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あれは私が中学1年、雅治が3年の時。ちょうど今から3年前のテニスの全国大会の試合観戦(偵察とも言う)に連れて行かれたことが1度だけあった。
その日は立海大附属の試合の日ではなかったし、いつものファンクラブの人たちもいないからと幼馴染みが私の自宅に突然迎えに来て、半ば強制的に連れ出されたのであった。
私の場合、部屋着だとか、化粧をしていないだとかは最早気にする間柄ではないのでいいが、彼にもし彼女ができて同じような行動をたら怒られるんじゃないだろうか、と彼の将来が少し心配になる。
簡単に支度を済ませ玄関の扉を開けると、雅治は家の門に寄りかかり携帯を操作していた。
私を見つけると、じゃぁ行くかと言い歩き始める。
自分がどこに連れていかれるかもわかっていないまま、彼の後ろをついて歩いた。
電車を乗り継いで降りた場所はあまり立ち寄ったことがない、緑の多さが印象的な場所だった。
移動しながら本日の目的地を尋ねると、どうやら今日は雅治たち立海大附属のテニス部が後日対戦する相手チームの試合観戦に行くらしい。
その試合は青春学園という東京の中学校と、大阪の四天宝寺という中学校で、自分たちは四天宝寺側の応援席で観戦(偵察)をする予定だという。
テニスの知識がほとんどない私を何故わざわざ連れてきたのかも聞くと、男女のカップル装ってた方が自然に偵察できると思ったからとのこと。
考えが少し飛んでいるような気もしたが、そこはあえて突っ込まなかった。
試合会場となっている公園にあと数百メートルでたどり着きそう、という時だった。
「あかんあかんあかんあかんー!コートはどこやー!!!」
思わず私と、あの雅治さえも背後から急に耳に響いた大声に肩が飛び跳ねる。
雅治が迷惑そうに振り向き、声の主を見つけた瞬間だった。
彼にしては珍しく動揺の表情を浮かべたが私はこの時はまだその理由がわかっていなかった。
「あ、あんたらー!四天宝寺っちゅー学校のテニスの試合会場、どこか知らへん!?ワイもうすぐ試合やのに道わからんくなってもーて…嫌やぁぁ白石に怒られるー!どつかれるー!」
赤い髪、ヒョウ柄のタンクトップに黒色のハーフパンツ。そして背中にはテニスのラケットらしきものを背負った小さな少年だった。
「四天宝寺…試合って、貴方もしかして中学生?」
「せやねん。ワイ遠山金太郎いいます!ってゆっくり自己紹介してる場合じゃないわぁ!なぁなぁ会場ってどこ!?にーちゃんねーちゃんわかる!?」
嵐、いや台風とはこういう人のことを言うのだと思った。
あのいつも冷静な幼馴染でさえも戸惑いの表情を浮かべている。
はぁ、とため息をついて、仕方がないのうと観念したかのように呟く。
「ついてきんしゃい。俺たちもそこが目的地じゃき」
「ほんま!?おおきにー!ありがうなーにーちゃん!ねーちゃん!」
いいんですか。これって敵陣に真正面から突っ込んで行くのと同じなのでは。
そう言いたさげな私の表情を読んだのか、幼馴染は任せときんしゃいと余裕の笑みを見せた。
少し速足気味にテニスコートを目指して移動していると、何やら前方にがやがやと騒しくしている団体がいた。
何人も同じジャージを着ていることから、どこかの学校のテニス部なのだろう。
「ほほう。あちらさんも躍起になって探しておるのぉ」
「え、それって…「「あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」
何を、と言いかけた私の言葉はその団体一行綺麗に揃った叫び声にかき消された。
黄緑と黄色のジャージの団体は勢いよくこちらに向かってくる。あまりの迫力に思わず幼馴染の後ろに隠れてしまった。
「金ちゃんどこで何してたんや!」
「どアホ!死ぬほど探したんやで!」
「白石!みんな!堪忍したってえなー」
