ハルヒ

名前というのは、実に厄介なものだと僕は考えます。何故厄介かと申しますと、名前はその人にとって必要か不必要かを線引きするものであるからです。
例えば僕が、神に向かって『ハルヒ』と呼ぶとします。僕と彼女が毎日会っていて、『そこそこ親しい仲である』という事を前提条件にしましても、彼女――――涼宮さんは不快感を露にし、僕に問掛けるでしょう。
『何かあったの?』と。
ですがこれが彼、キョン君ならば話は別です。
そうです、御察しの通り前提条件があったにせよなかったにせよ、彼女は何一つ不快に思う事はない。
それは彼女、『神』にとって彼『キョン君』が特別だという事柄から成立するものであるからです。

では彼はどうでしょう。

彼の名前の相互関係を表す前に、まず解りやすい涼宮さんの例をあげてみましょう。
涼宮さんの場合、親しくしてくれる人は下の名前で呼ぶ傾向が強いです。
そこから一歩出た存在が僕、一歩踏み込んだ存在がキョン君だとしましょう。後の方は全てキョン君の後ろ、僕の前で並列に並んでいます。
これを彼に当てはめますと、まず前提条件から。
彼は誰に対しても名字で呼ぶ傾向があります。
男はみんな名字での呼び捨て、女性の場合は、上級生には名字に“さん”を付け、同学年者は涼宮さんを除いて名字の呼び捨てで呼びますが、最後の文字に丸さが表現されます。
そして彼が相手の名前を呼ぶとき、必ずと言っていいほど、相手を見ているんです。事実、あまり返答を返さない長門さんも、彼の呼び掛けには答え、何らかのアクションを起こします。
彼が涼宮さんを名前で呼ぶことが少々納得いきませんが、まぁそれに大きく目をつむったとして、長門さんを軸に、二歩踏み込んだのが涼宮さん、一歩が国木田くん、谷口くん、長門さんと同位置に朝比奈さん、一歩出た所に僕と鶴屋さん、二歩下がった所に会長がいます。
はっきり言って、面白くありません。
キョン君は僕を名字で呼ぶときは例に添わずどこか四方を見たままなんです。

どういうことなんですか。
前ふりが長くて申し訳ないのですが、僕は、キョン君に、目を見て、下の名前で、呼ばれたいんです。

******

side koizumi


「下らんな。」
涼宮さんが帰った後のSOS団の部室で、やっぱり彼はそっぽを向いたまま僕に言った。
パラリ、という長門さんが本をめくる音が静かになった部室に響く。
彼はじっと夕日に照らされたメイド服を見ている。それを先程まで着ていた人は、神のコスプレ衣装選びに無理矢理連れて行かれてしまった。
どうせ、あのふわふわした彼女の事を考えているのでしょう。
脳裏に浮かんだ彼の嬉しそうな顔が僕を非常にイライラさせる。

パラリ、とまた長門さんの、本をめくる音が聞こえる。

盤上のゲームの駒は、既に彼に有利に動いている。僕はポーンをひとつ、前進させた。

「どうしてですか?簡単なことです。なぜ下らないなど思うのですか?」
珍しく食い付く僕に、彼ははぁ。と大きく溜め息を吐いて、盤上のヴィジョップを動かした。
ひとつ、騎士が取られる。
「別にどうだっていいだろ。何が不満だ。」
3つ、クイーンを動かす。
「不満です。貴方が無意識にやっているなら尚タチが悪い。僕を突き放している様に見えるんですよ。まるで避けている様に。」
彼の目が大きく開かれ、そして僕のクイーンが取られる。
そして彼は顔を上げた。
「べ、別に避けてなんかいない。みんなにもお前にも俺は普通に接して居るし、お前はハルヒの作った団員の一人で、それ以上でもそれ以下でもない。チェック。」
僕のキングの二つ斜め前にヴィジョップが迫り、それを避けて右に動かすとクイーンでチェックメイトをかけられる様になっていた。
「・・・僕の負けですね。でも、知っていますか?」
彼の言葉を僕は殊更笑顔で言った。
「貴方は、嘘を吐くとき、饒舌になるんです。」
パタン、と長門さんが本を閉じる音が聞こえ、彼の肩が大袈裟に震えた。

