ナギ「……
馬、」
夕飯時、ナギがわざわざ自室まで
馬を呼びに来てくれた。
馬とはあまり関わりたくないとは言えども、彼女にとっては初めてのシリウス号食堂での食事なので、ちゃんと現地まで案内してやろうと考えたナギ。
彼の性根は実に慈悲深い。
ナギ「夕飯…………は?」
しかし、そんな彼の優しさを打ち砕いてしまうような燦然たる光景が自室の中にはあった。
彼の眼前には巨大な紙箱による要塞がそびえ立っている。
数時間前までには確かに無かった建築物が突如部屋に出現しているのだ。
ナギ「………………………」
あまりにも酷い違法建築物を前にしたナギは言葉が出てこない。
そんな彼の言葉に代わり、もぞもぞと要塞の入り口から出てきたのは
馬の頭だった。
馬「よっせ、ほいさ…あ、ナギさん!ご飯ですか?すぐ行きまーす!」
わーい、と嬉しそうに立ち上がる
馬の頭をナギは思い切り鷲掴みにする。
ガシッ!!!
馬「ぎょぎょっ!?」
ナギ「……何だ、この物体は?」
怒りのせいで
馬を押さえ付けるナギの手が僅かに震えている。
馬『えぇぇっ、ナギさんめちゃくちゃ怒ってる?』
馬はナギの顔をそっと見上げた。
ナギの顔はこれまで見たことが無いくらい眉間の皺が深く刻まれ、青筋までキレイに浮かんでいた。
馬「アワワワワワワワ…す、す、すいませんっっ。 ア、アノ、やっぱり、ナギさんを床で寝かすわけにはいかないから…私が床で寝ようと思って…ど、どうせなら心地良くしようかなーって…その……」
ナギの怒りに触発された
馬は残像が見えるくらい小刻みに震えている。
ガクガクブルブル……
馬「こ、心地良さを、追求した結果……家を…建てちゃい……マシタ……ミタイナ?…」
恐怖のあまり、
馬の最後の言葉は消え入りそうになっていた。
ナギ「………………」
無言のナギ(般若Version)である。
馬『ヒィィィィ、ナギさん鬼としか言えない形相だよ!!本気で首を切り落とされるかもしれないっっ!!』
馬が生命の危機を感じ始めたその時、
ソウシ「
馬ちゃーん、ご飯だってー」
自身の名を呼ぶソウシの声が聞こえた。
馬「そ、ソウシさんっっ、助けてぇぇぇ」
鬼と対峙していた
馬は、癒しの第三者の登場に心の底から安堵した。今の
馬を救ってくれる救世主はソウシしかいない。
ソウシ「えっっ、どうしたの!?」
切羽詰まった
馬の声を聞き、ソウシがすぐに入室してくれた…が、そんな彼もナギの部屋の惨状に瞬時に気が付いた。
ソウシ「うわっっ、何これ!!」
馬「ソウシさんっっ!!」
馬は隙をついてナギの腕からするりと抜け出し、ソウシの後ろに隠れる。
ソウシ「これは…紙箱……?
馬ちゃんが作ったの?この短時間で?……凄いね、ちゃんと家になってる…」
ソウシは違法建築物のクオリティにただただ感心している。
ナギ「…………」
馬に逃げられ、自由に手を動かせるようになったナギは無言で鎖鎌を取り出して…
バキッバゴッッ!!
紙箱要塞の強制撤去へと踏み切る事にしたようだ。
バキッドカッッ!
しかし、ポイントを押さえて補強されている紙箱要塞はなかなか壊れそうにない。
ナギ「………チッ!」
見た目はただの紙箱のはずなのに、この頑丈さは一体どうなっている?
舌打ちをしながら鎖鎌を振り下ろすナギの苛々は増す一方だった。
ドガッッバリッッ!!!
酷く時間は掛かるものの、少しずつ紙箱に穴が空いて行く。
馬「あぁぁぁー、ナギさん止めてください、トワ君とシンさんとの努力の結晶がぁぁぁ…」
苦労して作った紙箱要塞が破壊されてしまう…その様子を見た
馬は大いに嘆いた、共犯者達の名前を呟きながら。
ナギ「…トワとシン?アイツらも絡んでんのか?」
馬「あ!!!」
悲しみのあまり仲間を売るようなことを言ってしまったが…後悔してももう遅い。
馬「…ち、違います!! も、も、も、勿論、私一人で手掛けた作品です!!! ここまで来るとアートの域でしょうっっ!? ほらもっと褒め称えてくださいよ!!さぁ!さぁ!ナギさん!!」
わけのわからない勢いでナギに迫る
馬は二人の存在を精一杯誤魔化そうとしている。
ところがどっこい、
ナギ「アイツら……!!」
彼女の誤魔化しは一切通用しなかった。
それどころか、鎖鎌を構えたままナギは部屋から出ていってしまった。
馬「私のバカァァ、トワ君とシンさんに迷惑を掛けちゃったよぉぉぉ………」
馬はorzのポーズでその場に崩れ落ちた。
ソウシ「へぇ、ナギの鎖鎌を受けても完全に壊れないなんて丈夫だね…そうか、ここに木材を入れてるから…」
ソウシだけは紙箱要塞を未だに眺めている。
彼ににだけはこの違法建築物は好評価のようだった。