第一章 Grib boblerne
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むかしむかし、とある海沿いの小さな村に歌が大好きな女の子がおりました。
女の子の一族は代々、王宮に使える音楽家の家系でした。
そのせいもあってか、幼い頃から楽器や歌に触れる機会が多かった彼女が音楽を好きになるのは必然なことでした。
女の子のお父さんはお城でヴァイオリンを弾いており、その音色は聞く人全てを魅了する素晴らしいものでしたが、一番得意で大好きだったのは、ギターでした。
休日は二人でお屋敷近くの浜辺に行き、お父さんが奏でるギターの音色に合わせ、鈴を転がしたかのような歌声で歌う姿はまさに小さな歌姫。亡くなったお母さん譲りの美しく艶やかな深い赤髪に海の青を搾り取ったかのような煌めく瞳。真珠の頬にうっすらと花咲く紅。
女の子はお父さんが大好きでした。またお父さんも女の子のことが大好きでした。
そんな親子の演奏をこっそり聴きにくる、海からの観客たちも二人の演奏が好きでした。
ある日のことです。
いつものように二人仲良く手を繋ぎ、浜辺へと向かう途中、忘れ物をしたことに気がつきました。
お父さんが戻ってくるまでの間、女の子は砂浜の上に絵を書いたり、貝殻を集めたりして、待っておりました。
しかし、いつまで経ってもお父さんは来ません。退屈になった女の子は絵描きも貝殻集めもやめて、何か違うことをしたいと思っていると、海の方から何かが飛び跳ねるような音がしました。
普通の魚とは違う。もっと大きな何か。
不思議に思った女の子は音がした岩場の方へと足を運びました。しかし、そこには何もなく、ただ波が打ち寄せているだけ。
どうやら、気のせいだったと戻ろうとした途端、濡れていた岩場で足を滑らせ、海へと落っこちてしまいました。
浮き沈みする頭。必死になって、手足を動かしてみますが、氷が溶けたばかりの海は、容赦なく、体温を奪っていきます。
遠ざかっていく陽の光をぼんやりと眺めていると、誰かが突然、女の子を腕を掴みました。
海水の痛さに耐えながら、目を見開くと、そこには人魚の姿がありました。一人だけではありません。驚いた女の子はますます目を丸めました。しかし、人魚たちはそれに構うことなく、
岩場の方へと連れていきました。
女の子はひどく驚きました。
言い伝えでしか聞いたことのなかった人魚がそこにいたのですから。
人魚たちも同じでした。人間というのはこれほどまでに金槌な生き物なのかと。陸でしか息ができないという噂も本当なんだと。そして、何より、枝分かれした二つの脚が珍しくて仕方がありませんでした。
お互いに見つめ合う中、一人の人魚が名前を尋ねてきました。人の言葉が話せることに一瞬、女の子は驚きながらも、恐る恐る口を開きました。
「私の名前は―――」
それが女の子と彼らの出会いでした。
◆◇◆
女の子と人魚たちはすぐに仲良くなりました。
姿は違えども、住む場所は違えども、そんなものは関係ありません。女の子は海の世界に。彼らは陸の世界に興味を抱いては、お互いに自分の住む世界の話をしていました。あの日、初めて会った、あの岩場で日が暮れるまで遊ぶのを繰り返す毎日。
しかし、月日が経ったある日、女の子に不幸が襲いました。
お城の演奏会に向かう為にお父さんが乗っていた船が嵐で沈んでしまったのです。
女の子は毎日毎日、泣いておりました。
唯一の肉親であるお父さんを亡くした悲しみは言葉に表せるものではありません。
女の子は、友達の人魚が魔法の勉強をしていることを思い出しました。どんな願いも叶えられる魔法を。
女の子は人魚に頼みました。「お父さんに会いたい」と。
しかし、人魚は「その魔法はまだ未完成だから、何が起こるかわからない」と拒みました。
