第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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メルクを取り戻し、全員が城に帰還する。
しかしその顔は、ただ喜ばしいと思っているだけの表情では無かった。
それに双子や医師、子供達もさすがに気付く。
医師は気を失ったメルクを受け取ると医務室へ向かい、彼女の調子を見た。
命に別状はなく、ただ気絶しているだけだろうという診断には全員がホッとしていた。
しかし、少女が起きたのはなんと2ヶ月後の事だったのだ。
その2ヶ月間、沢山のことが起きていた───
……
……………………
……………………………………
ユーリ「はぁ?! フレンがやられた?」
カロル「う、うん…。なんか、背中から刺されたみたいで……。」
レイヴン「命に別状はないらしいけど、あと少し位置がズレていたら……。」
そう、フレン騎士団長がやられたと言うのだ。
一体、誰にやられたというのか。
ジュディス「マズイわね?騎士団長自らメルクを助けに行ったとはいえ、向こうさんからしたら人攫いなんだもの。その上、そこには皇族であるエステルも居た……。これが信頼を失うと言わずして何だというのかしら?」
カロル「皆、噂してるよ…?皇族と騎士団が遂に人攫いを始めたって…。」
レイヴン「どうやら向こうさんは情報操作がお得意みたいね?全部こっち側に悪い事ばかり連ねて、悪人に仕立ててやがる。」
ユーリ「……最初から罠だったのか。」
思えばメルクを助ける為に例の白い鎖を破壊した時もおかしかった。
武器を当てる直前、何故か一瞬だけ白い鎖が銀色の鎖へ戻ったのだ。
……ほんの一瞬だったが。
そしてユーリ達が武器を当てる間もなく、鎖は壊れてしまったのだ。
子供組は叩き壊せたと勘違いしていたようだが、本当は敵がこちら側を見ていて、何処かで遠隔操作していたのかもしれない。
でなければあんなに硬かった鎖が武器で壊れるはずもない。
ユーリ「今フレンは?」
レイヴン「あの優秀な医者が治療してたわよ?……あの怖〜い機械持ってきてたみたいで、激しい音と声が鳴り響いていたわー……。(ブルッ)」
ユーリ「あ、あぁ……。」
メルクの医師は変な治療を行う。
嫌という程聞いていたから、ユーリもすぐにレイヴンの言わんとしてることは分かった。
ユーリ「だとしたらマズイな。奴らの目的が皇族とか騎士団の信頼を失墜させる事だとしたら…。」
カロル「ここも狙われるかもしれないってこと…?ほかの騎士の人たちが話してたよ。」
ジュディス「充分にあり得る話だと思うわよ?」
パティ「これを機に、騎士団と皇族を普段からよく思ってないヤツらが動き出しかねないのじゃ〜。まだ世界は混沌としとるからのぉ〜。」
リタ「ていうか、エステルは?」
レイヴン「騎士団長のところねー。心配そうにしてたわ。」
リタ「騎士団長があれなら今の城の警備は手薄でしょ?早く逃げた方が良いんじゃないの?ここもいつまで持つか───」
「「「大変ですっ!!」」」
「「「「?!」」」」
急に騎士の人たちが大きな声で危険を報せてくれる。
一体、今度はなんだと言うのか。
「み、民衆が…!城の前に集まってきて、この城を襲おうとしています!!」
「「「え?!」」」
ユーリ「……やっぱり始まりやがったか。」
リタ「ちょっとどうすんのよ?!」
ユーリ「そりゃ、エステルとフレン連れて逃げるしかねえだろ!」
レイヴン「メルクちゃんが目当てかもしれないわねー。」
カロル「絶対にメルクはあげないよ?!」
そこへメルクを抱えた医師と双子、そしてココとロロも合流する。
その顔は鬼気迫っていて、もう城の中に民衆がなだれ込んで来た事を5人は知らせてくれた。
ココ「あいつら、何故かメルク姉を寄越せって言ってくるんだ!!」
ロロ「こ、皇帝や騎士団長も差し出せ、といっています…!!」