静寂が部室を支配した。

******
side kyon

「そうですか。僕は貴方に避けられていたと。」
長い沈黙の後、古泉はそう溢した。
いつもは柔らかく映る笑顔が、今日は歪んで見える。
・・・どういうこった。
俺は視線をメイド服から古泉に移す。
古泉は、本を閉じてじっとこちらを見ていた長門に目を向け、
「長門さん、今日は鍵当番でしたよね。」
と言った。長門はコクン、と静かに一度頷くと、「そう」と答える。
古泉は、こっちに背を向け、鞄を持ち上げると長門に帰る旨を伝えた。
「では今日はもう帰りますのでお気をつけて。」
奴は最後にこちらを見ると、「それではさようなら、『』君。」
と俺を名字でよんで帰って行った。
ガチャ、と部室のドアが開き、古泉の背中が遠ざかって行くのを見ても、俺は何も言うことができなかった。
だって、避けている云々について俺は何も言えない。
なぜなら、俺は古泉を意図的に避けて居るからだ。
古泉は無意識だのなんだのと言っていたが、そんなことは無いと声高らかに言いたい。言いたいが、その避けている理由を聞かれれば俺は黙するしかないのである。『世界の為』というのも追記しておこう。
・・・自分でも未だに納得出来ないし、少々だな、その。幸せだったりするのだが俺は『スーパー少年戦隊エスパーレッド古泉(比喩で無い)』に惚れてしまったのだ!

ありえない。ありえないと思う俺自身がありえない。そして氷河期並にサムイ。
何故男。

ふわふわと可愛い朝比奈さ~ん、ではなくなぜ古泉。
大丈夫か俺。しっかりしろ俺。と一時期は自分が信じられないジレンマに陥ったこともあったわけだが、なんとか持ち直した。
だって、(これを表記するのは死ぬほど恥ずかしいが)キラキラ~っと輝いて見えるのだ。あの古泉が!
笑顔にかち合うだけで恥ずかしくなって、直視出来なくなってしまうのだ。

お 前 は 神 仏 かっ!

だから目を反らしてしまうのも致し方ないというものである。
これでお前、目をみて
い、い、い、いつ、いつ、一樹、
なんぞ呼んでみろ!世界の崩壊の前に俺の精神が崩壊するわ!断言できる。
つまり俺が古泉の名前を呼べないのはそういった理由があるからだった。

なのにあの男!


「僕はキョン君に目をみて、下の名前で呼ばれたいんです」

だなどと。
はっきり言うが、なんぞのギャグか?冗談としか思えんぞ。
コレが奴の本心からなら、町内を女装しながら一週してしかもにこやかにご近所様に女言葉を使うくらいしてもあまりある位、飛び上がって喜んだものを。
何にキレたかはしらんが、俺を名字で呼ぶとは。
っていうか、俺の名前を知ってんならそのふざけたあだ名で呼ぶのは止めて貰いたい。
是非とも下の名前で呼んでくれ!そっちのが幸せだ。


・・・って、アレ?
俺は今、何かしら重大な疑問に行き当たった気がする。
もしかして、いや、仮りでもいい。
あーっと、そう。仮定条件の話だが、

古泉は、俺のこと・・・す
いやいやいやいや。
ありえない。ありえるはずが無い。しっかりしろ俺!どこの腐女子なんだよ。
自分の都合のいいように解釈しだしたらこの世の終りだ、俺。
冷静になれ冷静に!



頭をガツガツと机にぶつけ、赤くなったり青くなったり、首を180度に振ったりする俺を、長門は本を書棚に戻すと、一言
「ユニーク。」
と静かに言った。

・・・対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース長門有希よ。もう少しまともな慰めかたは無いものか。

・・・いや、いい。やめてくれ。お前の助言はイコールで予言だからな。俺はそう返し、長門を見たら、奴が口を開いた。
待て、早まるな聞きたくないっ!
俺は急いで耳を塞ぎ、長門の言葉をさえぎったが、最後の一言が指の隙間から聞こえた。
「・・・だから無・・・なのは古泉一樹のほう。」
顔を上げ、長門を見る。
意味が解らんぞ長門よ。
俺が言うと、長門は少し楽しそうにまた「ユニーク。」と言った。
だからそれは止めてくれ。頼むから。


