとユーリが見ていた。
ユーリ「(副作用は今のところ無し、だな。)」
カロル「じゃあ、ボクお皿持ってくるね!」
『ええ、お願いしますね?』
ユーリ「っていうか、2ヶ月間寝てばっかりの眠り姫がこんな急に起きては働いて大丈夫なのか?体、辛いんじゃないのか?」
『実はそうでもないの。何だか、体が軽くって。』
ユーリ「体が、軽い…?」
そんなことあるだろうか。
だって、2ヶ月間も寝ていたら筋力が落ちて動きにくくなるはずだ。
それに倦怠感だって半端ないはずなのに。
『?? もしかして、私おかしいかしら…?』
ユーリ「…いや?メルクが怠くないってんならそうなんじゃないか?嘘はついてねえんだろ?」
『えぇ!それについては正直に言ったつもりよ?』
ふふ、と口元に手を当て微笑む少女は嘘をついているようには見えない。
だが、この少女…息をするように嘘をつくのだ。
嘘を見抜けなければ後々問題になった時に困る。
ユーリは暫く少女を観察していたが、本当に体が軽いのか以前よりも軽快に働いていた。
気のせいか、と安堵の息を吐き、ユーリも朝食準備の手伝いをすることにしたのだった。
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メルクの快気祝いをしようと仲間達が画策していた頃、少女は騎士の人たちに呼ばれて外に出ていた。
仲間達からある程度話を聞いていたメルクはこの場所がウェケア大陸だと驚きはしなかった。
ただ、海風が強いことが怖いだけで。
『っ、』
サリュ「メルク様!」
カリュ「大丈夫ですか?!」
ここぞとばかりに双子がメルクを守るように両手を繋いだ。
双子もまた、メルクの体重減少のことを聞いていたのだ。
だから風で煽られそうになっていたメルクをすぐに助けられたのだった。
『あ、ありがとうございます…。二人とも。』
サリュ「いえ!ご無事でよかったです!」
カリュ「足元にもお気をつけ下さいね。メルク様。」
一人はメルクの前に立ち、強い海からの風から守り、もう一人は手を繋いで足元に気をつけるように声を掛け合う。
そうやってメルクはなんとか呼ばれた騎士の面々の前へと辿り着けた。
「メルク様は植物にお詳しいとお聞きしました。」
『はい。そうですが…。』
「実は食糧難を救ってもらいたいのです。ここの大陸は土が悪いのか植物が全く育ちませんで…騎士だけでなく他の避難者も困っているんです。」
『なるほど…。でしたら私の番ですね…!』
メルクは今まで以上にやる気を見せていた。
今までこういった植物関連で頼られたことがあまり無かったからだ。
周りを見渡し、地面をじっと見つめるメルクに周りの騎士はゴクリと喉を鳴らしそれを見つめる。
そしてその騎士の相談はすぐに解決へ向かう。
『…確かに、ここの土は生育に向いてはいません。ですが、掘り起こして腐葉土を撒いておけば通常の土と遜色なく使えるはずです。』
「「「おぉ…!」」」
『私も手伝いますから、ここら一帯の土を掘るのを手伝ってもらってもいいですか?』
「「「はいっ!」」」
こうしてメルク指導の元、騎士達は土いじりを始める。
家庭菜園ならぬ、騎士菜園である。
時折吹く強い風はサリュが身を挺して守っているため、メルクが飛ばされると言うことはなく、安心して土いじりをしていた。
何だかんだしていると早く時間が過ぎるもので、お昼を過ぎた辺りでユーリ達に呼び止められ作業は中断することになった。
カロル「さっき何してたの?」
『ここの土を使えるように、いじっていたの。』
リタ「そういえば栽培出来ないって、騎士どもが嘆いていたわね。」
フレン「メルクさんが助力してくださるなら、こんなに心強いことはありません。」
『そんなことはありませんよ。皆さん知識さえあれば簡単にこなせる方ばかりですので、私に出来るのは言葉で伝えるだけです。』
ユーリ「だけど、それを知らなかったら何にもならねえだろ?間違いなくメルクのおかげだと思うぜ?誇っていいと思うけどな。」
『あらあら、ふふ…。ありがとう、ユーリ?』
笑いながら歩いていくメルクにユーリも副作用を心配していたが、大丈夫そうで安心していた。
こうして仲間達は一緒に昼食を食べ終え、それぞれの仕事に戻っていく。
メルクはもちろん、騎士たちと野菜栽培について語り合い、そして実践していった。
ユーリ達は変わらずメルクの快気祝いをどうするか相談しあっていた。
『___後は育つのを待つばかりですね?』
「「「ありがとうございました!!」」」
バッと頭を下げる騎士達に、慌ててメルクが頭を上げるよう伝える。
こうして喜んでもらえるのがメルクには何より嬉しかった。
特に自分の得意分野でもある植物のことで頼りにされるのが嬉しかった。
『また、分からないところがあったら遠慮なく教えてくださいね。』
「はい!」
「その時もよろしくお願いしますね!メルクさん!」
騎士達とも仲良くなり(元々仲は良かったが…。)メルクは嬉しさから頬を染める。
まだ芽が出たばかりだからきちんと様子を見ないといけないな、と今まで植えてきた植物達を見る。
不恰好に植えられたものやきちんと整列して植えられたところもあり、それぞれ個性ある植え方をしていたのにくすりと笑う。
今日は結局そのまま夕方で作業を終え、騎士達と別れた。
サリュとカリュはメルクにずっと付き従っていて、いつだったかみたいに会話も良好だった。
そんな時、
