ハルヒ

side kyon

夕日が眩しい秋の午後五時半。新体制となった強化部の生徒たちのグラウンドに響く声を横に聞きながら、俺は古泉と一緒にあのどうしようもなく長い坂を下りていた。
 先ほどから奴は一言も喋らない。あの怒涛の、切羽詰ったような告白劇から、奴とはこうして沈黙の中帰る日が続いている。

なんと健全な付き合いであるだろうか。いっそ清々しい程にな!

・・・というわけで俺と奴との間にはあの告白時以来、一ヶ月と半分の間、何も起きていない。
 否。何も起きていないと言うのは語弊か。手をつないだり、緩く抱きしめ、軽くキスをするくらいならあった。あったが・・・それ以上は求めてこないのだ。
俺はこの一ヶ月と半分俺に落ち度があるのだと心底悩み、様々なアプローチを試みては実践してきた。
奴が喜ぶから恥ずかしいのを我慢して『一樹』と呼ぶようにしたし、積極的に抱きつく・甘える・ねだる行為をしてきたわけだが、奴はどうも一歩を踏み出すことができないらしく、そんな奴に俺はこの一ヶ月と半分の間ずっともんもんとした煮え切らない思いを抱えてきたのである。
だって考えてもみてくれ。俺は健康な高校生男子であり、溜まるもんは溜まるのだ。

・・・なのにコイツと来たら!

いつも古泉と別れる道に着いたとき、奴は立ち止まり、やっと口を開いた。
「では僕はこれで。また来週。」
胡散臭い笑顔でこっちを見た古泉に、俺はイラっときた。
そうは行くか。俺は今日この日のために色々なことを計画して来たのだ。
「おい待て古泉。」
俺の言葉に古泉はおびえたように肩を震わせたあと、さっきよりも数倍酷い笑顔を向けた。おーそう来たか。悪いが今日は見逃してやらんぞ。三週間くらい前からだったか。お前が俺を避けてんのはわかってんだ。
「・・・なんでしょう。」
奴は、貼り付けた笑顔のまま首を傾げた。
「今日、母親からお前の家に泊まってもいいと許可をもらった。
・・・この間家に来たときに、お前『あったかいご飯は久しぶりです』とか言ってただろ。
お前が普段何食ってるか心配だそうだ。で、俺もお前の食生活には見ていられんものがあるからだな、断りきれなかったのだ。
だから俺は一旦荷物を取りに家に帰るから、お前は散らかりすぎたあの部屋をどうにかしろ。三十分たったらそっちは行く。」
時計を見て、古泉を見ると、奴は心底ビックリしました的な顔で突っ立ていた。
「あ、あの・・・。」
「じゃ、そういうわけだから、後でな。」
引き止める古泉を無視して俺は自転車に乗った。
俺のこの綿密に立てられた計画が邪魔されることがあってはならない。
明日は土日で休み。この日のために巷のUFOキャッチャーでハルヒが好きそうなぬいぐるみを谷口にゲットさせハルヒに渡し(これで今日古泉はバイトで呼ばれない。・・・はずだ)母親や妹に、古泉の私生活のダメさを説き、今週を含む土日の外泊許可を取り付けた。
・・・古泉よ。この期に及んで逃げようとはするなよ。据え膳食わねば何とやら。今日こそは手を出させてやる。

俺は夕飯を古泉の好きなオムライスにしてやろうと考えながら家路に着いた。


******

side koizumi

涼宮さん、僕は我慢できる気がしません!

僕はこの一ヶ月間、自分の限界に挑戦してきました。・・・なぜそんな事になったのかと申しますと、彼が。キョン君があまりにも可愛いのがいけないんです!
・・・つまるところ、その・・・気を抜いてしまったら即アウト。何処でも盛ってしまいそうでして。お恥ずかしながら正直、自分が怖くてなりません。僕はまだ彼に嫌われたくない。


