ナギ「
馬、用意できたか?」
馬「はい!!」
これが世に言う、『出オチ』である。
……………………………
シャハイ島~蝶とファラオの花畑~編
シャハイ島に着港し、いよいよ下船する時刻が迫っているという状況下で船員達は各々の準備を慌ただしく行っていた。
ナギの部屋では…
馬「わぉ!ナギさん…か、カッコいいっす!! グラサンだ、グラサン!! 服も今日は黒っぽくて…おや?バンダナは……まさかの……?
は、は、外したーー!!今日のナギさんはイケメンマフィアやでぇぇ!!」
ナギ「……うるせぇ!」
馬「すみません!つい見惚れてしまいました!!」
馬は自分の準備を疎かにして、ナギの生着替えを興奮しながら実況していた。
ナギ「…俺には懸賞金が掛かってるから出来るだけ近付くなよ。街ではトワやドクターと一緒にいろ。」
ナギはスーツのボタンを止めながら
馬に島の街で安全に過ごすための忠告をする。
馬「わかりました! 暴漢が襲ってきたら、ナギさん危ないって叫んで私がナギさんの前に飛び出して殉職しろ…っていう前ふりですね?」
ナギ「……アホ。 まぁ、お前が殉職するのは止めねぇけど。」
ナギは
馬に見向きもせずに着々と持参すべきものを用意している。
馬「トホホ、そりゃないぜー、ナギさ〜ん!」
と、言いながら
馬は自身のおでこをペシッと叩いた。
ヤマト在住時にリアクションが古くてオッサン臭いとよく言われていた
馬の為せる技である。
ナギ「そう言えばお前、宿は一人部屋にしてるよな?」
馬「…え、は、はい…」
明らかに目の泳ぐ
馬を見て険しい顔でナギは続けた。
ナギ「船長から金貰ったんだろ。トワやドクターに迷惑かけんなよ。」
馬「あのー、ナギ様はどうなさる、」
ナギ「俺はこの島では一人部屋の予定だ。」
馬「ですよねー。わかります…」
即答されてしまった
馬は理解していたものの、ナギに拒絶されたような気がして、ほんの少しだけ悲しくなった。
ナギはさらに追い打ちをかけるように、
ナギ「それに上陸してる時くらいお前から解放されたいからな。」
と告げた。
馬「はーい…」
馬は少し寂しく感じたが、それもそうだと無理矢理納得した。
馬『ナギさんは本当に私といると疲れるみたい…そりゃ床で寝続けたらそうなるか。
せめて島にいる間は私から話しかけないようにして、ゆっくりさせてあげよう!!
うん、私は青虫解放運動や買い物に集中するぞ〜♪』
馬なりにポジティブな行動を心掛けるよう変換した彼女は段々と島での活動を楽しみに思えるようになった。
しかし、この考えは後々面倒なことを巻き起こすのだが今はまだ鳴りを潜めている。
馬「ひっさびさの地面を踏めるの、私、すっごく楽し…」
ナギに前向きな上陸後の話をしようとした
馬だったが、ふいに胸に違和感を感じてしまった。
ナギ「…………おい?」
話を止めて急に黙り込んでしまった
馬が気になったのか、ナギの方から顔を覗き込んできた。
ぼーっとする自身の視界の中に、急に整った顔が現れたので、
馬「あら美しい……」
馬は無意識に感想を呟く。
ナギ「……は?」
ガッッ!
そのまま
馬は戸惑うナギの両頬を両手で挟み込んだ。
ナギ「な……」
何をする、とナギが言う前に
馬は彼のサングラスを額へとずらし、ジッと瞳を凝視する。
間近で見る
馬の真剣な表情。
不可解な行動だが、
馬は自分に口付けを迫っているのか?と、ナギが思う程の時間を見つめられている間に、
馬「……蝶かな…?」
ナギ「は?」
馬「……紅い……大きな蝶にお気をつけください。」
ナギ「急に何だよ…」
馬「私、言いましたからね、ナギさん、 ん〜♪近くで見るナギさんもたまらないーー♪」
気が付けばいつもの態度の
馬に戻っていた。
今のは何だったのかという疑問を抱くナギに対し、
馬は構わずに再度話しかけてくる。
馬「ねぇ、ナギさん!」
ナギ「……何だ。」
馬「隙ありっっ!!」
ギュッ!
ナギの腰に抱き付く
馬。
共に過ごして数日が経ち、人懐っこい
馬からのスキンシップはこれぐらいは当たり前になっていた。
但し、
馬の方からの限定で逆にナギの方から触ろうとすると絶妙にかわされるのだが。
ナギ「……………」
馬「フヒヒ…フライパン無し、フライ返しも無ーし!!今は武器が無いから抵抗できますまい…」
してやったりと言わんばかりの
馬だが、
ナギ「……そうだな、お前も逃げられないな。」
逆に長い腕を回されて
馬の身体は強く抱き込まれてしまった。
馬「ぬっ!これは敵の罠だったか!!」
逆の立場に追い込まれ、すぐに焦りだす
馬は抑え込まれている身体を必死にばたつかせている。
ここしばらく
馬と一緒に過ごしてみてナギは気が付いたことがある。
彼女は自分からはグイグイ迫るクセに、逆に迫られると凄く及び腰になるのだ。
そうなると形勢は逆転し、自分が振り回されていた立場から優位な立場へと変わる。
ナギは
馬を翻弄出来る瞬間が面白くて仕方がないのだ。
ナギ「………じっとしてろ………」
馬「うぅ……」
言われて大人しくする
馬。
普段からナギに狼藉と言っても過言ではない態度をとるが、本来の
馬は主君を敬うかのように彼に従う。
ナギもそれをわかった上で命令する。
ナギ「……まぁ、本当にどうしようもない時は俺の部屋に来ても良いけどな。」
馬「はーい…」
馬はナギを抱きしめる腕の力を少し強めた。