******

side koizumi


昨日から一晩時間が経過したわけ
なんですが、これは一体どうしたことでしょう。
今朝から僕は、不思議な光景に出くわしています。いや、神人とかそういったおっかないものではないです。もっと可愛い・・・失礼。不思議かつ、納得がいきません。何かといいますと、彼・・・キョン君が僕に会うたびに顔を耳まで真っ赤に染め上げて全速力で逃げるんです。
・・・必然的な作為を感じます。
そして放課後になり、涼宮さんは長門さん、朝比奈さんを連れて買い物に出かけました。
二人だけの部室。
今、彼は僕の目の前にいます。います、が。
「なぜそんなに離れて座っているんですか。」
彼はいつも彼が座っている定位置にいるのではなく、長門さんが常日頃座っている窓際のパイプ椅子に腰掛けています。
「別に。どーだっていいだろ。」
やはり彼は外を向いていて、こちらを見てはくれません。・・・なんかちょっとイライラしてきました。
「どうでもよろしいのでしたら、こちらに来たらいいではないですか。」
彼はひとつ、はぁ。と溜め息を吐いた。
「・・・やだ。」
「なぜです?僕に何か不快な要因でもあるんですか。」
彼が開けた窓から、風がそよそよと入ってきて、彼の前髪が揺れる。・・・やわらかそうな、ソレ。
一瞬の沈黙の後、彼は緩やかな動作でこちらを向いた。
窓から差し込む夕日が逆光になって彼の表情をわからせなくする。
彼は頬杖をついていた手を膝に置いてまたひとつ、大きく溜め息を吐いた。

「古泉。お前は俺に何を期待してるんだ。俺にどうして欲しい。なんで名前で呼ばれたい。
こちらとしては、だな。その。お前の心理がわからん。もっとわかりやすく説明してくれ。」
いつもの何もかも投げやりな彼ではなく、まっすぐに見つめられる瞳に呼吸ができずに僕は下を向いて彼の質問の回答を考えた。



そもそもなぜ僕は彼に名前を呼ばれたい、などと考えたのでしょう。これが涼宮さんだったならば、幾分かは納得できます。だって僕は『神』に気に入られるために生きてますから。それ相応の対価として評価が欲しくなってしまうのは、当たり前というものです。こう見えても僕は貧欲ですしね。

ではなぜ『神』ではなく彼なのでしょう。

確かに、当初は彼に対して特別に如何こうしようなど思っていなかったはずです。
彼は『神の想い人』であり、『世界の鍵』であることしか認識していなかったはず。
彼に目が行くようになってから気づいた名前――――この場合は呼び方ですが、の法則性で、僕が彼の内側からあぶれた存在であると知った時は足元が崩れ去るくらい悲しく、苦しかった。
そして彼に名前で呼ばれるコトを許された『神』が酷く羨ましかった。いっそ殺意が湧いたくらいです。

『彼は無意識に[神]を特別扱いしている』のだと。

・・・ちょっと待って下さい。僕は自分の感情というものがわからなくなってきました。
そう、今までの自分の脳内を簡単に、且つ簡潔にまとめますと・・・え、ちょっと待って下さい。だいぶ混乱しています。
では、すると何ですか。僕は彼に無意識にでも意図的にでも『特別扱いされたかった』ことになります。
えぇ、それは間違いないでしょう。間違いないんです、が。


僕は顔を上げて彼の方を向いてみました。
少しおとなしくなった夕日の色で、彼の顔がはっきりと見えます。
彼は眉間に皺を寄せていて、しっかりとこちらを見ています。
でもどうしてですか?何でそんなに可愛く見えるんです!?
彼には申し訳ないですが、僕は、僕の考えていることが理解できません。ぶっちゃけ脳内はショート寸前、解読不能です。
つまり(あぁもう事実と言ってもいいでしょう!)そう。今もってわかったことですが、僕は彼に好意を持っている、というわけなのです。

・・・それも多大な。
どうしてこんなことになってしまったのでしょう。神への冒涜です!

あぁだからこっちを凝視してはだめですキョン君。
君は僕を殺す気なんですかっ?

・・・本当に、困ったものです。


******

side kyon

古泉に質問をしてから数分時間が経ったように思う。
未だに俺が出した質問の答えは返されていない。はっきり言うが、俺はこの質問を出したことをこの数分間、ひたすら後悔していた。
穴があったら入りたい、とはこのことか!
なぜなら、この質問は俺の秘めたる(何処の乙女か!恥ずかしい。)思いを暴露したことも同然だからだ。

何言っちゃってんの俺!

