田岡茂一殺人事件
電話のコール音が和やかな昼下りを破る。
ここではよくある光景だ。
暇そうに鼻の穴をほじっていた桜木が飛び付いた。
「はい、捜査一課!!
……なにぃ?殺しぃ!?」
全員の顔に緊張が走る。
6人の刑事はすぐさま現場に急行した。
事件が起きたのは閑静な高台にある高級住宅。
被害者はここに一人住まいの田岡芸能プロダクション社長
田岡茂一(42歳)
居間で後ろから鈍器の様な物で数回頭を殴られ、うつ伏せに倒れていた所を
打ち合わせの為に迎えに来た秘書の相田彦一が発見、通報した。
真っ青な顔で震えている小柄な男に赤木が近づく。
「あなたが第一発見者の相田さんですか?」
相田はショックを隠せない様子で頷き
それが癖なのか、しきりに首の後ろをボリボリ掻き毟っていた。
「もう一度、発見当時の状況をお聞かせ願いませんか?」
「わ、わぃはホンマに何も…
ただ、いつものように社長はんをお迎えに上がっただけで…」
「ん?相田さん、ご出身は関西ですか?」
「え?ええ、大阪です」
「ほほぅ…」
赤木は2、3度頷くと手帳に何か書き込んだ。
その少し横では鑑識課の安田が現場に残された様々な証拠品を押収している。
「ヤス、凶器はそれか?」
宮城の問いかけに「たぶんね」と安田は大きな硝子の灰皿を持ち上げた。
部屋の隅では厳しい表情の三井が携帯電話で誰かに指示を出している。
現場にはまだ不慣れな桜木と流川にはベテランの木暮が付いた。
「グレさん、これってやっぱ他殺ですよね?」
桜木の声が少し上ずっている。
「どー見ても他殺だろ
どあほう」
「んだとルカワァ
えらそーに!!」
「まぁまぁ2人とも」
木暮が胸ぐらを掴み合う新人の仲裁をしていると
バタバタと誰かが走り込んで来た。
「いったいどーしたんだ
彦一ッッ!!!」
「魚住さん!!仙道さん!!
た、大変な事になってしまいましたわ」
2人を見た相田は大声で泣き出してしまう。
「あいつら、テレビで観た事あんなぁ」
桜木が言うと流川も「フム」と頷いた。
「両方とも、田岡プロのタレントさんだよ
大きい方はビッグジュン
もう1人は仙道アキラだ」
「ほぅ、詳しいなグレさん」
感心する桜木の横で流川の目が何かを追っている。
「あ……、蚊がいる」
そう言うなり彼はスーツのポケットから小さなビニール袋を取り出し、それを簡単に生け捕りにした。
.