ボクの好きな人
予鈴が昼休みの終わりを告げた。
僕はそっと立ち上がり
流川くんの傍を離れる。
本当は起こしてあげるべきなんだろうけど
僕にはまだそこまで彼に踏み込む勇気がない。
眠りを妨げて嫌われてしまう事が怖かった。
教室へ戻ろうと廊下を歩いていると
突然、後ろから頭を押さえつけられた。
髪を鷲掴みにされ、回れ右を強いられる。
抵抗しても全く無駄だった。
「てめーか?
最近キツネ男の周りをうろついてるヤローってのはぁ」
赤い髪の桜木花道くんが
ジロリと見下ろす。
声も出せない程恐ろしかったけど、心のどこかで
僕はワクワクしていた。
だって、流川くんと同じくらい有名な桜木くんに声を掛けてもらえたんだから!!
「あんなキツネヤローに張り付いてたって
何の得にもならねーぞ
なにが目的だ、あ~?」
桜木くんの声が廊下に響き渡る。
トラブルに巻き込まれたくない生徒達はそそくさと離れて行った。
「も、目的って、そんな
……ただ、……僕は」
「あ゙~?なんだ」
「た、…ただ、僕は
流川くんと友達になれたらいいな……って」
「………は~ぁ?」
恐々見上げると桜木くんが唖然としている。
「おまえ、気は確かか?
やめろやめろ
あんな性格わりぃヤツ他にいねーぞ」
「そ、そんな事ないよ!!
流川くんは、……すごく優しい人だっ」
むきになって言い返す僕に桜木くんは大爆笑した。
「あのキツネが優しい?
てめー、この天才を笑い死にさせるつもりか!!」
涙を流しながら僕の首を締めあげる。
「く、…くる、しぃ、よ
や、めて…、さくら…」
桜木くんはふざけてるつもりらしいけど
僕の呼吸は本当に止まってしまいそうだ。
意識が薄れ掛けた時、遠くで声がした。
「やめろ、……どあほう」
桜木くんの手が離れた。
途端に呼吸が楽になる。
僕はその場に蹲り、激しく咳こんだ。
「なんだと?ルカワァ」
「そいつにチョッカイ出すんじゃねー」
……え?
胸がドキンとした。
僕は、しゃがんだまま自分の耳を疑う。
「俺がこのモヤシヤローをどうしよーが、てめーにゃ関係ねーだろっ」
桜木くんが僕の学ランの襟首を掴んで引き上げた。
「………モヤシじゃねー」
「はぁ?ルカワ、てめー なに言ってやがる」
「そいつはタケシだ
……甲斐原 猛」
「流川くんっっ!?」
ちゃんと知っていてくれたんだね、僕の名前……
鼻の奥がツンと痛くなった。
「あ~~あ
なんか、シラケちまったな」
桜木くんはドサッと僕を投げ捨てると、踵を返して行ってしまった。
でも僕は何だかすごく嬉しくて、すぐに立ち上がれない。
「いつまでそーしている
……行くぞ」
頭の上で流川くんの声がした。
「あ、……ありがとう
また、助けてもらった」
僕は腰を上げながらお礼を言った。
つい、にやけてしまう。
「………別に」
流川くんはクールに答えた後
ほんの瞬間、僕の方を見て続けた。
「次からはちゃんと起こせ……いいな」
そして、大きな欠伸を1つして10組の教室に入って行った。
僕は急に顔が熱くなって思わず両手で頬を押さえた。
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