・・・古泉。とりあえず今すぐに考えることを止めたまえ。俺は非常に恥ずかしい。何か?これは一種の羞恥プレイか?そーかそーか、お前は変態だったと。よーし解った一発殴らせろ。
とか、ぐるぐるぐるぐると考えながら呆けーっとしていると、ガバッと古泉が顔を上げた。

お、考えがまとまったらしい。

何を言われるのかと、そのまま俺はじっと古泉を見た。すると古泉はみるみる頬やら耳やらを真っ赤に染めて、俺から目をそらした。

・・・ばれたな。

「ひとつだけ、確認したいことがあります。」
俺は自分の頬やら耳やらが熱くなっていくのを実感し、腹をくくった。これで古泉が気持ち悪がり、避け始めても仕方ない。と。
そんな異常な状態なのを一番理解してるのは俺だしな。
だから俺は次の瞬間に、俺が古泉に抱いている気持ちを口から吐露した。
清水の舞台から飛び降りるつもりで。

「そうだ。俺はお前のことが好きだ。」
「貴方はいつから僕が貴方のことを好きだということに気づいたんですか?」

部屋に沈黙が落ちる。俺は首を大きく傾げた。
俺たちは同じタイミングで言葉を発したのだ。
「は?」「え・・・え?」
俺たちは小規模なパニックに陥った。
「・・・ち、ちょっと待って下さい。話が噛み合いません。」
「あぁ。そうだな。」
「貴方は、僕が貴方のことが好きなのを知って、気持ち悪く思って避けていたんじゃないんですか?」
俺は首を横に振る。
「違う。お前こそ俺の気持ちに気づいて・・・。」
「少々まとめる時間をください。
今わかったことですが、僕はどうやら貴方が好きです。そして僕は・・・貴方に嫌われているのかと。」
なんということだ。俺たちは両思いだったらしい。
「俺はお前が・・・好き・・・えぇい!好きでないこともない!なんというか・・・恥ずかしくてな。避けてしまったには謝る。」
「キョン君。本当ですか?」
確認を取る小泉に、コクン、とひとつうなずくと、猛烈に顔が熱かった。古泉は目をキラキラと(何時ぞやのハルヒのように)輝かせながら、椅子から立ち上がった。
カタン、と軽い音がして、俺は視線を床に落とす。
近くにゆっくりと近づく古泉の影が緩やかに床に伸びた。

「僕の早とちりだったんですね。つまり僕たちは両思いだったと。」
古泉は笑って俺の頬に手を伸ばした。

******

side koizumi

触れた彼の頬は存外柔らかく、僕は幸せな気持ちでいっぱいでした。
だって。信じられます?これが全て僕のもの、僕だけのものなのです。

「古泉?」
あまりの幸せに、トリップしていた僕は、キョン君の一言で我に返りました。お恥ずかしながらキョン君、そう下から見上げないでください。もしかして、誘ってるんですか?
「あ―――それでだな。」
彼は赤く染めた頬を更に染め上げ、僕から視線をはずし、少々茶色く痛んだ髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜました。
「だからだな、その・・・名前は・・・」
髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら彼は下を向きました。
僕は彼の言わんとすることが理解できましたので、そっと体を抱き寄せたあと、耳元で囁きました。
「では条件を付けましょう。僕と貴方が二人きり、もしくは、僕と貴方、長門さんがいるときだけ、僕のことを名前で呼んで下さい。
聞いているのは僕と、長門さんだけですから、恥ずかしくなどないですよ。」
ゆるく抱きしめた彼の体は酷く頼りなくて、そして細いです。・・・特に腰の辺りが。
一体何を食べて生きているんですか?
窓から入ってきた風が、僕の髪の毛を梳いていき、彼が僕の腕の中で身じろいだ。
「・・・・恥ずい。」
パラパラパラ、と神が置いていった雑誌が風を受けて音を立てめくれる。
「なぜ?」
彼は僕の制服の肩口に額を擦り寄ると、(猫みたいで可愛いです。)
「古泉だから、恥ずかしい」
といいました。どうしたんです。何で今日はそんなに可愛いんですか?・・・さては僕を殺す気ですね。そうなんですね?
「では、今だけ呼んではくれませんか?今日だけです。これからは、そう無理意地はしませんので。」
僕は彼を抱きしめて必死に説得した効果か、彼は真っ赤になった顔を上げると、僕の口元を申し訳なさそうに見、
「一樹」
ととても小さな声で呼びました。
もちろん僕は幸せに浸ったのですが、彼は恥ずかしさの頂点に立ったのか、僕の胸にその丸っこい頭をうずめると、「うーうー」とうめきだしました。
僕にはそれがあまりにも可愛く、且つ微笑ましく映ったので、彼の肩に腕を回すと、更に強く抱きしめました。

