クレアは次の担当部屋に行くために去っていった。
ナギ「……………」
馬「……………」
シン「………………」
クレアの居なくなった部屋には嵐が去った後のような静けさだけが残っていた。
そんな中、最初に口を開いたのはやはり
馬だった。
馬「……えーっと、どういうことだと思いますか、御主人様、兼ダーリン?」
腕を取らせてもらっている状態のシンに質問をする。
シン「どうにもこうにも、ナギの昔の女…下手したら継続中の女がお前の担当ナースになったんだろう。」
馬「ですよねー。 正直キツいっすよ。」
シン「…………」
馬「…………」
偽装カップルが揃ってナギを凝視する。
ナギ「…………」
2人からの冷たい視線を感じ、ナギは気まずそうに目を逸らした。
シン「余所に女がいながらコイツにも手を出そうとするなんて、よほど性欲をもて余してるんだな。」
呆れと言うよりもむしろ憐れむような顔でシンはナギを詰めている。
ナギ「…いや、クレアは別に、」
馬「ちょっとダーリン!!! ナギさんが私に興味があるわけないでしょう! クレアさんという彼女がいるんですよ!?」
ナギ「ちょっと待て、」
馬の発言を聞いたナギは非常に嫌な予感がした。
彼が好きになった
馬という人間は純粋で真っすぐだが、アホで時にとんでもない勘違いをしたまま突き進むのだ。
馬はナギに向き直り、
馬「ナギさんにはあんな美人な恋人がいたんですね… 知らなかったとは言え、相手のいるナギさんに今まで馴れ馴れしくしてしまい申し訳ありませんでした。」
少し悲しそうに、しかし、精一杯明るく話しながら頭を下げた。
そして、
馬「フフ。ワタシは悲しくなんてない、ビックリしちゃっただけ☆ほら、お月様も笑ってる♪」
と、明後日の方向にある窓から見える月を見ながら小さく呟いた。
シン『コイツ、自分に酔ってやがる』
冷静なシンは心の中で引いていた。
ナギ「いや、ちょっと話を、」
馬「クレアさん行っちゃいましたね、ほら追いかけて抱き締めてキッスの一つでも……う、ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!ゲホッ、ゲホッ…わぁぁぁん」
強がって演技を続けていた
馬の涙腺がついに崩壊してしまった。
ナギ「……!?」
シン『最後まで良い女気取りは出来なかったか。 いつも思うが
馬の泣き方はガキみたいで萎える。』
馬の涙を見て焦るナギと、率直な感想を抱くシン。
馬「うぇぇぇぇぇえん、すい゙ま゙せん…なん゙か…ゲホッゲッホッ…涙が出ます、ゲホッゲホッ、ついでに咳も出ますぅぅ!!!」
まるで子どものように泣きじゃくって咳き込んでいる
馬は騒々しかった。
その時、
ガラッッ!!
ソウシ「リベンジに来たよ!…………って、あれ?」
タイミングを見計らったかのように現れたのが歩ける寝袋を着用したソウシだった。
(※参考画像)
馬「ゲホゲホッッ!?え"…寝袋っ(笑)!?」
彼のせいで現場は混乱を極めることになった。
……………………………
馬「う……ケホッ、ケホッ……」
馬は青ざめた顔で苦しそうにしながらベッドに横たわっている。
結局、今夜の付き添いは消去法でシンが引き続き担当することになった。
シンはミゼル島で新しく購入した本を椅子に腰掛けながら暇潰しに読んでいる。
分厚い本のページを1枚1枚捲りながらも、先程の光景を思い返していた。
シン『さっきは呆れるほどに混沌としていた。
ナギもドクターも、
馬と関わると碌なことにならないんだな…』
古式泳法を真剣にシミュレートするあまり
馬の容態を悪化させ、強制的に退出させられたというソウシ。
しかし、ナギの身体を心配する彼は夜間の付き添いを代わるべく、歩ける寝袋を持参(途中でテンションが上がったのだろう、結果、着用)して部屋に入ってきたのだった。
それを目撃した
馬は、号泣から爆笑へと変わり、最終的に泣き笑いで呼吸困難に陥ってしまった。
彼女の状態を見て慌てて寄り添おうとするナギだっだが、
馬は全力で彼を避けてシンに助けを求めた。
あからさまに拒絶されてショックを受けるナギと、騒ぎを聞いて再び駆けつけたクレア。
再度馴れ馴れしくクレアがナギに接して、そんな様子を見兼ねたソウシが 「どういうこと?」 と、真剣な顔で2人に尋ね(寝袋着用のまま)、 シュールな見た目のソウシが視界に入っただけでまた
馬は笑い出し、激しく咳き込んで……
シン『本当に騒がしかった。』
シンは溜息を吐きながら
馬の様子を窺った。
馬「…………」
眠っている
馬は小柄で可憐な容貌をしている。
そして、血の気の無い白い顔を見ると庇護欲と同時に嗜虐心が不思議と湧いてくる。
このように(黙っていれば)男心をくすぐる
馬とずっと共に行動して、惚れてしまうナギの気持ちは分からなくもない。
それにしても、こんな離島の病院で昔の女(※ナギ談)と遭遇してしまうナギはとことんタイミングの悪い男だ、と、 シンでも思わず同情してしまうほどだった。
シン『まぁ、見ていて面白いから良いか。』
しばらく
馬の恋人のふりをして、ナギと
馬とクレアの3人の様子を観察しよう、そんな邪な好奇心を抱えたシンは再び読書に集中しだした。
(その2へ続く)