「今日、オムライスでいいよな。」
白いTシャツ(だぼだぼです)に、紺色のエプロン着用で、彼は先ほどから料理をしています。
いつ見ても細い腰・・・って違う!見事な手さばきです。
「はい。もちろんです。大好物ですよ。(貴方も込みで)いやぁ、固形物を口にするのは四日ぶりですね。(むしろ貴方を食べてしまいたい)・・・ありがとうございます、キョン君。」
色々本音が出そうになりましたが何とか押し殺して僕がお礼を言うと、彼はチキンライスを炒める手を止めずに振り返り、あきれた顔で笑いました。
「お前、ウィダーとか、メイトとかばっか食ってないでちゃんと飯食え飯!」
言い終わると彼は、またフライパンに視線を戻しました。
・・・どうしたんでしょう。凄く可愛いんですが。ってか、誘ってるとしか思えません。
首が開いたデザインのTシャツは、明らかに彼のサイズじゃありませんし、第一僕がこうしてじっと彼の後姿を見ていることに関して言及しません。
僕は立ち上がると、彼の背後まで移動し、彼の肩口からフライパンの中身を見ました。
・・・彼の髪の毛から清潔な石鹸の香りがします。
「立ち上がってうろうろしても出来上がる時間は変わらんぞ」
「わかってます。・・・でも、気になるじゃないですか。貴方の料理は美味しいですから、何が入っているのかと。」
「炊飯器も無い家の住人が何を抜かす。知ったところで作ろうとも思わん癖に。良いから座ってろ。邪魔だ、しっしっ」
彼は僕をお玉で払うと、フライパンの中身を大き目のお皿に全て移しました。
「・・・相変わらず、器用ですね。お嫁に来て欲しいくらいです。」
「何言ってる。もはや俺はそこいらの嫁と何一つ変わらん仕事量を、この家でこなしている。・・・とにかく、古泉。座ってろ。」
「はいはい。」
「“はい”は一回だと学校で習わんかったのか?」
「・・・はい。」
僕は、ドキドキする鼓動の音を聞きながら、リビングのテーブルの前に腰を下ろしました。
しばらくテレビをボーっと見ていると、「できたぞ、運べ」という彼の声がキッチンから響きました。


「・・・悪いが、上手くも無ければ不味くも無いからな。」
彼は頬を紅く染めて言いました。食卓に並んでいるのは、黄色いオムライスと、たまねぎのコンソメです。ゼリー食が主な食事だった僕には久々のご飯で。僕のお腹は久しぶりに満足したのでした。
・・・そのご飯の最中、頬を紅く染め、ずっと無言だったキョン君は、ご飯を平らげ二人でお茶を飲んでいたとき、やっと口を開きました。
「・・あの、な。谷口からDVDを借りてきたんだが、見ないか?」
僕は不思議に思いましたが、どうぞ。と彼を促すと、彼は顔を更に赤く染めてCDケースに入ったDVDを、機器にセットすると、チラリと僕を見、テレビの電源を入れました。


・・・今思えばこの時から彼は少々おかしかったんです。

******

Side Kyon

俺はついに計画を実行した。

『あ・・・んぅ、はぁ。あぁんっ』
俺が谷口から借りてきたDVDとは、俗に言うアダルトビデオ。略してAVである。
内容はまぁ、そこら辺に転がっていそうなありきたりなもので、例のごとく、テレビ画面で女優さんがあられもない肢体で嬌声を上げている。・・・なぜこれを古泉と一緒に見ているのかというと、奴が俺に触れることに一瞬の戸惑いを見せることに起因する。
つまり、簡単に言うと、あいつは俺の体に触るのが怖いらしいのだ。
そして、ぐるぐる考える体質の古泉のことだ。どうせ俺に嫌われる~だとか、大切にしたい~とか思ってんだろ。
・・・さもなくば本当は俺が嫌いか、だな。一番最後のパターンはあまり考えたくない。
結論で言うとだな、あいつが手を出しにくいのなら、そんな空気を作っちゃいましょう。的な考えな訳だ。俺は。
・・・・で、先ほど(かれこれ一時間くらい?)からAVを見ているわけだが、古泉は、普段となんら変わらん笑顔のまま、何もしてこない。やせ我慢しているのかと思えば、そうでもないらしい。