私たちが連れてきた迷子の少年は、あっという間に部員に囲まれる。
そんな中こちらに気づいた薄い茶髪で手に…包帯?巻いた人が私たちの前に現れる。
「金ちゃん、こちらさんは?」
「せや。わい会場の外で迷子になってもうてたんやけど、このにーちゃんとねーちゃんが連れてきてくれてん」
どうやら、この人が白石という人のようだ。
少年が恐れていたのはどうやら彼のことのようだが、想像していたよりかなり柔らかい雰囲気の持ち主だった。
白石と呼ばれたその人は雅治の顔を見て一瞬何か思考を巡らせ、はっと驚きの表情を見せる。
「あんた、立海大附属3年の仁王やないか」
さすが部長といったところか、顔を見ただけで雅治があの立海大附属テニス部の仁王雅治だといち早く気づいた。
「どーも、部長さん。たまたまこの辺を散歩してたら、たまたまそちらさんの1年が会場の外で騒いでいてのう。迷子だっていうから連れてきたんじゃ」
「そうやったんか。面倒掛けたな、そちらさんも忙しいのに。うちのルーキーをここまで連れてきてくれてほんまおおきに」
白石さんは深々と頭を下げた。
どうやら、雅治が最初に少年に会った時動揺していたのは、ここの学校のレギュラー選手だって知っていたからだったからのようだ。
「でだ。折角ここまで来たんでお前さんたちの試合を見てから帰ろうか思っとるんだが、えぇじゃろか」
「あぁ、えぇで。お連れさんも良かったら見ていってな」
敵校でもある私たちに、堂々と偵察を許可してくれるなんて、それもまったく嫌味には聞こえないことから、彼らが真に強いチームなんだという自信んの強さがうかがえた。
また、私はいけしゃあしゃあと偵察の許可をとった幼馴染を無言で見つめる。本当に心底敵に回したくない人だなと思った。
「にーちゃん、立海の選手やったんか!全然わからんかった!」
「まぁ、言ってなかったしのう」
「にーちゃんもねーちゃんも今日はほんまおおきにな!」
少年は私と雅治の手を握り、ぶんぶんと勢いよく上下に揺さぶった。
その後、私たちは彼らの試合を最後まで見届けた。
結果は青春学園という学校に負けてしまったが、テニスの経験がまったくない私でも非常にレベルが高い内容であることは理解できた。
とくに、あの迷子になっていた少年。試合が始まるとまるで別人のような雰囲気をまとっていた。
でもとても楽しそうに、眩しいくらいきらきらと輝いていて、その姿が私の目に強烈に焼き付いた。
試合観戦の帰り道、雅治が今日1日付き合ってくれたお礼にとファミレスでパフェをご馳走してくれた。
大変美味しくいただいたが、果たして今日私がいる意味はあったのだろうか?と食べながら問えば
「あったあった。充分じゃき」
そう、その日一番の笑顔で言った。
今思えばあの出来事は偶然ではなく、まるで私がここに来ることが決まっていて起こったことのような、そんな気がした。
私が思い出に浸っていると、赤髪の彼はあーでもー、とおもむろに発する。
「でもな。ワイ、ねーちゃんのことてっきり年上かと思っとったわ」
「なんで?」
「だってあん時一緒におったのって立海3年の仁お…」
冷汗がぶあっと全身をめぐった。
折角、立海大附属のテニス部とはなんの関わりもないアピールをしたばかりだというのに、余計な面倒を起こしたくない。
私は彼の言葉を全力で遮るようにかつ、なるべく冷静を保ちながら言葉を重ねる。
「同い年なんだし、ねーちゃんはやめない?私、神崎由紀です。改めてよろしくね遠山くん」
「……?おん!よろしゅうな」
少し不自然だっただろうか。
クラスメイトの様子を恐る恐る伺うと、どうやら私が雅治と知り合いだということは誰も気づいてないらしくほっとした。
自分でも少し過敏になっているとは思うが、念には念をだ。
金ちゃん東京でも迷子になっとったんか、さすがやなーと、話題の中心はすっかり遠山君になっている。
彼はどうやらこのクラスのムードメーカー的存在らしい。
クラスの女子も予鈴と同時にじゃぁまたあとで話そうねーと何事もなかったかのように掃けていった。
