Case3.紫蘇の場合
ガシャーン! という派手な音と共に、食器が割れた。
「だ、大丈夫? 紫蘇君」
慌てて駆け寄ってくる黄乃を、紫蘇は手で制する。
「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと手がすべっちゃっただけ……」
「手がすべったぁ~? どーせまたズルしよーとしたんだろ?」
冷かす声に、むっとして紫蘇が振り返ると、潮が面白そうに後ろから覗いていた。じろっと睨みながら、紫蘇が聞き返す。
「なんのこと?」
「そらっとぼけなさんなって。昨日、必死こいて練習してたの知ってるんだぜ? 紫蘇。やめとけって、まだその程度の制御じゃ、そんな上手くすいすい運ぶなんて、夢のまた夢……」
「よく言うよ。潮兄なんて、こないだ僕のおやつ、また勝手に食べたじゃないか。偉そうな事言わないでよ」
「まーまー、年上の言うことは聞いとくもんだぜ? ついでに敬っとくんだな! この苺、いただきーぃ!」
そう言って、黄乃があっと声を上げる間もなく、潮が紫蘇の残しておいた、苺のショートケーキの苺を口に放り込む。
(あーあ……)
冷や冷やしながら展開を見守る黄乃。
愕然と見ていた紫蘇だったが、次の瞬間。
カタカタ…… カタカタカタ……
(え……っ、何?)
「よくも……よくも僕のイチゴを……!」
「ま、待て待て紫蘇っ! 落ち着けってっ!」
混乱して周囲を見回す黄乃は、あたりの変化に気がついた。テーブルの上の食器や、棚の本が、小刻みに揺れている。
(これって……紫蘇君の能力?)
「わ、悪かった……俺が悪かったから! だから……」
ガタガタ…… ガタガタガタガタッ!
「「うわぁっ!」」
黄乃と潮の悲鳴が、同時に上がる。慌ててソファの影に隠れた黄乃の背後から、次々食器やフォークが飛んできた。次いで、潮の悲鳴と、逃げ回る足音。
「ぎゃあぁっ! おま、食器は反則だって! せめて陶器はやめろ、割れるから!」
「大丈夫、ちゃんとソファーは狙って投げてる……」
「そういう問題じゃね……うっお、あぶね!」
「だいたい、潮兄はいつも僕のおやつ勝手に食べるじゃないか! 遅刻はするし掃除は手伝わないし料理にケチはつけるし!」
「え? 掃除は箒で野球と雑巾レースをするためにあr……わーったわーった! 怒るな! 投げるなって!」
(ポルターガイスト……だ……)
あたり一面を無造作に舞う物体を見ながら、黄乃は呆然と思った。喧嘩しているのが潮と紫蘇だと、全く怖くないが。
「いっ……?! ちょ、辞書を投げるな辞書を! せめて文庫本にしろ! てか、なんでいつもは制御できてないくせに、俺に当てる時だけ命中率い……っ! いってぇ!」
「それは、潮兄が僕を怒らせるからでしょ……!」
(いつも喧嘩するとこんななのかな……大変だなぁ)
静かながらも怒気の孕んだ声を、苦笑をもって聞きながら、黄乃が隠れたまま成り行きを見守っていると、
「あぁっ!」
今度は、別の声がした。
「焔?」
「焔兄? どうしたの?」
すぐさま停戦した二人が、冷蔵庫の方へ向かう。慌てて黄乃も後を追うが、散乱した物体のせいでなかなか進めない。つまずきながら、やっとのことで黄乃が追いつくと、そこには、冷凍庫の扉を開けて茫然と佇む焔がいた。
若干青ざめた顔を見合わせ、おろおろする紫蘇と潮に挟まれ、焔はぼそりと呟いたのだった。
「チョコバーが、ない……」
Case3.End.
「だ、大丈夫? 紫蘇君」
慌てて駆け寄ってくる黄乃を、紫蘇は手で制する。
「あ、あぁ、大丈夫。ちょっと手がすべっちゃっただけ……」
「手がすべったぁ~? どーせまたズルしよーとしたんだろ?」
冷かす声に、むっとして紫蘇が振り返ると、潮が面白そうに後ろから覗いていた。じろっと睨みながら、紫蘇が聞き返す。
「なんのこと?」
「そらっとぼけなさんなって。昨日、必死こいて練習してたの知ってるんだぜ? 紫蘇。やめとけって、まだその程度の制御じゃ、そんな上手くすいすい運ぶなんて、夢のまた夢……」
「よく言うよ。潮兄なんて、こないだ僕のおやつ、また勝手に食べたじゃないか。偉そうな事言わないでよ」
「まーまー、年上の言うことは聞いとくもんだぜ? ついでに敬っとくんだな! この苺、いただきーぃ!」
そう言って、黄乃があっと声を上げる間もなく、潮が紫蘇の残しておいた、苺のショートケーキの苺を口に放り込む。
(あーあ……)
冷や冷やしながら展開を見守る黄乃。
愕然と見ていた紫蘇だったが、次の瞬間。
カタカタ…… カタカタカタ……
(え……っ、何?)
「よくも……よくも僕のイチゴを……!」
「ま、待て待て紫蘇っ! 落ち着けってっ!」
混乱して周囲を見回す黄乃は、あたりの変化に気がついた。テーブルの上の食器や、棚の本が、小刻みに揺れている。
(これって……紫蘇君の能力?)
「わ、悪かった……俺が悪かったから! だから……」
ガタガタ…… ガタガタガタガタッ!
「「うわぁっ!」」
黄乃と潮の悲鳴が、同時に上がる。慌ててソファの影に隠れた黄乃の背後から、次々食器やフォークが飛んできた。次いで、潮の悲鳴と、逃げ回る足音。
「ぎゃあぁっ! おま、食器は反則だって! せめて陶器はやめろ、割れるから!」
「大丈夫、ちゃんとソファーは狙って投げてる……」
「そういう問題じゃね……うっお、あぶね!」
「だいたい、潮兄はいつも僕のおやつ勝手に食べるじゃないか! 遅刻はするし掃除は手伝わないし料理にケチはつけるし!」
「え? 掃除は箒で野球と雑巾レースをするためにあr……わーったわーった! 怒るな! 投げるなって!」
(ポルターガイスト……だ……)
あたり一面を無造作に舞う物体を見ながら、黄乃は呆然と思った。喧嘩しているのが潮と紫蘇だと、全く怖くないが。
「いっ……?! ちょ、辞書を投げるな辞書を! せめて文庫本にしろ! てか、なんでいつもは制御できてないくせに、俺に当てる時だけ命中率い……っ! いってぇ!」
「それは、潮兄が僕を怒らせるからでしょ……!」
(いつも喧嘩するとこんななのかな……大変だなぁ)
静かながらも怒気の孕んだ声を、苦笑をもって聞きながら、黄乃が隠れたまま成り行きを見守っていると、
「あぁっ!」
今度は、別の声がした。
「焔?」
「焔兄? どうしたの?」
すぐさま停戦した二人が、冷蔵庫の方へ向かう。慌てて黄乃も後を追うが、散乱した物体のせいでなかなか進めない。つまずきながら、やっとのことで黄乃が追いつくと、そこには、冷凍庫の扉を開けて茫然と佇む焔がいた。
若干青ざめた顔を見合わせ、おろおろする紫蘇と潮に挟まれ、焔はぼそりと呟いたのだった。
「チョコバーが、ない……」
Case3.End.