田岡茂一殺人事件
事件発生から2日目、事態は急展開した。
「マジかよっ!!」
福田の張り込みをしていた宮城が、容疑者確保の知らせを聞いて急いで署に戻って来た。
取調室と隣接する傍聴部屋に飛び込み、仕掛け鏡から覗き込むと意外な人物が安西と対峙している。
「え?あいつって確か」
座っていたのは第一発見者の相田彦一だった。
「なんで、わぃが?
納得いきまへん
わぃは第一発見者です
それに、だいたいなんでわぃが社長はんを殺さなあかんのですか!!
社長はんはわぃの恩人です」
相田は興奮しながら、また首の後ろを掻き毟る。
「相田さん、それが証拠なんです」
安西は笑顔を絶やさぬまま静かにそう言った。
「はぁ?」
「あなたは田岡社長を迎えに行き、倒れている社長を発見し慌てて通報したと証言しましたね?
それに間違いはありませんか?」
相田は用心深く頷く。
「わかりました…
流川くん、例の物を相田さんに見せて差し上げて下さい」
安西の横に立っていた流川が机の上に小さな硝子のケースを置いた。
「中になにが入っているか分かりますか?」
安西に言われ、相田は恐る恐るケースに顔を近付ける。
「……蚊、ですか?」
「ホーホホホホホ、正解です」
「……これが、何か?」
「この蚊が吸った血液があなたのものと一致しました」
「ッッ!!」
「これは事件当日、この流川くんが現場で捕まえたものです
あまりにたくさんの血を吸い過ぎて上手く飛べなくなっていたそうですよ
という事は、蚊に刺されているのも気付かないほどあなたは何かに集中して
長い時間あの部屋にいた、……違いますか?
調べれば必ずあなたの身体のどこかに蚊に刺された跡が見つかるはずです」
相田は首の後ろの絆創膏を押さえると、その顔色は見る見る蒼白に変わって行った。
「念の為、大阪にいらっしゃるあなたのお姉様に確認を取りました
相田さん、あなたは小さい頃から肌が弱く
特に虫に刺されるといつまでも強い痒みが残るそうですね
すぐに掻き毟って化膿してしまうので大変だったと仰ってましたよ」
相田はそこまで聞くとついに観念したのか深く頭を垂れた。
そして安西が「何故、田岡社長の命を奪ったのか」と問い質すとウワァーッと泣き崩れてしまった。
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