どうやら、何とか誤魔化せたようで私は静かに胸を撫でおろした。
初登校当日の夜
その日は立海大附属の試合の日ではなかったし、いつものファンクラブの人たちもいないからと幼馴染みが私の自宅に突然迎えに来て、半ば強制的に連れ出されたのであった。
私の場合、部屋着だとか、化粧をしていないだとかは最早気にする間柄ではないのでいいが、彼にもし彼女ができて同じような行動をたら怒られるんじゃないだろうか、と彼の将来が少し心配になる。
簡単に支度を済ませ玄関の扉を開けると、雅治は家の門に寄りかかり携帯を操作していた。
私を見つけると、じゃぁ行くかと言い歩き始める。
自分がどこに連れていかれるかもわかっていないまま、彼の後ろをついて歩いた。
電車を乗り継いで降りた場所はあまり立ち寄ったことがない、緑の多さが印象的な場所だった。
移動しながら本日の目的地を尋ねると、どうやら今日は雅治たち立海大附属のテニス部が後日対戦する相手チームの試合観戦に行くらしい。
その試合は青春学園という東京の中学校と、大阪の四天宝寺という中学校で、自分たちは四天宝寺側の応援席で観戦(偵察)をする予定だという。
テニスの知識がほとんどない私を何故わざわざ連れてきたのかも聞くと、男女のカップル装ってた方が自然に偵察できると思ったからとのこと。
考えが少し飛んでいるような気もしたが、そこはあえて突っ込まなかった。
試合会場となっている公園にあと数百メートルでたどり着きそう、という時だった。
「あかんあかんあかんあかんー!コートはどこやー!!!」
思わず私と、あの雅治さえも背後から急に耳に響いた大声に肩が飛び跳ねる。
雅治が迷惑そうに振り向き、声の主を見つけた瞬間だった。
彼にしては珍しく動揺の表情を浮かべたが私はこの時はまだその理由がわかっていなかった。
「あ、あんたらー!四天宝寺っちゅー学校のテニスの試合会場、どこか知らへん!?ワイもうすぐ試合やのに道わからんくなってもーて…嫌やぁぁ白石に怒られるー!どつかれるー!」
赤い髪、ヒョウ柄のタンクトップに黒色のハーフパンツ。そして背中にはテニスのラケットらしきものを背負った小さな少年だった。
「四天宝寺…試合って、貴方もしかして中学生?」
「せやねん。ワイ遠山金太郎いいます!ってゆっくり自己紹介してる場合じゃないわぁ!なぁなぁ会場ってどこ!?にーちゃんねーちゃんわかる!?」
嵐、いや台風とはこういう人のことを言うのだと思った。
あのいつも冷静な幼馴染でさえも戸惑いの表情を浮かべている。
はぁ、とため息をついて、仕方がないのうと観念したかのように呟く。
「ついてきんしゃい。俺たちもそこが目的地じゃき」
「ほんま!?おおきにー!ありがうなーにーちゃん!ねーちゃん!」
いいんですか。これって敵陣に真正面から突っ込んで行くのと同じなのでは。
そう言いたさげな私の表情を読んだのか、幼馴染は任せときんしゃいと余裕の笑みを見せた。
少し速足気味にテニスコートを目指して移動していると、何やら前方にがやがやと騒しくしている団体がいた。
何人も同じジャージを着ていることから、どこかの学校のテニス部なのだろう。
「ほほう。あちらさんも躍起になって探しておるのぉ」
「え、それって…「「あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」
何を、と言いかけた私の言葉はその団体一行綺麗に揃った叫び声にかき消された。
黄緑と黄色のジャージの団体は勢いよくこちらに向かってくる。あまりの迫力に思わず幼馴染の後ろに隠れてしまった。
「金ちゃんどこで何してたんや!」
「どアホ!死ぬほど探したんやで!」
「白石!みんな!堪忍したってえなー」
私たちが連れてきた迷子の少年は、あっという間に部員に囲まれる。
そんな中こちらに気づいた薄い茶髪で手に…包帯?巻いた人が私たちの前に現れる。
