第6界層 〜蛙鳴蝉噪なる罪過の湖〜
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メルクが攫われ、ユーリ達は気絶した医師を城へと運んで治療していた。
城付き医師が言うには、頭を殴られているが命に別状はないとの事で、それに全員が安堵の息を吐いていた。
その医師が目を覚ましたのは翌日の事だった。
メルクが攫われた事を酷く悔やんでいたが、あれは誰がどう見ても仕方の無い事だった。
敵に対してこちらの数が違いすぎた。
フレンも白装束を押し退けて助けに来ただけあり、疲労もあっただろう。
ユーリも然り、エステル達も盗賊団との交戦で体力が削られていたのも事実だった。
エステル「メルク……無事だと良いんですが…。」
「彼らが神子であるメルクさんを命の危機に晒すような事はしないはずです。……ですが、向こうにも〝神子〟が居るようですからそこが不明ですが。」
フレン「もしかしたらその神子とやらは、例の偽の〝神子〟ではないだろうか?」
ユーリ「有り得そうだな。だから本物の〝神子〟であるメルクを攫ったんだろうしな。」
そこへ他の仲間たちも集まってくる。
そして全員でメルク捜索が始まる。
緊張しているのは、何も仲間たちだけでは無い。
城の皆も、サリュやカリュ……ココやロロも心配していたのだ。
双子やココ、ロロは特に暫く会えていないだけあって不安が表に出過ぎていた。
それでも見つかると信じて、来る日も来る日もメルクを待ち続けた。
しかし仲間たちからの吉報は一向にやっては来なかった。
───そんな時だった。
レイヴン「良い知らせがあるぜ?」
レイヴンが仲間達にそう声を掛けていた。
客間を使い、全員が集まると皆の視線は必然的にレイヴンに向けられる。
それはメルクの医師や双子、ココやロロも同じだった。
ココ「勿体ぶってないで早く話せよな!」
レイヴン「分かってるって。俺様の情報網でメルクちゃんの所在が分かったんだ。……メルクちゃんはまだ生きてる。」
「「「!!」」」
レイヴンの吉報に取り敢えずその場にいる者が大きく息を吐いて安堵をしていた。
生死から確認に入るのも中々疲れるものだ。
レイヴン「あの白装束の奴らはユグドラシル教って宗教の信教者らしい。そいつらが話していた事なんだが、どうやら向こうの偽神子の体を治す為に薬剤師であるメルクちゃんが必要だったみたいなんだ。だからメルクちゃんが居るのはユグドラシル教の総本山だな。」
カロル「ま、待ってよ!その、“ユグドラシル教”ってなんなのさ?ユグドラシルって、確かメルクの話では〈
ジュディス「会って話をつけないといけないって思ってたけど、それなら話は早いわね。……ま、それが本当なら…の話でしょうけど。」
いつかメルクが聞かせてくれたユグドラシルの話。
メルク自身に神子の力を分け与えている存在で、その存在に頼み込めばメルクは神子から開放される、と話していた。
結局〈
レイヴン「恐らくだけど、向こうさんの真っ赤な嘘だろーねー。ユグドラシルが姿を見せてるならメルクちゃんが何も言わないのはおかしいし、神子自体も真っ赤な嘘だって分かってるからただ信仰心を集めたかっただけだろーし?」
リタ「なんの為に信仰心なんて集めるのよ?」
レイヴン「そこまでは俺様分かんないわよ?」
リタ「役に立たないわねー。」
レイヴン「酷くない?!頑張って集めてきた情報なんだけど?!」
ユーリ「はいはい。それで?他にもあるんだろ?その情報ってやつはよ。」
ユーリが始まりそうな喧嘩を仲裁し、レイヴンを見る。
早く連れ戻すに越したことはないからだ。
向こうの目的が分からない以上、何をされるか分からない。
だからこそこんな所で地団駄を踏んでいる訳にはいかないのだ。
レイヴン「ユグドラシル教の教祖は……アビゴール・ジギタリスとヴィスキント・ロータスだ。」