医「マズイですねェ…。ここで奪われたらもう取り返せないと思いますよ。えェ、民衆運動ほど怖いものはありませんから。」
ユーリ「とにかく出来るだけ騎士の奴らを集めて、皆で逃げるぞ!」
こうして、ユーリ達と皇族や騎士団は城を襲撃してきた民衆に明け渡すことになる。
一気に流れ込んできた騎士団にギルドの人達も何だと警戒していたが、説明すれば匿ってくれるとのことで、一行はダングレストで身を隠すことになった。
しかし長い事身を隠すのに、ダングレストは大きな街で在りすぎた。
誰もがこの街を行き来をしているのだから騎士団や皇族が見つかるのも時間の問題だ。
そこでユーリ達は次の隠れ場所としてウェケア大陸を選んだ。
あそこなら人の往来は無いに等しいからだ。
ギルドの伝手でウェケア大陸に簡単な街を作り、そこで時を待つというのだ。
結果、ユーリ達のその作戦は功を奏する。
ウェケア大陸という辺鄙な地を選び、人の往来を制限すれば騎士も皇族も誰もが休める安寧の地と化す。
植物が中々育たず食糧の問題はあるし、寝床が固いという問題はあるものの、それ以外は快適だ。
誰からも狙われることがない。
ユーリ達はメルクが目覚めるのを待つ一方、順調に快復したフレンや皇族と共に城の奪還をどうするのか考える日々に追われていた。
ココ「なぁ!メルク姉、ただの気絶って言ってたじゃねえかよ!!」
そんな中、怒りが爆発したココが医師やユーリ達に向かって怒鳴っていた。
慌ててロロが抑えようとするが、怒りが収まらないココは唇を尖らせながら……泣きながらユーリ達に訴えていた。
それを見てロロも泣き出す始末。
……親代わりであるメルクが全く目を開けないのだ。彼らにはその事が辛く感じ、急な環境の変化で精神的にもきていたのだ。
ユーリ達でさえ、メルクの目が覚めないのを不思議に思う一方、焦りなどの焦燥に駆られているのだから。
ココ「メルク姉…!ちっともよくならねぇじゃん…!!悪くなる一方じゃん!!!!」
医「……今はまだ起きれない身体なのかと。」
ユーリ「どういうことだ?」
医「聞いたことがありませんか?精神がすり減りすぎた患者が気絶した場合……目が覚めるのは時間がかかる、と。(まぁ、恐らく別の要因かと思いますが…。)」
レイヴン「そんなこと、初めて聞いたわー。」
エステル「ということは……やはりメルクはあの時には…」
パティ「……拷問を受けた後じゃったのかの…。それで精神が耐えられなかったのじゃ〜…。」
ロロ「ど、どうやったら目覚めるんですか…?」
医「……ただ、目覚めるのを待つしかありません。気付け薬も意味は無いかと。」
ロロ「そ、そんな…!」
医師の言葉にココとロロが俯いてしまう。
それにカリュとサリュがそれぞれの肩に手を置いた。
そして双子はユーリ達の方を向き、大きく頷いた。
──“ここは自分たちにお任せを”。
それを見たユーリ達はその場をそっと後にした。
双子もメルクの事を誰よりも案じていた。
子供達の気持ちは誰よりも分かると思ったからだ。
ユーリ「んで?背中をやられた騎士団長さまは、調子はどうなんだ?」
フレン「僕は大丈夫だ。優秀な医者が診てくれたからね。」
レイヴン「あんさん、アレを平気な顔で言えるってスゴくない?俺様……もう受けたくないんだけど。」
フレン「……そうだね。出来るなら……僕も受けたくはないか、な……。」
僅かにフレンが身体を震わせるのを見て、ユーリが驚く。
あのフレンが身震いするほどの刺激なのだと。
そしてユーリは自身の心に固く誓った。
絶対にあの医者にはかからない、と。
カロル「どんなことするの?」
フレン「……ごめん、口に出来ないくらい…恐ろしいんだ…!」
カロル「そ、そんなに?!」
リタ「そんなに気になるなら受けてみれば?気絶くらいさせてあげられるわよ?」
カロル「あ、あー……。ボクもメルクみたいに目覚めるのに時間かかるかもしれないからパスかな……?」
パティ「メルク姐……。」
