ハルヒ

『貪欲なキス』

自分と他人の唇と唇を合わせるという行為で息ができなくなるということを、俺は少し甘く見ていたのかも知れない。
有希がよく読んでいた(というのは少し語弊があるが。)少女小説とかでよく“息ができないから・・・”とヒロインが言い、“ならしなくていい”とかいう主人公がいたが、俺はそれだけは絶対にないと思っていた。

どこの外国映画を見ても(それが古いものであれ新しいものであれ)キスで息ができなくなった女優や俳優はいないからだ。AVになるとまた違うのだろうが、幸運なことにそれらは見たことがないのでここは割愛させていただくことにする。
・・・キスという行為は俺は割と好きだ。普段、あまり感じないが愛されていると思える。
この間たまたま昼飯でいっしょになったミシェルが「好きでもない人にキスするとか冗談でも俺はできないね。」とか言っていたが(それで早乙女が目を丸くしていたのにはびっくりした。)それはまぁとても頷ける。
つまり、人と人が気持ちを伴ったうえでの軽い肉体的接触がキスという事なのだ。と思う。
 だいぶ論点がずれた。つまるところ、俺は忙しすぎる古泉に、ほんの少しの気持ちの引き合いにキスをしよう、と持ち出したのだ。

パソコンに向かっていた古泉は俺の一言で瞳を柔らかく緩めた。積み上げられたプリント(データー管理が主なこの時代だからこそ、紙媒体はハックされにくいのだ。)をよそに、古泉は椅子から立ち上がる。ノンフレームの眼鏡を外すと、積み上げられたプリントの上にその眼鏡を乗せた。
 古泉と会話をするのは、およそ三週間ぶりである。俺は通常勤務だったのだが、古泉はそうではなかった。
次から次へとハルヒが無茶をするせいでそれの事後処理に追われ、しかも帝国も帝国でどんどん開戦していくものだから幕僚総長としても働かなくてはいけなかった。第七艦隊は大体のメンバーが疲弊したが、それでもこいつよりはましだ。この目の前のプリントも、一週間前までは部屋中を覆い尽くす勢いだったと聞いている。
つまり、そんなこんなで三週間この部屋に缶詰状態だった古泉に会えずにいて、夫婦としてちょっと考えるところがあった俺は、こうしてこの部屋に来たのである。
―――すぐ帰るだけのつもりで。つもり、つまり現実はそうはならなかったということだ。


さて皆さん、もう一度言おう。
俺はキスを甘く見ていた。


柔和な笑顔のまま古泉は俺に近づくと、そのまま体を抱き込んだ。疲れている、というのは解ってはいたが、心配になる。少し痩せていた。ちゃんと食べているのかどうかを確認しようかと思って唇を開こうとしたら、そのまま頭を掴まれて口付けられた。
何度も何度も角度を変えられて、唾液が喉を伝うのが解る。息をしようと口を開いたら今度は舌が入り込んだ。ぐねぐね動く舌は酸素を与えてはくれずに、俺は古泉の軍服を握り返した。

こんなキスがあるとは知らなかった。
・・・っていうか、本当、俺を殺す気だな。



END
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『ティラミス』


「ティラミスの原点って知ってます?」
「あぁ?」
本日12月24日。クリスマスイブ。聖人のバースデーであるにも関わらず恋人達がいちゃつく日となっってしまった日本。当然のことながら俺だってそれくらいは知っている。
だから今日だって泣きつく妹に「団活なんだ」と言い訳をして、ハルヒが「クリスマスイブに遊ばないなんてなしだわ!」と叫んだので二人でディズニーランドに向かって乗り物に乗りまくった挙句、とにかくパレードと花火は外せないとその時間帯まで待ってそれらを見て、帰ってきた。古泉宅に。
はっきりと言わせてもらおう。俺は疲れていた。
雪が降るんじゃないかと思わせる外からぬくぬくした部屋に入ったのは午後10時を回っていて、古泉には悪いがその時点で俺は眠かった。でもそれでは悪いだろうと思ってシャワーを借りて湯船に浸かってほっとして、頭をガシガシとタオルで拭いていたら目の前に大きなティラミスが出てきたわけだ。そしてそれを二人でつつくべくスプーンをとったところ、古泉が先程の質問をしたのだ。・・・あぁ面倒だ!