カロル「そ、それって…!!」
フレン「……なるほど、それなら話の辻褄は合いますね。ギルド〈怪鴟と残花〉の創設者であり、メルクさんの入っていたギルドのギルドマスターですから。今回の騒動、彼らが仕組んでいたとしたら全てが合います。」
ロロ「ギルドマスターが……。」
ココ「だからメルク姉が攫われたんだ…!くそ、あいつら…!またメルク姉を虐めやがって!!」
その場で怒りに任せてココが地面を踏みつける。
そしてグッと拳を握って俯いていた。
カロル「だ、大丈夫なんだよね?メルク。」
レイヴン「今のところは、な?本物の神子であるメルクちゃんに危害は加えないだろうけど、最悪のケースも想定しておくべきだ。」
カロル「最悪のケース……って?」
レイヴン「……。」
途端に口を噤んだのは、ココやロロが居たからだろう。
何となく想像出来た者は、その顔を歪ませていた。
ユーリ「……ともかく、そのユグドラシル教って所の総本山を叩けばメルクを助けられるんだろ?なら話は終わりだ。」
ジュディス「そうね。結局助けに行くのなら早いに越したことはないと思うけど?彼女も泣いて待ってるかもしれないわよ?」
カロル「……うん、うん!そうだよね!これでやっとメルクを取り戻せるね!」
希望が見えてきた。
全員の瞳に宿るのは、新たな決意だけ。
もうそこには悲しみの感情など無かった。
「皆さん、メルクさんをよろしくお願いします。」
サリュ「私達どもからも頼ませてください。どうか、メルク様をよろしくお願いします!」
ココ「ぜってぇ、連れて帰ってくれよ!?」
ロロ「ま、待ってます…!」
「「「あぁ!/えぇ!/うん!」」」
それぞれが反応を返し、城の客間を出た。
目的地はギルド〈怪鴟と残花〉の隠れ家でもあるユグドラシル教総本山へ!
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___ユグドラシル教集会所
中に入れば荘厳な空間が待ち構えていた。
白を基調とした空間で、よくある教会のお祈りの場のように細長く建てられている。
ここで信徒達が集まり、集会しているのだろうことは一目瞭然だった。
カロル「うわ!広っ!」
リタ「こんな所に本当にいるわけ?何も無いじゃない。」
レイヴン「メルクちゃんは恐らく奥の方で囚われてる。ここのホールは信徒達が集まるただの表向きの飾りだからね。」
ユーリ「奥の方、な……。」
ユーリ達はレイヴンの言う通り奥の方を見る。
教壇の横の方に扉があるように見えるだけで、他に扉は無さそうだ。
ジュディス「早く行きましょ?いつ白装束の人達が来るか分からないもの。」
フレン「確かにそうですね…。早くメルクさんを助けましょう。」
皆は奥の扉へと歩みを進める。
そのまま扉を開けると横に伸びる長い廊下が現れた。
所々扉があるのを見ると、部屋が沢山あるようだ。
ユーリ達は廊下に出てどの部屋を開けるか相談をしていた。
レイヴン「ここは手分けして開けてみちゃう?」
カロル「えぇ?何かあったらどうするのさ。」
リタ「なに?ビビってんの?」
カロル「び、ビビってなんかないやい!」
カロルはそう言うと適当な扉を開け放つ。
しかし中はただの部屋でめぼしい物は無さそうだ。
それに倣い、他の仲間たちも扉をひとつひとつ開けていくが、メルクは居なかった。
ユーリ「どこにいんだよ…。」
フレン「もしかしたら、本当に奥に囚われてるかもしれないね。」
ユーリ「なら他の奴ら呼んで、早いところ行こうぜ。」
フレン「気が急いては事を仕損じる、だよ。ユーリ。」
ユーリ「……分かってるっつの。」
フレンが他の人達を呼びに行っている間、ユーリは強く拳を握っていた。
早くメルクを探して助けてやりたい。
その気持ちが強いからこそ、ユーリ自身が焦っているのだ。
何かされてるんじゃないか、と。