「「「「……。」」」」
メルクの話になると途端に空気が暗くなる。
もうすぐメルクを助け出してから2ヶ月が経つ。
少女がいつ目覚めるのか分からないまま、ユーリ達は虎視眈々と城を奪還する機会を窺うしかなかった。
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…………………………
…………
そうして、メルクを助け出してから2ヶ月が過ぎようとした時期に差し掛かる。
それは突然と訪れたのだ。
『…………ん』
「「「…!!!」」」
待ちに待ったメルクが、今この時起きようとしていた。
ゆっくりと開かれる瞳、そこから見える瑠璃色の綺麗な瞳がゆっくりと仲間たちを映した。
『………………ここ、は……』
「「「「「メルクーー!!」」」」」
誰もが涙なくして見れない少女。
それ程待たされたのだから、仕方がないのだ。
子供組が容赦ないタックルをメルクに決めた事で、メルクから呻き声が上がる。
『ぅぐ…!』
痛みを感じないとはいえ、肺を圧迫されると苦しいもので、いきなりの攻撃にから笑いをしながらメルクは子供組を抱き締めた。
パティ「遅いのじゃ〜っ!!!」
カロル「メルク、良かった…!良かったよーー!!!」
ココ「早く、目くらい覚ませよな…っ!」
ロロ「メルクお姉さん…!!」
ユーリ「……あいつら、メルクを殺す気か?」
フレン「良いじゃないか。久しぶりにこうして会話も出来るようになったんだから。仕方がないさ。」
ジュディス「私も抱きしめてこようかしら?」
リタ「やめておきなさいよ。あんたがやると死ぬわよ。」
ジュディス「あら酷いわ。私そんなに怪力じゃないんだけど。」
そんな他愛ないことで笑い合う大人組も、心底ほっとしていたのだ。
ようやく目が覚めたのか、と。
フレン「……これで、後は城を取り戻すだけだ。」
ユーリ「いまいち、向こうが城で何をしてるのか分かんねぇから何とも言えねぇよな。」
レイヴン「そこは何とかして情報を手に入れないとねー?」
メルクに抱き合う子供達を見ながら、ユーリ達はもう1つの目標について話し合った。
そんな時、医師がヌルリと現れメルクの前に立つ。
医「お目覚めですね。体はどうですか?」
『あ、はい…。今は何とも……ないかと思います。』
医「そうですか。では検査を受けましょうか。」
『ひっ…!!』
ゾワリと身震いさせたメルクにレイヴンとフレンだけは哀れな眼差しでメルクを見た。
毎度おなじみの事なので、仲間たちはそれを笑って見過ごす。
しかし、子供は時に残酷だ。
ココ「受けてこいよ、メルク姉。早くその体治した方がいいって。」
ロロ「そうですよ…!メルクお姉さんの体はひとつしかありませんから、受けてきてください…!」
レイヴン「……残酷だわ。」
フレン「えぇ……、残酷ですね……。」
ココとロロに押し出されて医者の前に立たされるメルク。
その顔には焦燥と、恐怖と、子供の前で悪いところは見せられないという母親のような顔をしていた。
そんな複雑な顔をしたメルクを見て、全員が笑った。
そして次の瞬間、医師は軽々とメルクを持ち上げて簡易診察室へと向かう。
『お、お手柔らかに…!!!』
そんな最後の言葉が聞こえた瞬間、例の機械音とメルクの凄まじい悲鳴が聞こえてくる。
サリュとカリュ、そしてココとロロもさすがにその悲鳴に目を見開いて驚く。
ココ「……え?」
ロロ「だ、大丈夫なんですか?!」
レイヴン「音はあれだが……腕は立つ医者でね……?」
フレン「……メルクさんには申し訳ありませんが……、頑張って頂きましょう……。」
あの音の正体を経験した2人からそう告げられて、4人は大人しく検査が終わるのを待つ。
そして、
医「終わりましたよ。」
気絶したメルクを抱え、医師が戻ってきた。
「メルク姉ーーー!!!」とココとロロが心配そうに近付く。
そして「すまねぇ、メルク姉…!」なんて言葉をココが言ってたお陰で、辺りにはドッと笑いが溢れた。