・・・コイツ、人間として大丈夫なんだろうか。

あまりにも古泉がそのままなので、俺は『古泉に手を出させる計画~その2~』にプランを変更することにした。我ながらケイタイの料金プランのようなネーミングになってしまったと落ち込んでいる。・・・そこっ!笑うなよ!
俺は四つんばいになって古泉のところまで這って移動し、奴に抱きついた。古泉は一瞬目を大きく開いた後、俺の脇に手を差し込んで自分の膝の上に乗せた。
テレビが、AVが架橋に入ったことを伝えた。
「・・・今日はどうしたんですか?随分と甘えた、ですね。」
耳が熱くなる。クソッ忌々しい。恥ずかしくてかなわん。
「俺だってたまには甘えたくもなる。最近はお前とあんま話せんかったしな。」
首に思いっきりくっついて密着する。顎をぐりぐりと肩に押し付けると、古泉は小さく声をあげて笑った。
「そうですね。お構いできず、すみませんでした。でも僕としては、貴方がこうして涼宮さんに妬いてくださるので凄くうれしいんですが。・・・好きですよ、キョン君。」
「・・・俺も、だ。」
AVは気づけばエンディングを迎えていて、俺は古泉の頬に唇を寄せた。
しかし古泉はそれをやんわりと俺の肩を押し返す事で受け流した。そしてDVDを止めるために立ち上がった。
「これ、谷口君から借りたんですよね。」
「あぁ。」
「彼にはよくこういったものを借りるんですか?」
「いや、今日が初めてだ。」
「ひとつ、お伺いしても?」
古泉の表情は、奴が俺に背を向けているため解らない。
「何だ。」


「僕は、どういう風にとったら良いですか?」

奴の手が小刻みに震えているのが見える。


・・・・やっと、かかった。

******

side koizumi

一瞬の沈黙。僕は怖くて後ろを振り向けませんでした。振り向いたら終わりな気がした。
「どういう風にって・・・好きにとれ。」
彼にしては曖昧な答えが返され、僕は我慢の限界と共に、今まで必死で繋ぎとめていた理性の切れる音が頭の隅でしました。
僕はすばやく彼に近寄ると、余裕なく彼を抱き上げ、隣室のベッドの上に放り投げました。
「ちょ、古泉・・・!」
スプリングが利いていて、彼の体が大げさにバウンドします。
それを上から押さえつけて、僕は彼の意思を聞かずに彼の、石鹸の香りのする首筋に唇を寄せ、吸い付きました。
「・・・もう我慢できない。誘ったのは貴方です。僕はまだ待つつもりでいた。大切に、まだ大切にしたかったのに!」
彼の首から唇を離すと、そこには紅い花が咲いていて。
彼が着ていた大きすぎるTシャツの下に手を滑り込ませ、たくし上げると、彼が僕の手を掴んで止めました。
「キョン君、」
至近距離で見つめる彼の顔はほのかに赤く、僕は彼の頬に唇を落としました。
「・・・いい。俺はもう十分大切にされた。もうこれ以上は大切にされても苦しいだけだ。・・・好きにしていい。」
首に彼の腕が回されるのを感じながら、僕は白いTシャツのその下の肌に、赤い口付けを落とします。
「んぁっ」
普段の彼からは想像もつかないような甘やかな声が彼の唇から漏れ、それだけでも僕はイッてしまいそうでした。
僕が彼を見上げると、彼は左手で真っ赤な顔を隠します。
「どうして顔を隠すんですか?見ているのは僕だけですよ。恥ずかしく、ないでしょう?」
僕は彼の左手を顔からどけると、彼の唇にキスを落としました。
「先ほどは遮ってしまってすみませんでした。貴方の本音がわからなかったものですから。」
彼はとろとろに溶けた瞳で首を緩やかに横に振った後、「古泉」と、僕の背中を更に強く掻き抱きました。
「んっ・・・」
彼がねだるので更に深く口付けをし、それと同時に彼の白いTシャツを全て脱がしてベッドの下に放り投げてしまうと、僕は一旦唇を離し、“僕の名前は古泉ではないですよ”と彼の耳元で囁きました。
彼は上半身裸で、とろとろになった瞳で僕の着ていたYシャツのボタンを外す作業に没頭していた最中で。
僕が顔を覗き込むと彼は恨みがましそうに僕をにらんだ後(犯罪級に可愛いです。)