怖い目にあってるんじゃないか、と。
全員が集まり奥の方に入ると“拷問室”と書かれた物騒な扉を発見する。
それに子供組が「げ、」と苦言を零す中、大人組は冷静にその扉を見ていた。
ジュディス「ここに居るのかしら?だとしたら大変なことになってそうね。」
レイヴン「ちょ、ジュディスちゃん?もうちょっと言葉選ばない?」
ジュディス「ありのままを言ってあげたのよ。……だから貴方たちもここで覚悟を決めなさい。」
ごくりと誰かの喉が鳴る。
子供組の表情が一気に恐怖の色を湛え、顔も青くなっていく。
もし、拷問されているのなら……と考えさせられたからだ。
ユーリ「……行くぞ。」
ユーリが意を決して扉を開ける。
そこには白の鎖が天井や壁から中央に向かいピンと張られていた。
そして、その中央には───
「「「「メルクっ?!」」」」
そう、少女が白い鎖に囚われていた。
気絶しているのか少女の顔は俯いていて遠くからは見えない。
全員が慌てて中に入り、少女の顔色を窺う。
すると苦しそうな表情のまま気絶している少女が居て、全員が怒りや恐怖、焦燥に駆られる。
カロル「この鎖、硬くて切れないよ?!」
カバンの中からナイフを取りだし、カロルが鎖を切ろうとしていたがどうやらそんなに簡単に助け出せそうにない。
ユーリやフレンも武器を取りだし、思いっきり鎖を斬り落とそうとするが歯が立たない。
何か仕掛けがあるかもしれない、と全員がこの部屋の探索に乗り出した。
エステル「メルク……苦しそうです…。」
フレン「……恐らく、辛い事をされたのかと…。」
中央でメルクの周りを探索していたエステルとフレンがそう会話する。
そして辺りを見渡せば、嫌という程目につく拷問器具の数々。
その拷問器具は乾いた血が所々ついており、酷いものはベッタリと血が付着していた。
リタ「つーか、捕らえるにしてもこれはやり過ぎじゃない?いくら〝神子〟だからって、逃げられる訳ないじゃん。」
この部屋は扉がひとつしかない。
逃げるにしてもあそこの扉からしかなく、思い出す限り拷問室までの道のりは一本道の単調であった。
メルクが逃げるには、この敵地の中一人でどこの部屋にいるかも分からない敵を掻い潜ってあの一本道を通るしかないのだ。
逃げるには不向きな構造をしていたのは、計算されたものなのかは想像に難くない。
カロル「でも、ギルドホームも計算された構造してたし、元々こういう構造の建物を作るのが好きなんじゃない?」
レイヴン「確かにねー?相手さんの考える事は分っかんないわー。」
パティ「分かったら困るのじゃ〜。」
ユーリ「お前ら、口じゃなくて手を動かせ!」
「「「へーい。」」」
皆がなにかスイッチのような物が無いか、探していくが見つかりそうにない。
寧ろ目につくのはやはり異質な拷問器具ばかり。
流石に拷問器具の中にスイッチは無いだろう、と探してみるもやはりそこには何も無い。
リタ「ちょっと、どうすんのよ?何も無いじゃない。」
フレン「それ程までにメルクさんを渡したくないらしい。僕たちが来るのを見越して厳重に捕らえているようだね。」
レイヴン「それか、神子だからと危惧して拘束を強化したか、だな。」
全員が中央に囚われているメルクに目を向ける。
一向に目を開ける様子がないことから、酷いことをされたのだろう事が窺える。
辛い顔をした全員だったが、カロルの言葉に耳を傾ける。
カロル「こうなったら全員で壊さない?」
リタ「どうやって?」
カロル「こう……全員の武器で一斉に叩き込んだら壊れたりしないかな?」
ジュディス「やってみる価値はあるんじゃないかしら?こうしてる今も、敵は何しているか分からないのだし。」
ユーリ「よし、なら早くやっちまうか。」
全員が位置を確認し、それぞれ武器を取り出す。
そして、全員が武器を鎖に叩き込んだ。
ガキンッ!!