「・・・しらん。」
率直に意見を述べると、古泉は笑いながら俺の皿の上にティラミスを落とした。
「ティラミス、というのは元はイタリーだということを聞いたんです。」
「へぇ。」
「語源はTiamoで、日本語的な意味は“貴方を愛しています”ということらしいです。ですから僕は、今日一日僕のために涼宮さんを連れまわしてくれた貴方のために日ごろの感謝も込めて作らせていただきました。」

おれはちょっとばかり驚いた。綺麗に丸い形をしている大きなティラミスを、古泉が作ったことにだ。だってコイツときたらまともに米は炊けないし、フライパンの上のホットケーキですらひっくり返せない料理音痴なのに。
怪訝な顔をする俺に古泉は苦笑して、「ほとんど荒川さんと森さんが手を加えましたが僕が作ったということにしてください」と俺の顔を覗き込んだ。
それに頷いて、ティラミスを一口食べる。ちょっとだけブランデーの味が濃いソレはでもあまり甘くなくてちょうどいい。1ピース食べ終わる頃には古泉も食べ始めていて、二つ目を取って口に運ぶと、すこしだけブランデーの香りが強くなったように感じた。
なにもしてないのに頬が熱くなって、ブランデーに酔ったか?と体をよじると目の前に座る古泉がじっと俺を見つめていることに気付いた。フォークを持ち上げて机の上に頬杖をついている古泉は嫌味なくらい美人だ。更に体をよじると、今度は全身が熱くなった。・・・本格的に酔ったな。
古泉の視線から逃れるように体を縮めたが、あの瞳の魔力から逃げ出せずにじっと見返していると、古泉の目がスッと細められた。
そして顎を引っ張られていきなり深く口付けられた。ぬちゅ、と静かな部屋にいやらしい音が響いて、机越しにキスをする。それがとても心地良くて熱中していると、古泉は一旦唇を離して立ち上がった。そして俺を抱き上げると寝室のベッドの上に下ろした。
シーツからも枕からも古泉の匂いがしてもうどうにかなりそうな俺の耳に、古泉は唇を寄せた。
「もういいでしょう?限界なんです。」
切羽詰った古泉を見て、俺は一も二も無く頷くと、とたんに酷く乱暴な口付けが落とされた。
「今日は寝かせません。心行くまで付き合ってもらいます。」
俺が頷くのと、古泉が俺のズボンのチャックを開けるのは同時だった。

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『夢想するのはあの腕、空想するのはあの声、求めるのは君の香り。』 R18



ぐちゅぐちゅぐちゅ、と下肢から卑猥な音が漏れる。何をどうした、もない。先ほどから自慰行為にふけっているという話だ。
熟れた自分の熱は、あることを切っ掛けにして堰を切って溢れだした。
神さまも知らない背徳行為。変態じみた行動は手に入れることのできない自分には似合いであると思っている。

 ねっとりと糸を引いた液体を指に絡める。上下しては止め、上下しては止め。
自分を焦らすことは、快楽につながると知っている。もはや達くのは時間の問題。既に波は足元まで来ている。

今日のメインディッシュは、彼から偶然借りることに成功したハンカチ。例に漏れずそれから香るのは彼の香り。どこか甘い気がするそれに顔を埋めて深く息を吸い込む。

―――たまらない。

動かす手はそのままにして、その体を妄想する。そういうストックは自分はいっぱい持っていて、そう言うのを考えるのは自分の部屋の中でならば、罪に問われない。なぜなら、神が作りだす領域外だからだ。知られなければ、どんなことに及んでも許される。だってここには彼は居ないのだから。


ぐちゅぐちゅ、と手を動かしながら目を瞑ると、浮かび上がるのは白い肌。
しなやかな四肢が自分に向けて開かれる。自分に向かって腕を伸ばす彼の、なんと妖艶なこと。
彼の無防備な首筋にかじりついて、痕を残す。
乱れる、彼の息が自分を懊悩させる。