「・・・いつき」

と僕の名を呼び、僕の首筋に唇を寄せて思い切り吸い上げました。
彼は再び「いつき」と僕の名を呼び、自らが付けた紅い花を指で辿りました。そして今度は僕のズボンのベルトのバックルに手を伸ばしてきたので、さすがの僕もぎょっとして、彼の手を握って止めました。


「また今度させてあげますから、今日のところは大人しく僕に開発されて下さい。」


言うと彼はコクン、と首を縦に振りました。


******
side Kyon

少し角ばった指が頬を撫で、輪郭を辿る。
意図を持って動くその指は、まるで魔法のように俺の快感指数を高めていき、一定のリズムで下に、下にと触れてくる。
熱さのために上気した胸を撫で上げ、期待に膨らんだソコを意地悪く焦らす。

「・・・は、ぁ。」

堪らず甘やかな声を上げると、古泉は嬉しそうに口角を上げた。
「赤いですね。・・・真っ赤に熟れて、まるでフルーツみたいだ。」
俺はたった今確信した。

・・・・コイツは絶対サドだ!

少しばかり睨み付けてやると、古泉は優しく笑ってソコを捏ねくり回して俺をさらに煽る。
しばらくはその行為を楽しげに繰り返し没頭し、気が済んだら奴は俺のジーンズのズボンを脱がした。・・・肌に直接外気があたって少し寒い。
そんなことを考えていたら、奴はいきなり下着の中に手を突っ込んできた。

「ちょ、待て古泉!」
「何故です?」
静止の声を上げる俺を無視して古泉は手を下着の中で動かす。

「あなたがいけないんですよ。僕を煽る様なことをして。」

誰だコイツ!
笑顔でいじめるこいつの手のなんと卑猥なこと。俺は快感に堕ちた声を出すまいと唇を噛み締めた。
「ん・・・っ」
「だんまりですか?ですが止める訳にはいきません。僕だってなけなしの理性を総動員してあなたを抱かないと決めて居たのに。・・・煽ったのはあなたです。」
ジーンズを下着ごと下げられ、いつもは見上げる位置にある少し茶色がかった髪の毛が、俺の腹部より更にに見える。

オイオイオイ!

俺は耐えきれずに、古泉のベッドのシーツを握った。


「・・・んあぁ!」
下が温かい粘膜に包まれる。続いて、全身に電流が流れた。
「ん、・・・ふ」
言うまでも無い。俺は古泉に今現在進行形で食べられている。
ざらざらした舌が一番上の剥き出した部分を通過する度、俺のそこからは凄く淫猥な音が盛大に聞こえた。

「あ・・・はっ!」
ぴちゃ、くちゅ、と何度も何度も俺のそこをむさぼるから、俺はとうとう我慢が出来なくなる。


「古、泉・・・はな、せ。出・・・んぁ!」
「嫌です。このまま口に出して下さい。」

出しても何も、もう限界が近い。はっきり言うが既に頭では何も考える事が出来ない。
迫り来る絶頂感にどうしたらいいのか検討がつかない。
やけに下半身が熱く感じられ俺の太股に、古泉の息がかかった。


「・・・・・・!んあ、や、やめっ!」
一瞬頭が真っ白になって、俺は絶頂を迎えてしまった。奴の顔に盛大に俺の・・・まぁあれだ。がかかる。
目の前がチカチカして気持ちいい。息を荒くついていると、奴が顔を近く寄せてきた。
「気持ち、よかったでしょう?・・・随分溜めてらしたんですね。とても濃いですよ。真っ白です。」
そう言って古泉は頬に付いた俺の・・・アレを親指で拭って口に運ぶ。
「・・・濃厚、ですね。」


