この日、アンブローズの町は猛暑に襲われていた。


外へ出るだけで太陽にギラギラ照らされ、息もままならない。


出掛ける気力失くしたユイは、冷房が効く自宅で暑い言いながら、ソファに寝そべっていた。


そんなユイを、呆れ気味に見ながらボー・シンクレアが一言。


「暑い言ったら、余計暑いぞ」

「分かってるわよ、そんな事。それより、ヴィンセントは？
また蝋人形作りに夢中？」


朝からボーの弟であるヴィンセントの姿が見えないのは、別段珍しい事でもない。


ただ気になっただけだ。


「多分」

「多分って何よ、弟でしょう」

「ただでさえ暑いのに、あんな熱気籠った地下にいられるか！
ヴィンセントの奴、この時期でも長袖なんだぞ！」


蝋人形作りにやはり怪我は付きものなのか、ヴィンセントは年柄年中長袖だ。


それもこんな猛暑の中。


1回本人に暑いのか聞いてみたが、ヴィンセントは別にと言う様に首を振っていた。


「海行きたい……海行って泳ぎたい」


暑さで頭やられ、ちょっと思いついた事口にする。


すると案の定、ボーが反応した。


「海行きたいのか？」

「…………あ、別にそんなじゃ！」


彼の言葉に我に返り、慌てて否定する。


しかし言ってしまった言葉は、取り消せない。


「よし、水着買って来てやる。
確か近くにお前に似合いそうな水着が」


ユイが水着に着替えたらという考えが脳内に占めたボーには、否定など皆無であった。