僕－－ヴィンセント・シンクレアには、可愛いユイがいる。


彼女はヴィンセントの恋人であり、仮面の下の素顔を怖がる事なく受け入れた優しい人物でもあった。


そんなユイが、最近困った表情を見せる事が多々あったのだ。


「ユイ、何か悩み？」

「なんでもないよ、ヴィンセントさん。あ、サンドウィッチ今日も可愛いね！」


シンクレア家の番犬であり、唯一のペットであるサンドウィッチを、ユイは一心不乱に撫でている。


当のサンドウィッチは、迷惑そうに見ているのに気付いていない。


「何かあったんだ」

「ないよ、本当に」

「じゃあ迷惑そうにしているサンドウィッチにも、気付いてあげて」


ヴィンセントの言葉にユイはようやく、自分が何をしていたか自覚する。


サンドウィッチにごめんねと謝り、ヴィンセントに隠し事など出来ないと察した。


潔く素直に、悩みを打ち明ける。


「実は」

「もしかして、兄さんに何かされた？　そっか、カーリーだけじゃなく君にまで」

「ち、違うから！　寧ろ優しくしてもらってます！
そうじゃなくて、ね。
最近誰かに付き纏われてる気配してさ」


ユイ曰く、2日前からのよう。最初は勘違いとか、疑心暗鬼かもしれないと疑ったが背後から微かに足音もするし、思い切って振り返った時には慌てて走り去る音がしたとの事。


「今日も、ここに来るまで気配がしたの。
多分まだ、この家の周りにいるんじゃないかな……って、ヴィンセントさんに話しても意味無いよね。
話せてスッキリしたけど」


困った様に笑いながら言うユイから、ヴィンセントを悩ませたくないと言う思いで、隠し事をしていたのだと気付く。


ヴィンセントはユイの彼氏だ。


悩みがあるなら積極的に言ってほしい。


それを言っても彼女をまた困らせるだけだから、ヴィンセントは言えなかった。


案外2人は、似た者同士かもしれなかった。


そんな2人を悲しげに鼻を鳴らして、サンドウィッチは見ているのだった。