この変態エロエロ大魔人めが!
そう思っていると、奴はベッド付近に置いていたウェットティッシュで顔を拭いた。
ポイ。と近くのゴミ箱にソレを捨て、古泉は俺を見つめた。
急に恥ずかしくなった俺は顔を赤くしてうつ向くと、古泉は俺の太股に手をかけ、更に開いた。

「覚悟は、出来てますね?」
・・・何に対してだ、と思ったが古泉が触れた箇所でこれから何があるかと悟ってしまった。
俺は手を奴の髪の毛にさしこんで顔を近付け、キスをした。


「いい、来いよ。その為に俺はココに来たんだ。」


ピリ、と袋を破く音が聞こえて、ぬるついた何かが後肛に触れた。
それから胎内にぐっと入って来た熱い塊に俺は体に力を入れ、古泉は俺の動作に息を詰めた。

「・・・ッ」

しかめた顔がいつもの奴らしくなくて俺の心臓が早鐘を打つ。古泉の汗がポツポツと肌に落ちてきて、俺はそれにすら煽られて体を震わせる。
それに気付きながらも古泉は更に腰を進めながら垂れていたうざい前髪を後ろにかきあげた。


もう駄目だ、何も考えられない。


体が自分のモノでないかのように言うことを聞かない。酷く熱くて、脳が麻痺している。まるでマラソンをしているときのように。
いろんないやらしい事を口から洩らしながら俺はベッドのシーツの波に沈んでいく。
顔をシーツに沈めて感じるのは

こいつの、におい。

「こ、いずみ・・・!」
苗字で呼んだ名前が気に食わなかったのか、古泉は口を吊り上げて笑うと、俺の耳元で囁いた。
「・・・名前、呼んで。」
奥に奥にと侵入されて、堪らなくなった俺は古泉の首に腕を回し、呟いた。

「いつき。」

ちゅうちゅうと首を吸われる痛痒い感覚が体を支配する。
イイトコロをぐりぐりと刺激されて、俺は回した腕を肩までずらして爪を立てた。
「イッ・・・!」
思いのほか強く引っ掻いたようで、苦痛の声を上げる古泉に俺は申し訳なく思って、頬に唇を寄せた。
「・・・!」
驚いた古泉は一瞬目を大きく開いたあと、俺の顎を捕らえて唇を舌で開いた。

******

Side Koizumi

唇を舐めて、首にキスをして。神にさえ許されていない体を開いて、侵入して。
もしかしたら自分はとても愚かなことをしているのではないかと思う。
生産性の無い行為。彼にとっては苦痛でしかないかも知れない。
でもこうやって求めて、縋ってくる腕を自分は振り払え無かった。


「いつき、いつき。」
下から不安の要素を含んだ声が聞こえる。僕はその声に誘われるままキョン君の首に所有印を残した。

これで、七つ目。

わざと見える位置につけたのは、ある種の賭け。神がどういった反応を返すのかが気になる。まぁ、その前に長門さんあたりが消しそうですが。
彼の癖の付いた後ろ髪を左手で撫で、右腕を腰に回し抱き上げる。

「んあッ!」

彼自身の体重で繋がった場所が更に深くなる。大きく肩で息をしながら潤んだ瞳でキョン君は僕の肩に溜め息を吐いた。
「・・・お前、体勢変えるなら事前にそう言え。」
耳元で息の成分を多く含んだ声が僕を堪らなくさせる。

――――色っぽい。

彼を抱いた後で考えるのは不謹慎だが、女の子を抱けなくなってしまいそうで怖い。
何というか・・・酷く落ち着く。

そして気付く。

彼は基本的に抱きしめる側の人間なのだと。
深くて広い川をゆったりと流されるような、そんな包容力。
『神』である彼女も、彼のこんなところに惹かれたのだろうか。全てを拒みながらも結局は受け入れる、そんなところに。



直ぐ見下ろしたところに白い項が見えたので、僕はすぐさまそこに吸い付いた。
・・・先ほどよりも餓えた感触が体に広がっていく。


欲しい、もっと深いところまで。


「・・・キス、してもいいですか?」


「お、」
彼の了承をとる前に深く口付ける。口腔内を貪りながら僕は彼の髪を掻き上げた。
ぐしゃぐしゃになった彼の髪から薫る、石鹸の香り。
背骨のラインに沿って左腕を下にと下ろして、胸のラインを右腕で辿り、彼の腰を両腕で持ち上げ、上から下ろした。