それでも言うことを聞かない女の子に「願いを叶える代償として、何かを失ってしまうかもしれない」と言いますが、女の子は忠告を無視し、半ば強引に契約書に自分の名前を書きました。
書き終えた途端、突然、焼けるような痛さが喉の奥を迸り、耳の奥では大量の水が入り込み、鼓膜を打ち破られるような感覚に襲われました。
喉を耳を抑え、苦しそうにもがく夢主の様子を見て助けようにも、人魚たちにはどうすることもできません。未完成の魔法なのですから。
「大丈夫か!」
その時、そこに漁から帰ってきた村人達がやってきました。その声に人魚たちは咄嗟に姿を隠しました。
「一体、どうしちゃったんだよ」
「これは、もしかして……」
「とりあえず、医者だ!医者を呼べ!」
その村では「海の民と陸の民が会ってはいけない」という掟がありました。もしも、この掟を破ろうものなら、とんでもない災いがおこると。
それにはこんな言い伝えがありました。
昔、人魚の娘と恋に落ちた村の若者がおりました。種族が違えども二人の愛は深く、いつしか離れがたい存在となってしまいました。
しかし、二人に不幸が襲いました。
人魚の肉を食べれば永遠の命を得られると根も葉もない噂に目が眩んだ村人達は若者の後をつけ、人魚を捕まえ、村長に献上したのです。それを怒った海の神が大嵐を起こし、高波で村を呑み込んだ。それだけにとどまらず、不漁が続いたり、干ばつが起こりました。
その伝説から、その村では陸と海の民は決して会ってはいけない。もし会おうものならば、村に災いがもたらされる信じられていた。
「やはり、海の民に取り憑かれていたか」
「言っただろう。奴らに心を奪われていたんだ」
「このままだと村に恐ろしい災いが起こる」
遠い国の著名な魔法医術士にも診せましたが、女の子は元に戻りませんでした。
人魚の言っていたことは本当でした。
女の子は美しい声と健康な耳を失いました。
そして、女の子は海に行くことを禁じられ、忌々しい海の民たちと引き剥がされてしまいましたとさ。めでたし、めでたし。
女の子の一族は代々、王宮に使える音楽家の家系でした。
そのせいもあってか、幼い頃から楽器や歌に触れる機会が多かった彼女が音楽を好きになるのは必然なことでした。
女の子のお父さんはお城でヴァイオリンを弾いており、その音色は聞く人全てを魅了する素晴らしいものでしたが、一番得意で大好きだったのは、ギターでした。
休日は二人でお屋敷近くの浜辺に行き、お父さんが奏でるギターの音色に合わせ、鈴を転がしたかのような歌声で歌う姿はまさに小さな歌姫。亡くなったお母さん譲りの美しく艶やかな深い赤髪に海の青を搾り取ったかのような煌めく瞳。真珠の頬にうっすらと花咲く紅。
女の子はお父さんが大好きでした。またお父さんも女の子のことが大好きでした。
そんな親子の演奏をこっそり聴きにくる、海からの観客たちも二人の演奏が好きでした。
ある日のことです。
いつものように二人仲良く手を繋ぎ、浜辺へと向かう途中、忘れ物をしたことに気がつきました。
お父さんが戻ってくるまでの間、女の子は砂浜の上に絵を書いたり、貝殻を集めたりして、待っておりました。
しかし、いつまで経ってもお父さんは来ません。退屈になった女の子は絵描きも貝殻集めもやめて、何か違うことをしたいと思っていると、海の方から何かが飛び跳ねるような音がしました。
普通の魚とは違う。もっと大きな何か。
不思議に思った女の子は音がした岩場の方へと足を運びました。しかし、そこには何もなく、ただ波が打ち寄せているだけ。
どうやら、気のせいだったと戻ろうとした途端、濡れていた岩場で足を滑らせ、海へと落っこちてしまいました。
浮き沈みする頭。必死になって、手足を動かしてみますが、氷が溶けたばかりの海は、容赦なく、体温を奪っていきます。
遠ざかっていく陽の光をぼんやりと眺めていると、誰かが突然、女の子を腕を掴みました。
