湯浴み、水浴び
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高学年ともなれば外に赴く実習も増える。
中にはプロが行う忍務さながらの依頼まであり内容は様々だ。
今夜私が課されたのはある城の参謀となった男の暗殺。その男、なかなかの切れ者らしく、今後脅威になり得るので殺せと学園と親しい城から依頼が舞い込んだのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが私だ。
女中のふりをし、色で仕掛けて殺すというなんともくノ一らしい作戦が立ったのである。
私にかかればこんな依頼はおやすいもので、難なく男ごときっちりと片付けられた。
汚い返り血を散々に浴びてしまったのが唯一の失敗だ。今度は血が出ないように殺さねば、と思いながら学園への帰路を急いだ。
ああそうだ。学園に着く前にこの血を流さねばならない。
このままでは敵が匂いを辿って追ってくる可能性もなくはない。
学園の裏の裏のそのまた裏の山で適当な池を見繕って、私は服を脱ぎその汚れを流しはじめたのだった。
明日が休みなのをいいことに、自分含め級友共々夜練にふけていた。
最終学年だし、以来の一つや二つがきてもおかしくなかったが今夜というか昨夜はなんの用事もなかった。
日が昇ろうとする頃、そろそろお開きにしようと誰かが言った。ちょうどよく疲れてきたため半数以上がそれに賛同しそれぞれに解散した。
そして俺はこの汗をとりあえず流そうと思い、適当な池を探す。
いま帰っても早朝。風呂は空いていないだろうし、鍛錬で熱くなった体を鎮めるのには清く冷たい水がいい。
ここは学園の裏の裏のそのまた裏の山。
すぐに池は見つかった。
池の奥へと進むとぴちゃん、ぴちゃんと水音がする。
はじめは生きのいい魚でもいるのかと思ったがなにやらそうでもないらしい。霧が深く、そこに「なに」がいるか確認するすべはない。
服こそ脱いでしまったがとりあえず持ち合わせの武器を手に取り「誰だ」と声をかける。
すると水音が止み、辺りは静寂に包まれた。
その時、池の水面がきらきらとゆらぎ出した。日が昇りはじめたのだ。
立ち込めていた霧は晴れ、日の光は森の全てを照らしだした。
「とめさ、ぶ、ろ」
池の「それ」は俺と同じく武器を、苦無を構えて立っていた。
日の光は女の裸体を浮かび上がらせ、その肌の白さを際立たせる。その上に置く露が光を反射させているのがなんとも言えないぐらい艶やかで、綺麗だ。
そこにいたのは咲良であった。
「なんだ、貴方だったの。水浴びに敵襲だなんてとんだ不運かと思ったわ」
そう言って咲良は構えを解いた。
「なんだって……先に自分の身体を隠すぐらいしろよ」
俺がそう言うとあいつは笑った。
なぜ笑う。たとえくノ一でも女の端くれだろう、と言うとこう答えが返ってきた。
「むしろくノ一だからよ。この身体さえ武器なの。苦無をわざわざ取り出しにくいよう厳重にしまい込む忍びはいないわ」
冗談を交えて言われたが、そうか、確かにそうだった。
くノ一は女であることを武器にしながら女であることを捨てているのだ。
しかし俺はこいつに対して女の扱いをやめることはできなかった。それはおそらく四年生のあの時のせいだろう。
高学年になると色の授業が始まる。
忍びを目指すものは、忍たまもくのたまももれなく参加せねばならない。
ここで参加を拒否するものは学園を出て行かねばならなく、女子の中にはここで辞めていく者もいるという。
女子はお手つきになればどこかに嫁ぐのも難しくなる。ここでは忍びになる覚悟も見定められているのだ。
くのたまの色の課題相手には忍たまが駆り出されるのが慣いだ。女子より先に色の授業が始まっている四年の忍たまも相手となる例外ではなかった。
四年生になった自分にもくのたまの課題に協力するよう声がかかった。
「ど、同衾、ですか……」
「はい。了承していただけますね。この紙に時間と場所を指定してあります。きちんと行ってやってくださいね、食満くん」
何度もそう山本シナ先生に念を押された。
シナ先生が去って行った後にようやくメモを見たが場所と時間が書いてあるだけで相手の名前はなかった。
