田岡茂一殺人事件
僅かに潮の香りが混じった風が、開けっ放しの窓に下がるブラインドを揺らす。
相模湾から程近いここ片瀬湘北署。
刑事たちが曲者揃いの捜査一課は別名『ヘソ曲がり課』と呼ばれている。
柱に掛かる時計は午後の1時を少し過ぎたところで
その曲者達がそれぞれの仕事に追われいた。
と言っても実際に忙しくしているのは
先日、駅前ビルで発生した強盗未遂事件の事後報告処理をしている主任のゴリさんこと、赤木剛憲と
彼と長年コンビを組んでいるグレさんこと、木暮公延の2人だけ。
土地柄、事件発生率は高く
過去、凶悪事件と呼ばれるものが何度か起きていた。
所轄の刑事たちは若干性格や素行に問題があるとはいえ、それらに対処可能な優秀且つ荒っぽい面子が集められている。
赤木、木暮の他に刑事は
優れた反射神経と抜群の機動力を持つ宮城リョータ。
正義感と諦めの悪さは署内随一だが経歴不詳で何故か裏社会に顔が利く三井寿。
自席で居眠りをしている流川楓と
その隣で流川の顔にマジックインキでイタズラ描きをしようとしている桜木花道は
この春に配属されたばかりの新人刑事だ。
余談だが、桜木は同じ署内の交通課にいる赤木の妹、晴子に恋心を抱いている。
そしてこれら6人を取り仕切っているのは
数年前まで県警本部で白髪鬼として恐れられていた、ボスこと、安西光義だ。
ある事件の責任を取らされ、この片瀬湘北署に左遷されて来たと専らの噂だが
現在の安西は白髪鬼の片鱗すら伺えない、思慮深く穏やかな人物である。
その安西にお茶を出しているのが捜査一課、紅一点の彩子。
彼女は刑事ではなく、課内雑務全般を担当している。
頭が良くて美人で、その上スタイルも抜群の彩子は男子職員の憧れの的だ。
そこへ、鑑識課の安田靖春がやって来た。
同期の宮城に頼まれた鑑定結果を持って来たのだ。
安田が彩子にちょっかいを掛けると、宮城は途端に不機嫌になる。
宮城は彩子に惚れていた。
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