「・・・んッ!」

唇を塞いでいるから、彼は息を逃すことが出来ない。
どんどん、と胸を叩かれても僕は止めずに再び彼を持ち上げ、繋がったまま下ろした。抽挿を繰り返すたびに、彼の中は蠕動して僕を受け入れる。僕を離すまいと動くそこに、悪戯心が膨れ上がる。

「キョン君。」

やっと唇を離すと、彼は大きく息を吐いた。そして僕に腕を回すと再びシーツに沈んだ。
スプリングが利いたベッドは、まるでミルクのように波立つ。
右腕を彼の耳元に付くと、僕は首を傾けた。
「気持ちいい、ですよ。」
とたんに真っ赤になるキョン君が愛しくて仕方ない。今から聞くことに少々の同情を覚えたが、好奇心には勝てなかった。
「・・・僕がしなかった間、ご自分でなさってたんでしょう?貴方の中はとても心地いい。」
頬をスルッと撫でると、彼は僕をぎゅっと締め付けた。
「・・・ね?」
顔を赤くしたままそっぽを向く彼に、また何度か抽挿を繰り返す。
「んあ・・・あっ、一樹」
緩いその動作は確実に彼を煽ると知っていて、僕はその行為を続ける。
「言って下さい。どんな風にしたのか。」
だんだんと力を強めながら腰を動かす。彼はゆるゆると唇を開くと息をついた。
「指、だけ。」
彼は真っ赤な顔を左右に振ると、「後は怖くて出来なかった」と白状した。
「・・・だってお前しないし、嫌われてるって、思って。」
涙ながらに言われた言葉に僕はシーツの上に縫いとめられる。
・・・不安にさせてしまっていたなんて。
「大丈夫です。貴方を嫌いだなんてそんなことは絶対に無いです。」
頭を撫でながら言ったらキョン君は怒ったような顔で見上げてきた。
「・・・嘘吐き、バカ、鬼畜、変態。」
「すみません。」
苦笑して謝ると彼は僕を抱き寄せた。
「・・・でも、好き。」
頬に、目蓋に口付けをされて僕はそれを彼に返した。
「僕も、貴方を愛しています。」
二人してキスに溺れながら再び行為を再開させる。
僕が彼の首に九個めのキスマークをつけると、彼は頭を僕の首に近づけるとちゅうぅ、と吸った。
甘酸っぱい感覚が自分を支配する。僕は初めて彼の独占欲が形になったものを指で撫でた。
彼は「お返し」と言いながら方眉を上げて笑った。

******
Side Kyon

結局あれから何度も古泉と熱を分け合って、満足したのは朝日が昇る時間より少し前だった。
あの絶倫男め。
散々ヤツにいいようにされた体はガタガタで、一歩も歩けずにペシャリと崩れ落ちる。
ほんと、今日が休日でよかった。
ハルヒの不思議探索も今日は無いからな。
ぼんやり考えながら俺はいま古泉宅の浴室にいる。湯に浸かっているのだ。もちろん、言うまでも無く俺がここまで一人で来れる筈がないので、後ろにいる負んぶお化け・・・もとい、古泉に抱っこしてもらった。
ちなみにお姫様抱っこじゃないぞ!ちゃんと向き合う形だったんだ。――――言い訳にしか聞こえんだろうが。

「お湯加減どうです?ぬるくないですか?」
「・・・大丈夫だ。ってか、引っ付くなよ。」
「おや、冷たいですね。」
「湯加減がか?」
「貴方がですよ。・・・幸せを満喫した後だというのに、つれないっていってるんです。」
古泉は後ろから抱きついたまま俺の肩に軽くキスを落とした。
「盛るな。」
「今更、でしょう?」
「・・・少しは俺を慮れ。」
「これでも大分セーブしたほうなんですが。」
古泉は眉をしかめると顎に手を当てた。
「・・・・・・あれで?」
俺は最中を思い出した。揺す振られる感覚、内臓を突き破りそうな圧迫感。焼けた肉の感触、飛び散る汗。
あれで大分セーブしたと?つまり、こいつにはまだ余裕があると?
「お前は一回俺に殴られるべきだ。」
最中に余裕なんて無かった。ずっと古泉を捕らえようと必死になって腕を回して、縋って求めて。
あれで足りないのなら、今度から自分はどうやってコイツのことを抱きしめたらいいのか分からなくなる。