「金ちゃん、こちらさんは?」
「せや。わい会場の外で迷子になってもうてたんやけど、このにーちゃんとねーちゃんが連れてきてくれてん」
どうやら、この人が白石という人のようだ。
少年が恐れていたのはどうやら彼のことのようだが、想像していたよりかなり柔らかい雰囲気の持ち主だった。
白石と呼ばれたその人は雅治の顔を見て一瞬何か思考を巡らせ、はっと驚きの表情を見せる。
「あんた、立海大附属3年の仁王やないか」
さすが部長といったところか、顔を見ただけで雅治があの立海大附属テニス部の仁王雅治だといち早く気づいた。
「どーも、部長さん。たまたまこの辺を散歩してたら、たまたまそちらさんの1年が会場の外で騒いでいてのう。迷子だっていうから連れてきたんじゃ」
「そうやったんか。面倒掛けたな、そちらさんも忙しいのに。うちのルーキーをここまで連れてきてくれてほんまおおきに」
白石さんは深々と頭を下げた。
どうやら、雅治が最初に少年に会った時動揺していたのは、ここの学校のレギュラー選手だって知っていたからだったからのようだ。
「でだ。折角ここまで来たんでお前さんたちの試合を見てから帰ろうか思っとるんだが、えぇじゃろか」
「あぁ、えぇで。お連れさんも良かったら見ていってな」
敵校でもある私たちに、堂々と偵察を許可してくれるなんて、それもまったく嫌味には聞こえないことから、彼らが真に強いチームなんだという自信んの強さがうかがえた。
また、私はいけしゃあしゃあと偵察の許可をとった幼馴染を無言で見つめる。本当に心底敵に回したくない人だなと思った。
「にーちゃん、立海の選手やったんか!全然わからんかった!」
「まぁ、言ってなかったしのう」
「にーちゃんもねーちゃんも今日はほんまおおきにな!」
少年は私と雅治の手を握り、ぶんぶんと勢いよく上下に揺さぶった。
その後、私たちは彼らの試合を最後まで見届けた。
結果は青春学園という学校に負けてしまったが、テニスの経験がまったくない私でも非常にレベルが高い内容であることは理解できた。
とくに、あの迷子になっていた少年。試合が始まるとまるで別人のような雰囲気をまとっていた。
でもとても楽しそうに、眩しいくらいきらきらと輝いていて、その姿が私の目に強烈に焼き付いた。
試合観戦の帰り道、雅治が今日1日付き合ってくれたお礼にとファミレスでパフェをご馳走してくれた。
大変美味しくいただいたが、果たして今日私がいる意味はあったのだろうか?と食べながら問えば
「あったあった。充分じゃき」
そう、その日一番の笑顔で言った。
今思えばあの出来事は偶然ではなく、まるで私がここに来ることが決まっていて起こったことのような、そんな気がした。
私が思い出に浸っていると、赤髪の彼はあーでもー、とおもむろに発する。
「でもな。ワイ、ねーちゃんのことてっきり年上かと思っとったわ」
「なんで?」
「だってあん時一緒におったのって立海3年の仁お…」
冷汗がぶあっと全身をめぐった。
折角、立海大附属のテニス部とはなんの関わりもないアピールをしたばかりだというのに、余計な面倒を起こしたくない。
私は彼の言葉を全力で遮るようにかつ、なるべく冷静を保ちながら言葉を重ねる。
「同い年なんだし、ねーちゃんはやめない?私、神崎由紀です。改めてよろしくね遠山くん」
「……?おん!よろしゅうな」
少し不自然だっただろうか。
クラスメイトの様子を恐る恐る伺うと、どうやら私が雅治と知り合いだということは誰も気づいてないらしくほっとした。
自分でも少し過敏になっているとは思うが、念には念をだ。
金ちゃん東京でも迷子になっとったんか、さすがやなーと、話題の中心はすっかり遠山君になっている。
彼はどうやらこのクラスのムードメーカー的存在らしい。
クラスの女子も予鈴と同時にじゃぁまたあとで話そうねーと何事もなかったかのように掃けていった。
どうやら、何とか誤魔化せたようで私は静かに胸を撫でおろした。
初登校当日の夜