だが、となると、同学年のくのたまか。少し気まずいような気もしなくもないが致し方ない。
ちょうど溜まってたし、町で女を買うより安上がりに済むならば選り好みしなくとも良いだろう。
さてその時を迎えた。
夜も更けあたりが静まった頃、忍たま長屋の端の方にある部屋で俺は一人座っていた。
この部屋には布団が敷いてあるだけで、他にはなにもない。灯をともす道具すらない。
灯が入るとしたら奥にある窓から差す月明りぐらいだ。
数週間前に経験したこの雰囲気が緊張感を膨らませる。
ああどうかよく知らない、あまり話したことのない娘であってくれとひたすらに祈る。
ようやく襖が開いた。
祈ったがそれも虚しく、そこにいたのは俺の思い女である咲良であった。彼女は月明りにぼんやりと照らされている。
「えっ、あ、咲良……」
「と、めさぶろう、だったんだ。課題の相手」
咲良は驚き困ったような顔を一瞬したが、その表情を一瞬で隠した。
「すまない、俺なんかが相手で」
永藤咲良は入学当時から有名な生徒であった。
有名な武家の出であることもさることながら、その美しさや性格の良さが噂になっていたのだ。
その上、座学も実技も成績が良く、先生たちからの評価も高い言わば優等生なのである。
俺はそんな彼女に一目惚れしていたのだ。
黒い髪は艶めき、薄茶色の瞳はなにを写しても透き通っている。
実習の時にまるで舞うように武器を繰り出す姿は戦場に咲く花のようで目が離せられなかった。
惚れているのは自分だけではない。
たぶんあいつや、あいつや、あいつだって……咲良が好きなんだ。今や後輩たちも彼女を慕っている。
きっと咲良自身にも好いている人がいるだろうに。素敵な彼女だから、もう彼氏なんてのがいるのかもしれない。
町で女を買うより安上がりだなんて浅はかな考えをしていた自分を憎んだ。
好いた女をこうも容易く抱けると言われても……彼女のことを考えると心から申し訳なく感じるのだ。
「ほんとに、その、ごめん」
「留三郎。そんなことないわよ……あなたでよかった」
「それはいったい……」
ため息が漏れる。
俺は彼女の言葉の真意をつかむことができなかった。
知り合いに抱かれるのに安心したから。もしくはあいつが俺のことを好きだから。それとも他に意味があるのか。
俺が悶々とする間に彼女は目の前まで来ていた。
「ねえ、留三郎。貴方はこれから、わたしを抱くの。貴方が嫌ならば、忍務だと思えばいい。それでも嫌ならば、シナ先生に言ってちょうだい」
そう言って彼女は天井の方を気にした。
「わたしは落第になるけれど……貴方が嫌なことを無理してやりたくは、ない」
二人の間に沈黙が流れる。
咲良はもう割り切れているのだ。
この先、忍務で知らぬ男に抱かれる運命さえも認めてここにいるのだ。
据え膳食わぬはなんとやらと言うが、彼女にここまで言われて自分は何もできないとなれば自分は忍びとしての覚悟が足りないということにもなる。
俺は意を決した。
「……わかった。ならばこれは忍務だ。これから俺は、お前に仕掛けられる男だ」
そう言って彼女を押し倒し、唇を奪った。
差し込む月光が彼女の頬を青白く写す。
ああなんて綺麗なんだろう。
幼いのに女性らしさを思わせる彼女の身体を初めて開いたのは他でもないこの俺だった。
そして、そのことをずるずると忘れられないのも俺だ。当たり前だろう、好きな女なのだから。
恐らく咲良はこのことを気にも留めてないだろう。なにせ彼女はくノ一になるのだ。忘れるのも仕事のうちである。
また成長した彼女の身体はもうほとんど女性として完成されていた。
「なに、まじまじと見て。……もしかして四年生の時のこと、まだ気にしてるの」
彼女には全て見透かされているのだろうか。
思えばあの時も俺の緊張をいち早く感じ取っていた。
「わたしは貴方でよかったって、今でも思うのよ」
「それは知り合いでよかったってことか」
ずっと知りたかったことを少し食い気味で聞いた。
「いいえ。わたしは貴方が好きだったの。だから、まあ、少しラッキーって思ったのよ。貴方も見ないうちにたくましくなったのね」
ふふふ、と優しい笑い声を漏らしながら俺の胸のあたりをぺちぺちと叩く。