「それは勘弁願いたいですね。でも僕はかなり満たされましたよ。」
俺はその言葉に古泉を振り返った。
バチャン、と水の音がする。
「だって、貴方は受け入れてくれたから。・・・神ではなく僕を。」
古泉の笑った顔が、いつもの“イエスマン”な表情じゃないことに俺は嬉しくなった。
だって、コイツのこの表情を見れるのは多分少ないだろうから。
「しょうがない、許してやる。」
俺が言った言葉に古泉は至極嬉しそうに笑うと、「来週も、来てくれるんですか?」と聞いて来た。
「ん・・・まぁな。お前の食生活が多大に気になるし、一緒にいられるし。母さんと妹には許可は取ってある。」
「ありがとうございます。」
「好きでやってることだ、気にするなよ?」
「では来週、コンドームの買出しに行きましょうか。二人で。」
俺はその言葉に顔が熱くなった。
「お、おまっ」
「今回のはあまり枚数が入ってなかったので、次のはいっぱい入っているものにしましょうね。・・・あ、でも少ない枚数のものを多種類買ってみるのもいいかもしれません。」
その言葉に俺は呆然となる。っていうか、何回する気だよ。
「・・・昨日までのお前はどこ行った?」
「夢の彼方に。ですが、誘ったのは貴方ですよ?キョン君。」

古泉は口角を上げてニヒルに笑った。・・・そもそもなんでコンドームがお前ん家にあるんだよ!
「それは、貴方が来るとおっしゃったので慌ててコンビニに買いにいったんです。便利ですよね、コンビニ。」
便利だからコンビニって言うんだろうが。
俺は古泉の胸に寄りかかった。
「・・・それは、一人で買いに行け。俺が一緒にいくといたたまれない。」
ヤツはくすくす笑うと、「了解しました」と頷いた。


あれから俺は、週末を古泉宅で過ごすようになった。家族も容認している。
俺が毎週古泉の家に来るせいか、古泉宅には俺の私物がちらほらと増え始めた。
週末と言っても、古泉がいないときもあるので(例によって閉鎖空間発生時とか、報告書だとか)そのときは何時間か待つことにしている。そして大概そのまま眠ってしまう。

そういうときは、朝起目覚めたら必ずベッドの上にいる。太い腕の上に置かれた自分の頭に気付き、そっとベッドから降りようとすると、奴は決まって俺を抱きしめる。
『おはよう』と朝日の中言われる恥ずかしさはこいつには分からんらしい。
でもその動作を幸せだと感じてしまうのには、俺も相当末期だと自覚する。


あぁ、なんでこんな事になったんだっけか。と思案して、思い当たる出来事をつらつらと考えると、今度は羞恥でいたたまれなくなる。
行動のほとんどの現況が俺だからだ。まぁ、好きなのはお互い様だが。・・・・・考えてて寒くなってきた。


とにかく、俺はこの先がどうなるかは知らないが今のところ古泉が好きで、両思いな展開に少しも後悔はしていない。
後悔するなら、奴を好きになった時点でするからな。それに何だか幸せだ。
これを絆されたというのだろうな。うん。
なにやら収拾がつかなくなってしまったが、惚れたほうが不利なのは昔から相場が決まっている。だからあいつが女の子に囲まれていても、それはしょうがないと俺は諦めることにした。
わざわざ平日に喧嘩して、貴重な休日の時間をチャラにはしたくないからな。
後で古泉が“貴方もちょっとくらいやきもちを妬いてくれたらいいのに”とこぼしていたが、そんなことはしなくていいと思う。




だって、古泉以外なんて見なくても俺はいいからな。



END.




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