100回目のプロポーズ~私が死なせません!!~
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名前を入れないと『馬』になるので、あなたの脳内で馬が大暴れするでしょう…お気をつけください。
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ゲオルグから何とか馬を奪取し、後は彼女にプロポーズをするだけ……というハッピーエンド間近な状況で、急転直下、馬が取り乱し始めた。
しかし、彼女なりの理由があるのだろう、馬の扱いに慣れてしまっているナギは落ち着いて理由を問う。
ナギ「……何でそんな事を言うんだ?」
馬「だって、私が結婚しないとタケル君が……あぁ、土下座して謝ったら許してもらえるかな。」
土下座という穏やかではない単語を聞き、ナギの眉間に皺が入る。
ナギ「……お前、弟に脅されてんのか?」
馬「い、いえ決してそんな事ではなくって。
でもタケル君の人生が掛かってるのに私のせいで潰すわけには……」
馬は泣きそうになりながら答えた。
ナギ「……?」
どうやら馬の弟が極悪人というわけでは無さそうだが、話の全貌が全く見えて来ない。
ナギ「……俺が捕まってからお前に何があったのか、全部話せ。」
馬「ぜ、全部ですか?」
それは昨晩のゲオルグとの口付けの事も言わなければならないのか?
馬自身は何も悪い事はしていないのだが、ナギに対して非常に罪悪感が沸き起こってしまう。
ナギ「あぁ、全部だ。
まずは何であの男との結婚が決まったのか、そこから説明しろ。」
馬「そ、それは、」
ナギ「それは?」
ナギに鋭い目で睨まれながら見下ろされると馬は萎縮してしまう。
馬「うぅ……」
馬が視線を逸らして怖がる素振りを見せたため、ナギは慌てて接し方を変えた。
ナギ「絶対怒んねぇから。」
柔らかい声で子どもに諭すように話す。
馬『怒られないんだったら言っちゃおうかな。』
上手にナギに誘導された馬は全てを告げることに決めた。
その前に、
馬「お、お邪魔します!!」
ナギの顔を見ながら話すのは到底無理そうだったので、彼の胸を借りることにした。
ギュ…
こうして抱き付いていればナギと顔を合わせずに済む。
馬はナギのシャツをスンスンと嗅ぎながら、話す体勢を整えた。
馬「ナギさんが捕まって、まず言われたのが……ナギさんを処刑されたく無かったらゲオルグさんと結婚しろって、」
ナギ「……は?」
馬の説明は最初から耳を疑うような内容だった。
馬「結婚を約束したら、ナギさんの処罰を決める裁判で口添えをしてくれるって言われて、『恩赦』が使えるかもしれないって教えてもらったんです。」
ナギ「……………」
ナギは黙って聞いていたが、心の中では、 『だからか。』と納得していた。
『おんしゃ』という言葉の意味はわからなかったが、多分減刑とか何かだろう。
ナギが捕らえられていた時に馬が「必ず助ける」と言っていた方法と、タケルが「馬に感謝しろ」と言っていた理由が理解できた。
馬「ナギさんの過去の下着泥棒の罪が重過ぎて、本当ならすぐに処刑されるところだったらしくて、」
ナギ「…………」
この際、下着泥棒の件には訂正はしなかった。
馬「だから一刻も早く決断しなきゃいけなくて、ふたつ返事で結婚を決めちゃいました。」
幸か不幸か、馬の結婚報道のおかげで、ナギが収監された事実は世間に知らされずに済んだ。
もしも公表されていたら、厳重なる監視の下、ナギの脱獄は不可能だったかもしれない。
ナギ「……けど、捕まった次の日には俺は逃げてたぞ?」
自分が逃げたのならば、ゲオルグとは結婚しなくても良かったはずだ、とナギは顔を顰めている。
馬「ナギさんが逃げた事、私は教えてもらえなかったんです。」
ナギ「…………」
馬「それどころか、ナギさんはもう処刑されたって聞かされていて…」
ナギに抱き付く馬の手が微かに震えている。
馬「ナギさんがこの世にいないって思ったら、頭が真っ白になるし、ご飯も食べれなくなるし、眠れないし、涙が出っぱなしだしで散々で……ま、まぁ、この辺の話は今は関係ないですね、あはは…」
笑って誤魔化そうとする彼女の声は震えていた。
もう2度と『ナギの死』なんて考えたく無いのだろう。
ナギ「…………」
今の話の中で馬が痩せ細った理由が明らかにされた。
ナギが牢獄で受けた暴行とはまた違った形で彼女も苦しめられていたのだ。
ナギ『あの軍人、許せねぇ…』
ナギの中でますますゲオルグに対する憎しみが増していく。
馬「だけど、ボロボロになった私を邸で働く人達はたくさん励ましてくれたんですよ。」
特にジェフとルイーズの気遣いがありがたかった、と馬は簡単に説明した。
馬「ルイーズさん達のおかげで、何とか立ち直ろうとした矢先に梅さんとタケル君が来て、ナギさんは死んでない、って教えてもらったんです。
それが昨日の話ですね。」
ナギ「……俺が生きてるってわかったんなら結婚は辞退出来たんじゃねぇか?」
馬「そ、それが……ゲオルグさんは軍部の超偉い人だから、結婚したらタケル君の将来は安泰だって。
逆にシリウスに戻ったらタケル君の足を引っ張る事になるって、」
ナギ『あぁ、そういうことか。』
冒頭で馬の取り乱した理由がナギにはわかってしまった。
要はゲオルグに心理的に脅されていたのだ。
そして今も弟を盾に取られてしまっている馬の心は、いつものように自分を犠牲にしようとしていたのか、と。