『……?』
一瞬だけ、ふらりとしたメルクを騎士二人が見逃すはずもなく慌てて二人で支えた。
サリュ「大丈夫ですか?!メルク様!」
カリュ「もしかしたら今日の作業でお疲れかもしれません。起きたばかりであれ程の重労働をこなされたのです。今日はもう休まれた方が良いのでは…?」
『…そう、しますね…?(どうしたんだろう…。何故か…眠い……。)』
ふらふらと宛てがわれた部屋まで戻るメルクを見て、双子はお互いを見て静かに頷く。
これは医師に伝えた方がいいかもしれない、と。
結局メルクはその日、皆の前に出てくることはなかった。
そして次の日のこと……。
「「「おはよう〜。」」」
仲間達はいつものように起床する。
しかしそこには早起きのはずのメルクの姿は無い。
カリュやサリュもどこにいるのやら、いつもメルクの事で騒いでいるのに見当たらなかった。
医「…おはようございます。」
「「「おはよう/おはようございます」」」
医師が眠そうに起きてきて、そして周りを見て怪訝な顔をする。
何故少女が起きていないのか、と。
「「お医者様!!!」」
サリュとカリュが慌てた様子で医師の元を訪ねる。
それに仲間達は不穏な気配を嗅ぎ取った。
ユーリがハッとして双子を見る。
そして双子の言葉を聞き逃すまい、と耳を傾けた。
サリュ「メルク様が…!」
カリュ「目を覚まされないのです…!」
医「…!!」
医師が慌てた様子でメルクのいる部屋へと急ぐ。
仲間達もよく分からないまま、メルクのいる部屋に駆け出す。
一人だけ渋い顔をしたのに気付かぬまま部屋へと辿り着いた一行は、医師を見つめた。
医「メルクさん…!!起きてください!!目を覚ましてください!!」
カロル「え、なに?今度は何が始まったの?」
リタ「医者がああだと不安になるわよねー。」
レイヴン「青年、何か知ってる?」
ユーリ「いや、俺も何が何だか…。」
バイタルを確認する医師を心配そうに見つめる一行だったが、結局メルクが目を覚ますことはなかった。
サリュ「昨日、話そうと思ってたのですが…。」
カリュ「お医者様に会えず、今報告になったことお許しください。」
フレン「…一体、何があったんだ。」
サリュ「昨日、メルク様は騎士の面々と一緒に食糧難を解決すべく菜園の手ほどきをされていたのですが…。」
カリュ「終わられてから、ふらふらとされ始めたのです。それでお休みすることを提案したのですが…。」
フレン「何故、そんな大事なことを早くに言わなかった!?」
「「申し訳ありません…。」」
双子が申し訳なさそうにする中、医師は何かを考え込むようにぶつぶつ呟く。
そして双子を見て質問をした。
医「…昨日、メルクさんがふらふらしていたと言いましたね。それはいつ頃の話ですか?」
サリュ「あれは菜園が終わった頃だったので、」
カリュ「おおよそ、17時ごろだったかと。」
医「どんな感じでふらついていましたか?」
サリュ「最初は一瞬だったんです。」
カリュ「それが段々と酷くなって、私共が支えないと真っ直ぐ歩けない程度には…。」
医「………脱水か、或いは…」
医師は部屋を離れると点滴台を持ってきて、メルクに繋げる。
すぐに点滴を始めた医師に仲間達は緊張しながらそれを見続ける。
医「菜園中、何か変わったことは?」
サリュ「いえ、特には…」
医「昼食は完食していましたね。因みにふらついたのは夕方のその時だけでしたか?」
カリュ「は、はい。」
医「その時、メルクさんは何か仰ってませんでしたか?例えば、気持ち悪いとか。」
サリュ「いえ、ありませんでした。」
医「ふむ…。取り敢えず、点滴だけしておきましょう。あとは起きた後で考えます。態々知らせてくださり、ありがとうございます。」
しかし双子は落ち込んだように僅かに下を向いた。
そんな時、メルクの声がした。
『うん…?』
医「…!」
すぐに手首を持ち、脈を測る姿はさすが医者というべきか。
ゆっくりと開かれた目に、全員が安堵した。
カロル「な、な〜んだ。ただ寝てただけじゃん。」
リタ「全く、人騒がせね。」
ジュディス「ただ疲れていただけなんじゃなくて?」
そう言って仲間達は朝食を取るために何人かは部屋を出て行った。
残ったのは双子とユーリ、そして医師だけだ。
『わ、たし…』
医「気分はどうですか?気持ち悪いなどありませんか?」
『?? 私、何故点滴を…?どこか悪いのですか?』
医「昨日、寝る前にふらつかれたようですね。その時のことを覚えていますか?」
『…そういえば、疲れて眠くなったのかもしれません。』
ただの眠気だったのか、と双子もユーリも安堵していた。
しかし医師だけは違った。
それを悟らせないよう医師は表情を戻すと、メルクに今日は休むよう伝えた。
『…ですが、菜園の様子を見にいかないと…。』
サリュ「メルク様、ご自身のお身体を大事になさってください。」
カリュ「菜園はゆっくりやられれば良いのですから。」
『でも、』
ユーリ「医者の言うとおりにしとけって。この間起きてきたばかりなんだから先ずは体力つけないとな?」
『うん。ユーリや皆が言うならそうします。』
サリュやカリュはメルクに付き添うようで、寝たまま点滴されているメルクの横に立って話していた。
それを見て安心してユーリが離れる。
医者も今日のところはメルクに付き添うようだ。
医「…気のせいならいいのですが…ねェ?」
不穏な様子を医師だけは感じ取っていたのだった。