「こら、叩くな。というか俺が好きだったって」
ずっとほしかった答えを、しかも期待していた答えをもらえてだいぶ舞い上がってしまった。
「ええ、そうね。でももうだめよわたしは。もう純粋に恋することを許してなんかもらえないもの」
感情を押し殺して声を絞り出しながらなぜ、と問う。
「なぜって、見てこの池を。特にわたしの近く。少し茶色く濁ってるでしょう。ここを汚したのはわたし。昨日の忍務は殺しだったの。この池と同じく、わたしの手は汚れてるもの」
彼女の声はだんだんと細くなり震えていった。
「泣いているのか」
彼女の手を取り握りしめる。
何か慰めの声をかけてやりたい。
「たくさん泣けばいい。殺すことは罪悪だ。しかしそれを自覚しながらもそれをして食って生きていくのが我々だ。お前だけではない。お前の手を握る俺の手だって、もう清くないんだ」
その言葉に顔を上げる彼女の頬を両手で包み込む。
俺を射抜く瞳はまだ清いままだ。
ああ愛しい。この世の何より愛しい。
殺しを覚えても、彼女の心は凍てついたりしていない。こんなにも俺の心を温かく満たすのだから。
「それでも好きよ、留三郎。ねえ好きよ」
「今も俺が好きか」
「心から」
頬に添えた俺の手に今度は彼女が手を重ねる。涙を流す彼女の顔が俺の心をひどく心を締め付けていく。
自分も心のうちを明かさざるを得なかった。
「俺もお前が好きだよ、心から」
「なんとなくわかってた」
また彼女はふふふ、と優しく笑う。
「なのにこんなに泣いたのか」
「だって貴方、あの日すごくよそよそしかったのだもの。嫌われてるのかと思ったわ」
「相手がお前だとわかって動揺したのさ、咲良」
日の光の眩しさに彼女が目を瞑る刹那、俺は涙を拭って頬に口づけを一つ落とす。
頬の感触を感じ取った彼女は目を瞑ったままにこにこと花のように笑う。
なんて愛らしいんだろうか。
この池ごと世界から切り離されたかのようにゆったりと時間が過ぎていく。早く帰らねば朝食を食いっぱぐれるだろうか。しかし嬉しいことに今日は休日なのだ。もっと二人で過ごしたっていい。
気づけば日はだいぶ昇ってきていた。
中にはプロが行う忍務さながらの依頼まであり内容は様々だ。
今夜私が課されたのはある城の参謀となった男の暗殺。その男、なかなかの切れ者らしく、今後脅威になり得るので殺せと学園と親しい城から依頼が舞い込んだのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが私だ。
女中のふりをし、色で仕掛けて殺すというなんともくノ一らしい作戦が立ったのである。
私にかかればこんな依頼はおやすいもので、難なく男ごときっちりと片付けられた。
汚い返り血を散々に浴びてしまったのが唯一の失敗だ。今度は血が出ないように殺さねば、と思いながら学園への帰路を急いだ。
ああそうだ。学園に着く前にこの血を流さねばならない。
このままでは敵が匂いを辿って追ってくる可能性もなくはない。
学園の裏の裏のそのまた裏の山で適当な池を見繕って、私は服を脱ぎその汚れを流しはじめたのだった。
明日が休みなのをいいことに、自分含め級友共々夜練にふけていた。
最終学年だし、以来の一つや二つがきてもおかしくなかったが今夜というか昨夜はなんの用事もなかった。
日が昇ろうとする頃、そろそろお開きにしようと誰かが言った。ちょうどよく疲れてきたため半数以上がそれに賛同しそれぞれに解散した。
そして俺はこの汗をとりあえず流そうと思い、適当な池を探す。
いま帰っても早朝。風呂は空いていないだろうし、鍛錬で熱くなった体を鎮めるのには清く冷たい水がいい。
ここは学園の裏の裏のそのまた裏の山。
すぐに池は見つかった。
池の奥へと進むとぴちゃん、ぴちゃんと水音がする。
はじめは生きのいい魚でもいるのかと思ったがなにやらそうでもないらしい。霧が深く、そこに「なに」がいるか確認するすべはない。
服こそ脱いでしまったがとりあえず持ち合わせの武器を手に取り「誰だ」と声をかける。
すると水音が止み、辺りは静寂に包まれた。
その時、池の水面がきらきらとゆらぎ出した。日が昇りはじめたのだ。
立ち込めていた霧は晴れ、日の光は森の全てを照らしだした。