焦がれる衝動。夜な夜な沸き起こる性衝動に辟易しつつも、流されてしまう。三大欲求とはよく言ったものだ。
死と直面する毎日を過ごす自分の、これは遺伝子レベルでの生存本能なのだと最初は思っていたのだが、その相手が彼ではその理論も通用しない。要は、自分が求めた相手が彼だったというわけだ。
この世の中で最上の、神への供物に、
自分は恋情を抱いたのだ。
もう自分では対処できない域まで来てしまった。彼の全てが僕の全てを拘束し、離さない。
自分で夢想する彼はどこまでも従順な玩具だ。それを教え込んだのは自分で有ればいいと切に願う。

裏筋を擦って、上下にしごきあげる。彼の手だと考えながらする行為は愚か過ぎる。
 しかし、第三の欲求を押さえつける術を自分は持ちえないのである。・・・こう見えても僕、高校生ですしね。

 上り詰めて自身が吐き出す白いドロッとした体液はいつも僕を覚醒させる。毎度毎度馬鹿なことをしているという自覚はあるが、どうしても止められない。
まぶたに残る彼の残像、耳に残る彼の声、彼の香りのする・・・ハンカチ。
 僕はどうやら彼と言う毒に侵されてしまったようだ。中毒患者のように彼を、自分に唯一許されたこの部屋で求める。そして彼から離れようとする分だけ苦しくなるのだ。


「どうか、神様。僕に彼を下さい。」

どうすればこの苦しみから逃げられるのだろう。


END





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『変態の変態における変態のための遊び方』


古泉は何かしらあやしげなものを持ち出して来て、なんだか世界イケメンコンテストで優勝できそうな笑顔でもってそれを俺につき出した。

紫だとかピンクだとかそんな色をしたそれは、口に出すのもおぞましい形をしている。
そもそも、何故そんなものがこの家にあるのか、だとか、それは一体どういう経緯で買ったのか、とか、お前本当は18歳以上なんじゃないのか、とか、色々と罵詈雑言をまくしたてて、でもやっぱり勘弁してほしい。というか、それ、何に使う気だ?
俺は最期の望みを古泉の理性に託して、ひきつらせた笑顔を奴に見せながら、奴に問うてみた。

古泉曰く、
「あなたが考えているパターンの最悪のものが正解ですよ。」

ヴーンという携帯電話の振動音とは程遠い、これでもかと言うくらい、18禁の恥ずかしい音をたててうごめく物から。俺は目をそらそうと、意識をそらそうと努力を繰り返した。
 しかしそれは完全無敵な古泉一樹のビューティスマイルに因ってあえなく無駄な努力に終わってしまったのだが。

・・・この男につくりかえられた俺の体はいともた易く、そうなるように仕向けた男の手管に陥落した。

何億光年の星々が狼に食われそうな俺を…っていうかおいしくいただかれた俺を見下ろしている。

「―――・・・いいんでしょう?はっきりとそうおっしゃったらいいじゃないですか。ほら、言ってみて?」

この状態でそれが言える奴がいたらぜひとも教えてもらいたいものだ。
ぶっちゃけた話、息をするのも大変すぎる。この男、ほんとは鬼畜なんじゃないのか?それか、ストレスがたまってるとか。あーしんどい。

「まあ、きかなくても解っていますけれど。だってあなた、僕の体にメロメロですものね。」

いっぺん死んで来い。

「――・・・そろそろ、僕が欲しくなってきたんじゃないですか?」

――・・・・わかってるならさっさとしろ!!つーか、欲望でぎらついた目で見るなよ。お前の方が欲しいんじゃねーか。

 俺は奴の首に手を回して奴の体を催促した。
こんな道具にいじめられるくらいなら同じいじめられるでも、こいつにいじめられた方が幾分かはましだからな。

「まったく素直なのかそうでないのか。」

お前もな。

古泉は困ったように笑うと、胎内で暴れまわっていた物をひきぬいた。何とも情けない格好になってしまったな。
「―――んんっ」
「――すごく、好きです、その体勢。」
「うっさい。入れるんな――あっ」

早く入れろ、という言葉は大きな快楽に持っていかれた。



『変態の変態における変態のための遊び方』


僕もだいぶいってますけど、貴方も大概ですよね。
―――煩い!



END
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