ユーリ「で?どうだったんだ?」
医「えェ…。問題はありませんでしたよ。(今のところは、ですが…。)」
ユーリ「…?(なんか違和感がある言葉だな…。含みがあるっつーか…。)」
ココ「すっげえ音してたけど何してたんだ?」
医「受けてみますか?ムフフッ…!」
ロロ「ひっ……!!」
ココ「いや…、やめとく……。」
子供が泣きそうな笑顔で医師が言うものだから、ココもロロも怖がって後退りをした。
その横を通って医師はメルクを休ませる為に先ほどまで使っていたベッドへとゆっくり横にさせた。
すぐに子供組がメルクに群がり、それを医師を含めた大人組が優しく見守る。
すると医師がユーリを見て、話しかける。
医「少し宜しいですか?」
ユーリ「ん?俺か?」
レイヴン「さらばだ…。青年よ。」
フレン「君もあれを受けてくるといい…。」
ユーリ「は?いや、嘘だろ…?」
するとにっこりと笑う医師にユーリが引き攣った笑みでそれを見返す。
どこも悪くはない。なのに何故自分だけ指名されたのか…。
ユーリは恐る恐る医師の後についていき、診察室へと身を置いた。
そして医師から座るよう言われ、恐々とその椅子に座ると医師の顔が引き締まった。
それに構えたユーリだったがあまりにも真剣な表情だったため、構えを解いた。
ユーリ「…もしかして、メルクの事か?」
医「えェ…そうです。少し、気になることがありまして。貴方にはどうせバレていますから先に話しておきます。」
ユーリ「…バレてる?何のことだ…?」
医「“副作用”の事です。」
ユーリ「!!」
ユーリは目を丸くしてから、真剣に医師に向き合う。
そして医師もそれを見て、重い口を開き始めた。
医「確かにメルクさんの身体には問題はありませんでした。ですが…、宝石を食べた形跡があるのですよ。今回も。」
ユーリ「っ、拘束された状態で無理やりって事か…!」
医「今回メルクさんの目覚めが遅くなったのと関係しているかは分かりませんが、恐らく…副作用が関係していると思われます、はい。」
ユーリ「その副作用は何だったんだ?」
医「残念ながらまだ分かっていません。ですから貴方にも協力してもらいたいのでお呼びしました。副作用が何か、突き止めるために。」
ユーリ「…。」
またメルクは、皆の知らないところで体を壊している。
それが酷く苦しい。
医師からの相談はユーリにとっては重要な事だったため、返事ひとつで承諾した。
ユーリ「…今度は大事になる副作用じゃないといいけどな。」
医「こればっかりは、メルクさんでも分からないようなのでこちらが見極めるしかありません。もし気になる症状があればすぐに言って下さい。検査を重ねますので。」
ユーリ「メルクには悪いが、そうするしかねぇよな。」
医師の検査を怖がる少女を思い浮かべてフッと笑いが溢れる。
やはり自分には少女が居ないと、ダメみたいだ。
ユーリはそのまま診察室を後にしようとして腕を掴まれる。
なんだ、と振り返るとニッコリと子供が泣きそうな笑顔で医師がこちらを見ていた。
何か嫌な予感がしたユーリは咄嗟に逃げようとしたが、強く掴まれて抜け出せない…!
ユーリ「…話は終わっただろ?」
医「いえ、折角なら検査を受けてみられませんか?あそこでああ言った手前、何もせずに戻るのはおかしいと思いませんか?」
ユーリ「いや、おかしくないから離してくれ。」
医「そうですか?くれぐれも疑われないようお願いしますよ。」
そう言って医師が手を離した瞬間、ユーリも手を引っ込める。
そして逃げる形で皆の元へと帰ったユーリの顔は蒼白だったと仲間達が言う。
よく逃げてこれたな、とフレンとレイヴンの痛いくらいの視線を無視し、ユーリは再びメルクの方を見ていた。
ユーリ「(絶対、副作用を見極めてやる…。メルクは嘘が得意だからな…。)」
決意を新たに、ユーリは仲間達を見る。
微笑んでメルクの目覚めを待っている仲間達は、少し前とは違って柔らかな雰囲気を出していたのだった。