「とめさ、ぶ、ろ」
池の「それ」は俺と同じく武器を、苦無を構えて立っていた。
日の光は女の裸体を浮かび上がらせ、その肌の白さを際立たせる。その上に置く露が光を反射させているのがなんとも言えないぐらい艶やかで、綺麗だ。
そこにいたのは咲良であった。
「なんだ、貴方だったの。水浴びに敵襲だなんてとんだ不運かと思ったわ」
そう言って咲良は構えを解いた。
「なんだって……先に自分の身体を隠すぐらいしろよ」
俺がそう言うとあいつは笑った。
なぜ笑う。たとえくノ一でも女の端くれだろう、と言うとこう答えが返ってきた。
「むしろくノ一だからよ。この身体さえ武器なの。苦無をわざわざ取り出しにくいよう厳重にしまい込む忍びはいないわ」
冗談を交えて言われたが、そうか、確かにそうだった。
くノ一は女であることを武器にしながら女であることを捨てているのだ。
しかし俺はこいつに対して女の扱いをやめることはできなかった。それはおそらく四年生のあの時のせいだろう。
高学年になると色の授業が始まる。
忍びを目指すものは、忍たまもくのたまももれなく参加せねばならない。
ここで参加を拒否するものは学園を出て行かねばならなく、女子の中にはここで辞めていく者もいるという。
女子はお手つきになればどこかに嫁ぐのも難しくなる。ここでは忍びになる覚悟も見定められているのだ。
くのたまの色の課題相手には忍たまが駆り出されるのが慣いだ。女子より先に色の授業が始まっている四年の忍たまも相手となる例外ではなかった。
四年生になった自分にもくのたまの課題に協力するよう声がかかった。
「ど、同衾、ですか……」
「はい。了承していただけますね。この紙に時間と場所を指定してあります。きちんと行ってやってくださいね、食満くん」
何度もそう山本シナ先生に念を押された。
シナ先生が去って行った後にようやくメモを見たが場所と時間が書いてあるだけで相手の名前はなかった。
だが、となると、同学年のくのたまか。少し気まずいような気もしなくもないが致し方ない。
ちょうど溜まってたし、町で女を買うより安上がりに済むならば選り好みしなくとも良いだろう。
さてその時を迎えた。
夜も更けあたりが静まった頃、忍たま長屋の端の方にある部屋で俺は一人座っていた。
この部屋には布団が敷いてあるだけで、他にはなにもない。灯をともす道具すらない。
灯が入るとしたら奥にある窓から差す月明りぐらいだ。
数週間前に経験したこの雰囲気が緊張感を膨らませる。
ああどうかよく知らない、あまり話したことのない娘であってくれとひたすらに祈る。
ようやく襖が開いた。
祈ったがそれも虚しく、そこにいたのは俺の思い女である咲良であった。彼女は月明りにぼんやりと照らされている。
「えっ、あ、咲良……」
「と、めさぶろう、だったんだ。課題の相手」
咲良は驚き困ったような顔を一瞬したが、その表情を一瞬で隠した。
「すまない、俺なんかが相手で」
永藤咲良は入学当時から有名な生徒であった。
有名な武家の出であることもさることながら、その美しさや性格の良さが噂になっていたのだ。
その上、座学も実技も成績が良く、先生たちからの評価も高い言わば優等生なのである。
俺はそんな彼女に一目惚れしていたのだ。
黒い髪は艶めき、薄茶色の瞳はなにを写しても透き通っている。
実習の時にまるで舞うように武器を繰り出す姿は戦場に咲く花のようで目が離せられなかった。
惚れているのは自分だけではない。
たぶんあいつや、あいつや、あいつだって……咲良が好きなんだ。今や後輩たちも彼女を慕っている。
きっと咲良自身にも好いている人がいるだろうに。素敵な彼女だから、もう彼氏なんてのがいるのかもしれない。
町で女を買うより安上がりだなんて浅はかな考えをしていた自分を憎んだ。
好いた女をこうも容易く抱けると言われても……彼女のことを考えると心から申し訳なく感じるのだ。
「ほんとに、その、ごめん」
「留三郎。そんなことないわよ……あなたでよかった」
「それはいったい……」
ため息が漏れる。
俺は彼女の言葉の真意をつかむことができなかった。
知り合いに抱かれるのに安心したから。もしくはあいつが俺のことを好きだから。それとも他に意味があるのか。
