夕焼け色のはざまに

翌日、ナルトは昨日の任務報告を遅れたペナルティとして、火影塔の一室で資料整理をさせられていた。

「なんでだよー!俺ってば今日は休みだったはずなのによ!カカシ先生、酷いってばよ!」

ブーブーと文句ばかり言ってる隣で
「俺なんか、もっととばっちりじゃねーかよ!」
イライラしながら、でも手はテキパキと作業をこなしてるシカマルが言いはなった。


昨日、シカマルが作業報告に火影室に行った時に、慌ててナルトが任務報告にやってきた。
サイはとっくに任務報告を終えて帰っていて、ナルトの分も報告してあったのだが、遅れた理由が何とも煮え切らない内容だったので、翌日の資料整理をカカシは頼んだ。

「えーっ!なんでだってばよ!俺、明日やっと休みなのによ!」
「サイだけに任務報告頼んじゃったでしょ。しかも、理由が買い物手伝ってたって。」
「だってよー、ヒナタが大変そうだったからさぁ!」

カカシはナルトの遅刻の理由が何とも昔の旧友と似ているもんだと苦笑いした。

「でもいつもそうだろ?だから今回は資料整理でよろしくね!」
「カカシ先生、鬼だってばよ!」
「何も一人でっていってないでしょ。シカマルもついているんだから。」

その場に居合わせただけのシカマルはぐるっとカカシの方を振り返った。

「俺っスか!?なんで!」
「正直ナルトだけじゃ整理に時間かかりそうだから、シカマルがいてくれれば早いかなって。」
「六代目!俺だって、やることいっぱいあるんっスけど!?」

手を合わせて頼み込むカカシを見て、何かあると踏んだシカマルは渋々承諾した。
「じゃあ明日頼んだからねー!」
ひらひらと手を返すかカカシにナルトはケッと思いながら火影室から出ていった。


シカマルはナルトが出るのを見計らって、カカシに問いた。
「ナルトにバレちゃまずい案件があるんよね?」
「ああ、ヒナタ絡みのね。」

やっぱりそうか、とシカマルは項垂れた。


最近のナルトはヒナタを見掛けると何かしら付きまとう事が多く、同期の間にも頭を悩ませる事も少なくなかった。

ヒナタがナルトの事を想っていることは分かっているが、ナルトの方は無意識でヒナタに近づいているところから厄介なのもこの上無いのだった。

「2~3日ヒナタのみ指名の任務だから、それがナルトに分かっちゃうと、付いて行きかねないからね。」
「確かにありえそうだな。で、行くまではナルトを見張っとけばいいんスよね?」
「さすがシカマル、わかってるねぇ。午前中には発つからそれぐらいまではヨロシクね!」

デッカイお守りを申し付けられたシカマルは、ハァと盛大なため息をついた。


そして本日、実質はナルトのお目付け役としてのシカマルがナルトと一緒に資料整理をしていたのだ。

「それにしてもスゲー量だよな。今日中に終わるのかってばよ!」
「俺だってわかるかよ!とりあえずやらなきゃ終わんねーだろ!?手を動かせ、手を!!」

ブチブチといいながら作業をしていると、何やら薬品の入った小瓶と巻物を見つけた。

「なんだこれ?」
「ああそれは、これから医療班に分析頼むヤツだ。」
「じゃあ俺が届けに行くってばよ!」
「あっ!おい、待てよ!」


資料整理に飽き飽きしていたナルトはシカマルの制止よりも先にさっさと部屋を出て医療班のいる場所まで向かった。

「おーい、これ分析頼むってよ。」

ナルトは医療班の一人に小瓶と巻物を渡した。
「シカマルさんが言ってたものですね。ナルトさん、ありがとうございます。」

受け取った医療班の男性は深々と丁寧にお辞儀をした。
「じゃあ俺また戻るからな。」

ナルトはシカマルのいる資料室へ戻ろうと部屋を出ようとしたとき、ナルトから受け取った男性に別の医療班の人が話しかけていた。

「その薬品ですか?」
「はい。昨日火影塔の受付に届けられたものです。」
「本当はもう少し大きい瓶で、なんでも今日、日向さん指名で薬品を送り届けに持っていったやつですね。」

ナルトは話していた内容に『日向さん指名』という言葉を聞いて、慌てて振り返った。
「おい!今の話って…日向ってまさかヒナタの事か!?」

話をしていた医療班の二人にナルトは凄い勢いで詰め寄った。

医療班の男性はナルトのあまりの形相に驚きながらも口を開いた。
「はっはい。多分そうだと…思いますが…。」

「チッ!なんでヒナタなんだよっ…!」

ナルトは聞くや否や、踵を返してカカシのいる火影室に走っていった。


物凄い勢いで火影室のドアを開けると共に怒鳴り付けるかのようにカカシに詰め寄った。

「カカシ先生!どういうことだってばよ!!」

ナルトの慌てたような凄い顔を見て、すぐに察した。
「あ、ひょっとして知っちゃった?」
「ヒナタ指名ってなんだってばよ!?まさか一人でいかせたのか?」

「うーん、それね。ヒナタ指名っていうのもあるけど、届け先が近隣の大名の所だから白眼での潜入捜査も兼ねてるからね。」
「だからってよ!薬の分析も済んでねーんだろ!?一人じゃ何があるかわかんねーじゃねえか!」
「その辺りは慎重にいってもらうようには伝えてあるから大丈夫だとは思うけど。ヒナタだってそんな簡単にはやられはしないよ。」
「そ、そりゃヒナタは強ぇけどよ…!」


ナルトとカカシのやり取りを聞きつけ、シカマルも火影室に入ってきた。

「うっせーよ、ナルト!とりあえず大名の所だから直ぐにどうこうなる訳じゃねーだろ。」

シカマルの言葉にナルトはキッとシカマルを振り返った。
「シカマルも知ってたのかよ!」
「ああ、少しはな。ヒナタが一人で行くの知ったら、お前は引き留めるだろ?」
「当たり前じゃねーかよ!一人じゃ行かせられねーだろ!?」

シカマルは埒があかないといったように、両手を広げながら、首を横に振った。

「だから、ナルトには知らせなかったんだ。これは潜入捜査という任務だ。何かあったら直ぐに知らせる手筈もとってある。」
すかさずカカシは話に割って入った。

任務と言われるとナルトもぐうの音も出ない。
「だってよー。まだ医療班の薬の分析もまだ出てねえんだろ?それが分かってからでも良かったんじゃねーのかよ!」
「それもそうなんだけど、日時の指定もあってね。先ずは怪しまれないように行く事が先決でね。」
「だからって、ヒナタ指名なんだよ!」
「その調査も兼ねて、ヒナタに行ってもらってるんだ。薬品と巻物の分析次第でこちらも動くかどうかを決めるから。」

カカシはナルトを落ち着かせるようにゆっくり言った。

「じゃあ俺ってば、医療班に早く分析してもらうように言ってくるってばよ!」

慌てて火影室を出ようとしたとき、シカマルの影縛りの術で捕まえられた。
「お前が行ったら逆に遅くなっちまうぜ!」
「んだよ!シカマルっ!」
「とりあえず分析が終わるまで待つんだな。」

ナルトはシカマルの影に縛られながら、先程の資料室まで連れていかれた。

カカシもやれやれといったふうに怒涛のような騒ぎを見送った。
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