第1界層 〜変幻自在なる翻弄の海〜
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__3日目の朝
ユーリ達は緊張しながら各々、自室を出た。
第1界層の中でも、初めの鬼門である3日目になったからだ。
この日を境に幻覚が出てくる、とメルクが言ってた事もあり、用心するに越したことはない。
食堂に集まった皆を見て、誰もがホッと胸を撫で下ろす。
誰もおかしな様子は無さそうだ。
『おはようございます。お加減いかがですか?』
優しい声音のメルクが厨房から笑顔でご飯を持って登場した事で、皆がはぁーーーーと大きな息を吐いた。
「取り敢えず、誰も幻覚を見てなさそうだわね。」
レイヴンも流石に緊張していたのか、椅子の背もたれにぐたりと寄りかかった。
皆一人ひとりの顔を見て頷きあえるのだからきっと大丈夫だろう。
そんな中、一人配膳していたメルクが笑いながら皆に聞こえるように声を出す。
『ご飯が出来ましたよー?』
「「「「いただきますっ!!!」」」」
レイヴンと子供達(言葉では大人と言ってもまだまだ子供)は勢いよく食べ始める。
その中にはエステルの姿も……。
『あらあら、ふふ。まだまだお代わりありますからねー。』
まるで母親と子供の会話である。
ユーリ達もしっかり食べながら、今日の予定をそれぞれに思い浮かべる。
「「「「(メルクと一緒がいいなぁ…)」」」」
ぼんやりと思うのはそういう事。
意外と彼女は愛されているのである。
「メルク、今日は何をするの__って、いない。」
「彼女なら凝りもせず、部屋にずっといるダメな人達にご飯を持っていったわよ。」
カロルがメルクの行方を探すと、ジュディスが口の中の物を嚥下してそう答える。
それをつまらなさそうに見るユーリ。
「ふーん…」
「……メルクちゃん、危ないんじゃねえの?」
ふとレイヴンが零した言葉に、カロルとエステルが首を傾げる。
「いや…杞憂で終わればいいけど…。幻覚が発現するのって、何もおっさん達だけじゃなくない?」
「「「……。」」」
レイヴンの言葉にカロルとエステルが顔を青くして食器をテーブルに置く。
「そういえば、メルクが帰ってきません…!!」
「ま、マズイよ!!」
「お前らはそこで食べてろって。ちょっくら様子見に行ってくるわ」
ユーリはもう食べ終えたようで、食器をテーブルに置くとすぐに席を立ち、食堂を出た。
「……青年もああ見えてメルクちゃんが心配なんだよなぁ…」
「あら、いいじゃない。今度こそ彼にも青春が来て。」
「じゃあ、おっさんも見に行くとしますかね。」
「奇遇ね。私も見に行こうと思ってたのよ。」
ジュディスとレイヴンが同時に立ち上がる。
そして何も言わず、2人して食堂を出て行く。
「……人のこと言えないじゃない。」
ボソッと呟いたリタの言葉に、残りの全員がウンウンと頷いていた。
*.○。・.: * .。○・。.。:*。○。:.・。*.○
メルクはいつもの3人分の食事を持ち、食堂をこっそりと抜けた。
彼らの自室の前に行き、今日もノックをする。
もし出てこなくても、置いておく、と声は掛けたかったから。
『おはようございます。お加減いかがですか?お食事、お持ちしま──』
「入ってきたらダメだ!!すぐ逃げろ!!!」
中から急にそんな声が聞こえたかと思えば、次の瞬間私の体は何かに掴まれ、中へと引きずり込まれていた。
当然、急なことなので彼女の持っていた食事が音を立てて床に散らばっていった。
荒々しい呼吸が目の前にあると気付いた時には、メルクは男に組み敷かれた状態になっていた。
目の前にある男の顔…いや、目の色が明らかにおかしい…!!
「ニク…!!ニクだ!!!」
『にく?』
「や、やめろ!!そいつは今まで食事を運んでくれてた嬢ちゃんだろ?!!いきなりどうしたんだよ?!!」
他の男の人もこの部屋にいたのか、後の2人が顔を真っ青にしこちらを伺っていた。
突然、メルクは首に激しい痛みを感じて呻いた後、目の前のものを認識しようとする。
『うっ?!(一体何が…?!)』
ジュルジュルという気持ち悪い音と、激痛と気持ち悪い感覚がして。
目の前の出来事を冷静に判断しようとすると、目の前の男はメルクに噛み付いていることが分かった。
誰がどう見ても明らかに正気を失っている!!
これはもしかして、〈
『うぅ…!!(パナシーアボトルは…?!)』
腰に着けていたポシェットを探ろうとするも男の手が邪魔していて取らせてくれそうにない。
万事休すか、と思われたその時、扉をこれまた荒々しく蹴破る音がした。
「メルク!!!」
あの声はユーリだ。
慌てたような声色で私の名を呼ぶ彼のその声を希望に変え、必死に手を伸ばす。
『ユーリ…!!』
近くからは相も変わらずジュルリと音を立て、血を啜っている男。
あぁ、失血しすぎて寒ささえ感じてきた。
その瞬間、男が急に目の前から消え、激しい音を立て何かにぶつかった音が耳に届く。
『はぁっ!はぁっ、(一体何が起こってるの…?)』
事態を確認しようと吹き飛ばされたであろう方向へと顔を向けようとするも、首にある傷が激痛を生んでしまい、呻き声に変わるだけ。
「メルク!!!おい、しっかりしろ!!」
『ユーリ…!パナシーア…ボトルを……彼に……!』
ようやく掴めたパナシーアボトルを力なく持ち、ユーリに渡そうとする。
そんな私を見てか、酷く顔を歪めた彼は、パナシーアボトルを私から奪い取ると、狂っていた彼目掛けて思い切り瓶を投げつける。
ガラス瓶が割れるような音がした途端、男が前のめりになり倒れた。
「嬢ちゃん!!!」
レイヴンとジュディスまでも、こちらに入ってきて私の容態を見るやいなや、顔を歪める。
「姫さん呼んでくる!!」
「ええ!! ……大丈夫よ、メルク。ちゃんとまだ生きてるわ!意識をしっかり持つのよ!」
『大丈夫…。私は大丈夫だから…』
「喋らない方がいいわよ…!出血が酷くなる!」
ユーリも近くに来て、私の様子を顔を歪め見ている。
そこへすぐに到着したエステル達も近付いてきて、後から来た人達はメルクの状態を見て息を呑んだ。
「れ、レイズデッド…!!」
エステルが動揺しつつ、回復技を使ってくれる。
あぁ、エステルも回復技を持っていたのか。
なら安心だ、と私は皆が安心出来るように笑顔を浮かべ、目を閉じた。
……少しだけ、休ませて。