・・・それにしても、細い体です。

******
結論

「特別意識」というものは誰かしら持っていて、自己を構成するには必要不可欠な感情であることが今回のケースで立証されました。
そしてそれがイコールで個の名称と一致しない例があるということも、です。
後々から考えて、思い至ったことなのですが、彼は僕が話しかけるときに、何かしらのアピールを毎度していたんです。

・・・可愛いなぁ。

じゃなかった。
つまりこういうことです。彼が僕の方を向かずに名前を呼ぶのは、彼がとても「照れ屋さん」だったことに起因します。
彼も大概鈍いのですが、僕も相当鈍いようです。
少々考えれば理解できたことなのです。
 そう、彼が僕を呼ぶ際、彼は必ずそっぽを向いてはいますが、体はこちらを向いていたんです。
後で長門さんに伺ったところ、彼がそっぽを向いて僕を呼ぶとき、耳が赤くなるんだそうです。
・・・困ったなぁ。
ですがこれで涼宮さんを上手くごまかすことができます。
『神』を欺くことに少々の危機感を感じますが、バレるよりはマシです。
彼女は、僕のキョン君が「ハルヒ」と一人だけ名前で呼ぶことに隔絶した多大な優越感を持っている。
そしてそれを心底当然だ、とも。
自分ひとりだけがキョン君に特別扱いされていると。
これは考えれてみれば好都合です。
僕らの関係を内密にすることは、僕と彼の間で協定が結ばれていますし、長門さんや朝比奈さんも仮にバレたとして(長門さんには既にバレていますが)涼宮さんには言わないでしょう。・・・これは確定事項ですね。
ですが、キョン君の友人には目を光らせておいたほうが得策かもしれません。鋭い国木田君は察してくれるでしょうが・・・谷口君は言いふらしそうです。断じて阻止しなければ。


さてさて、怒涛の告白劇が幕を閉じ、僕たちは晴れて恋人同士になった訳ですが、日常生活はあまり変わりません。変わったこと、といいますと・・・

「一樹。」

彼が僕を名前で呼んでくれるようになったことです。
最初は、恥ずかしさのあまり落ち込んだり、ぐるぐる考える事が多かった彼ですが、僕の努力の結果僕の前でのみ、こう呼んでくれます。
「何でしょう。」
僕が答えを促すと、彼は近くにとことこと寄って来て、パイプ椅子に座る僕の額に自分の額をぴっとりとくっつけ
「今日お前の家に行くからな。」
と宣言してきました。
僕は、抱きなれたキョン君の細い腰を自分に引き寄せ、彼を膝の上に乗せると、耳元で
「来るだけで、いいんですか?」
と確認を取ります。
すると彼は決まって頬を赤く染め上げ、小さな声で

「意地悪。」

と言うのです。


END.

→おまけandあとがき


追記

彼にどうして涼宮さんのことを名前で呼ぶのか聞いてみました。

彼、曰く。

「何だ、お前。そんなこと気にしてたのか?
いいか、“涼宮”なんぞ言いにくい上にかみ易いんだぞ?一回慌てて呼んだときに噛んじまってな。ハルヒに大笑いされたんだ。アレは近年中で一番の失態だったな。
・・・クソッ忌々しい。だからあいつの呼び名はハルヒなんだ。
ハルヒのほうが字数も少ないし、呼び易い。第一、絶対かまん。
長門は、名前で呼ぶと違和感があるしな。
他に質問はないか?彼氏殿。」

にっと笑った彼が可愛かったのでそのままご馳走になったんですが、まさか理由がこんなに単純だったとは、さすがキョン君としか言えませんね。
その後、彼が俺の名前は?と聞いてきたので、愛情をたっぷりと彼の名前を耳元で呼んで差し上げました。


そのときの彼がどうだったか、なんてもったいなくて教えて上げませんがね。


END







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