俺が悶々とする間に彼女は目の前まで来ていた。
「ねえ、留三郎。貴方はこれから、わたしを抱くの。貴方が嫌ならば、忍務だと思えばいい。それでも嫌ならば、シナ先生に言ってちょうだい」
そう言って彼女は天井の方を気にした。
「わたしは落第になるけれど……貴方が嫌なことを無理してやりたくは、ない」
二人の間に沈黙が流れる。
咲良はもう割り切れているのだ。
この先、忍務で知らぬ男に抱かれる運命さえも認めてここにいるのだ。
据え膳食わぬはなんとやらと言うが、彼女にここまで言われて自分は何もできないとなれば自分は忍びとしての覚悟が足りないということにもなる。
俺は意を決した。
「……わかった。ならばこれは忍務だ。これから俺は、お前に仕掛けられる男だ」
そう言って彼女を押し倒し、唇を奪った。
差し込む月光が彼女の頬を青白く写す。
ああなんて綺麗なんだろう。
幼いのに女性らしさを思わせる彼女の身体を初めて開いたのは他でもないこの俺だった。
そして、そのことをずるずると忘れられないのも俺だ。当たり前だろう、好きな女なのだから。
恐らく咲良はこのことを気にも留めてないだろう。なにせ彼女はくノ一になるのだ。忘れるのも仕事のうちである。
また成長した彼女の身体はもうほとんど女性として完成されていた。
「なに、まじまじと見て。……もしかして四年生の時のこと、まだ気にしてるの」
彼女には全て見透かされているのだろうか。
思えばあの時も俺の緊張をいち早く感じ取っていた。
「わたしは貴方でよかったって、今でも思うのよ」
「それは知り合いでよかったってことか」
ずっと知りたかったことを少し食い気味で聞いた。
「いいえ。わたしは貴方が好きだったの。だから、まあ、少しラッキーって思ったのよ。貴方も見ないうちにたくましくなったのね」
ふふふ、と優しい笑い声を漏らしながら俺の胸のあたりをぺちぺちと叩く。
「こら、叩くな。というか俺が好きだったって」
ずっとほしかった答えを、しかも期待していた答えをもらえてだいぶ舞い上がってしまった。
「ええ、そうね。でももうだめよわたしは。もう純粋に恋することを許してなんかもらえないもの」
感情を押し殺して声を絞り出しながらなぜ、と問う。
「なぜって、見てこの池を。特にわたしの近く。少し茶色く濁ってるでしょう。ここを汚したのはわたし。昨日の忍務は殺しだったの。この池と同じく、わたしの手は汚れてるもの」
彼女の声はだんだんと細くなり震えていった。
「泣いているのか」
彼女の手を取り握りしめる。
何か慰めの声をかけてやりたい。
「たくさん泣けばいい。殺すことは罪悪だ。しかしそれを自覚しながらもそれをして食って生きていくのが我々だ。お前だけではない。お前の手を握る俺の手だって、もう清くないんだ」
その言葉に顔を上げる彼女の頬を両手で包み込む。
俺を射抜く瞳はまだ清いままだ。
ああ愛しい。この世の何より愛しい。
殺しを覚えても、彼女の心は凍てついたりしていない。こんなにも俺の心を温かく満たすのだから。
「それでも好きよ、留三郎。ねえ好きよ」
「今も俺が好きか」
「心から」
頬に添えた俺の手に今度は彼女が手を重ねる。涙を流す彼女の顔が俺の心をひどく心を締め付けていく。
自分も心のうちを明かさざるを得なかった。
「俺もお前が好きだよ、心から」
「なんとなくわかってた」
また彼女はふふふ、と優しく笑う。
「なのにこんなに泣いたのか」
「だって貴方、あの日すごくよそよそしかったのだもの。嫌われてるのかと思ったわ」
「相手がお前だとわかって動揺したのさ、咲良」
日の光の眩しさに彼女が目を瞑る刹那、俺は涙を拭って頬に口づけを一つ落とす。
頬の感触を感じ取った彼女は目を瞑ったままにこにこと花のように笑う。
なんて愛らしいんだろうか。
この池ごと世界から切り離されたかのようにゆったりと時間が過ぎていく。早く帰らねば朝食を食いっぱぐれるだろうか。しかし嬉しいことに今日は休日なのだ。もっと二人で過ごしたっていい。
気づけば日はだいぶ昇ってきていた。
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