海水の痛さに耐えながら、目を見開くと、そこには人魚の姿がありました。一人だけではありません。驚いた女の子はますます目を丸めました。しかし、人魚たちはそれに構うことなく、
岩場の方へと連れていきました。
女の子はひどく驚きました。
言い伝えでしか聞いたことのなかった人魚がそこにいたのですから。
人魚たちも同じでした。人間というのはこれほどまでに金槌な生き物なのかと。陸でしか息ができないという噂も本当なんだと。そして、何より、枝分かれした二つの脚が珍しくて仕方がありませんでした。
お互いに見つめ合う中、一人の人魚が名前を尋ねてきました。人の言葉が話せることに一瞬、女の子は驚きながらも、恐る恐る口を開きました。
「私の名前は―――」
それが女の子と彼らの出会いでした。
◆◇◆
女の子と人魚たちはすぐに仲良くなりました。
姿は違えども、住む場所は違えども、そんなものは関係ありません。女の子は海の世界に。彼らは陸の世界に興味を抱いては、お互いに自分の住む世界の話をしていました。あの日、初めて会った、あの岩場で日が暮れるまで遊ぶのを繰り返す毎日。
しかし、月日が経ったある日、女の子に不幸が襲いました。
お城の演奏会に向かう為にお父さんが乗っていた船が嵐で沈んでしまったのです。
女の子は毎日毎日、泣いておりました。
唯一の肉親であるお父さんを亡くした悲しみは言葉に表せるものではありません。
女の子は、友達の人魚が魔法の勉強をしていることを思い出しました。どんな願いも叶えられる魔法を。
女の子は人魚に頼みました。「お父さんに会いたい」と。
しかし、人魚は「その魔法はまだ未完成だから、何が起こるかわからない」と拒みました。
それでも言うことを聞かない女の子に「願いを叶える代償として、何かを失ってしまうかもしれない」と言いますが、女の子は忠告を無視し、半ば強引に契約書に自分の名前を書きました。
書き終えた途端、突然、焼けるような痛さが喉の奥を迸り、耳の奥では大量の水が入り込み、鼓膜を打ち破られるような感覚に襲われました。
喉を耳を抑え、苦しそうにもがく夢主の様子を見て助けようにも、人魚たちにはどうすることもできません。未完成の魔法なのですから。
「大丈夫か!」
その時、そこに漁から帰ってきた村人達がやってきました。その声に人魚たちは咄嗟に姿を隠しました。
「一体、どうしちゃったんだよ」
「これは、もしかして……」
「とりあえず、医者だ!医者を呼べ!」
その村では「海の民と陸の民が会ってはいけない」という掟がありました。もしも、この掟を破ろうものなら、とんでもない災いがおこると。
それにはこんな言い伝えがありました。
昔、人魚の娘と恋に落ちた村の若者がおりました。種族が違えども二人の愛は深く、いつしか離れがたい存在となってしまいました。
しかし、二人に不幸が襲いました。
人魚の肉を食べれば永遠の命を得られると根も葉もない噂に目が眩んだ村人達は若者の後をつけ、人魚を捕まえ、村長に献上したのです。それを怒った海の神が大嵐を起こし、高波で村を呑み込んだ。それだけにとどまらず、不漁が続いたり、干ばつが起こりました。
その伝説から、その村では陸と海の民は決して会ってはいけない。もし会おうものならば、村に災いがもたらされる信じられていた。
「やはり、海の民に取り憑かれていたか」
「言っただろう。奴らに心を奪われていたんだ」
「このままだと村に恐ろしい災いが起こる」
遠い国の著名な魔法医術士にも診せましたが、女の子は元に戻りませんでした。
人魚の言っていたことは本当でした。
女の子は美しい声と健康な耳を失いました。
そして、女の子は海に行くことを禁じられ、忌々しい海の民たちと引き剥がされてしまいましたとさ。めでたし、めでたし。
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