すると鎖はなんて事無く破壊され、壊れていく。
中央で囚われていたメルクが鎖から解放され落ちるのを近くにいたフレンが受け止めた。
子供組が大喜びする中、大人組は沈黙していた。
何故なら先程の壊れ方があまりにも不自然だったからだ。
レイヴン「……さっきの…」
ジュディス「あら、貴方も?」
ユーリ「なーんか、手応え無かったんだよな…。」
フレン「……。」
ともかくメルクを助け出せた。
今は早くズラかろうと、子供組が先陣を切って外に出た。
大人組もそのまま廊下へ出ると、そこには敵が待ち構えていた。
ユーリ「はっ!俺たちがここから出てくるのを態々待ってたってか!」
カロル「そう簡単にはいかないよね…!!」
パティ「うーむ、ちょっと数が多いのじゃ〜。横を通り抜けも出来ないのじゃ。」
レイヴン「確かにこれなら、この建物の構造も理にかなってるわねー?」
リタ「ちょっと!そんなこと言ってる場合?!」
敵が襲いかかってきたのを見て、仲間たちは再び武器を手にする。
フレンはメルクを持っているから、回避に専念をする。
その横を守るようにユーリが武器を奮った。
ユーリ「落とすなよ?」
フレン「当然だ。絶対に守りきるに決まっているだろう?」
こうして敵を蹴散らしながらユーリ達は廊下を走っていく。
時折部屋の中から敵が飛び出してきては、それをジュディスやレイヴンが軽く往なしていた。
元の道を辿っていた一行はようやくあの馬鹿でかいホールの扉までやってきた。
その扉を開け放つと、
「「「「っ!!!」」」」
教祖や偽神子、そして信徒達が集まっていたのだ。
どうやら集会をしていたようで信徒達の視線は神子に向けられていたが、突然の大きな音に誰もがそっちに注目したのだ。
リコリス「きゃあああ!人攫いっ!!」
口元に手を当て、偽神子が叫ぶ。
とある信徒は神子の悲鳴で我に返り、メルクを取り戻そうと躍起になり、また別の所ではヒソヒソと噂話を持ち掛ける者も。
「薬師様っ!!?」
「大変だ!薬師様が攫われる!!」
「見てちょうだい……、あの人、確か騎士団長様じゃないかい……?」
「確かに…!何故市民を守るはずの騎士団長様が人攫いなど…?」
そこで大人組は気付いた。
これは端から仕掛けられていた罠だったのだ、と。
迫り来る信徒達にユーリ達は逃げるしか選択肢はなく、長いホールを走り、逃げていくのを教祖2人はニヤリと笑い、見遣る。
アビゴール「なんということだ!騎士団長ともあろうお方が人攫いなど!!!」
ヴィスキント「皆さん、薬師様を取り戻してください!!薬師様が居なければ神子様が嘆き悲しまれます!!」
「薬師様!!」
「この人攫いめ!!」
「騎士団長がなんという恥を!!」
フレン「ぼ、僕は……。」
ユーリ「フレン!あいつらの言葉を気にするな!」
カロル「ち、違うんだよ!攫ったのは僕たちじゃなくて、あの人たちなんだよ!!?」
「そんな嘘信じるか!」
「教祖様がそんなことをするはずないだろう?!」
「薬師様は我々が血眼になって探してようやく探し出せたお方!!それを攫ってるのはお前たちじゃないか!!」
ジュディス「埒が明かないわね。サッサと逃げましょ。」
リタ「賛成だわ。こんなヤツら、何言ったって聞きやしないんだから。放っておきなさい。」
ジュディスとリタの言葉に仲間たちは何とか建物から脱出するのに成功する。
そのまま彼らは城に戻った。
……だが、これが後に起こる悲劇の始まりだった。