田岡茂一殺人事件


相田彦一の自白で事件は一気に解決した。

供述は以下の通りである。






5年前、田岡のインタビュー記事を雑誌で読み
深い感銘を受けた自分は高校を中退し
田岡の元でタレントになる事を決意して単身上京
晴れて田岡芸能プロダクションの門下生となった。

だが、田岡が自分に求めたものはタレントの相田ではなく
秘書としての相田だった。

確かに今の自分にはタレントの資質がない事はよくわかっていたが、夢はずっと諦め切れなかった。

田岡の秘書をしながら
いつか必ず日本を代表するタレントになれると信じていた。

このところずっとスカウト活動が上手く行かず、暴力団員を使ってまでスカウトを続ける最近の田岡を理解出来なくなっていた自分は
あの日、社長宅を訪れ「強引なスカウトをするくらいならもう一度自分をタレントとして育て直して欲しい」と懇願した。

だが全く取り合ってもらえず、それどころか今の仕事すら満足に出来ない者が分不相応な生意気な口をきくなと烈しく詰られ、叱責された。

それでも引き下がらなかった自分に最後は平手打ちを食らわせ
「気に入らないなら辞めろ」と背を向けたという。

カッとなった自分は思わずテーブルの上にあった硝子の灰皿を掴み、田岡に振り下ろした。

気付いたら彼が頭から血を流して床に倒れていて、愕然とした。

どうしていいか分からず、その後しばらく立ち尽くしていたのだが
慌てて灰皿の指紋を拭き取ると、警察に嘘の通報したのだと語った。






「殺すつもりはなかった」と全てを言い終えた相田が机にうつ伏せて呻いた。

すると、それまで黙って調書を取っていた赤木が静かに席を立ち上がり、彼の傍らに立った。

 「高頭社長が言っていました
 以前、田岡社長と飲んだ時に彼は、いずれは田岡芸能プロダクションは彦一に譲ろうと思っている
 子供のいない自分にとって、彦一は息子同然だから
 今から厳しく仕込んでおくんだ、と話したそうですよ
 それまでは例えどんな事をしてでもプロダクションは存続させる、と」

 「そ、そないな事わぃは ……わぃは一度も」

彼の頭に田岡と過ごした5年間が走馬灯のように駆け抜ける。

相田は机を叩いて号泣した。

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