ボクの好きな人


眠っている流川くんに自分の胸の内を暴露して以来
クラス中から無視されているという意識が更に強くなった気がする。



僕はその日、朝から理由もなく惨めな気持ちに苛まれていた。



あとホンの少しの刺激が加われば間違いなく爆発した。



あれ以来、昼休みの屋上には近付いていない。



所詮、道端の小さな石ころの気持ちが光り輝くダイヤモンドに届くわけがなかったのだ。



外の空気を吸おうと体育館の脇を通りかかると
開け放たれた扉からバスケットボールが1つ転がっているのが見えた。



誰かが仕舞い忘れたのだろうか。



僕は衝動的に館内に足を踏み入れると、そのボールを拾い上げた。



実際に触ると、それは思っていたよりずっと大きく感じた。



突然、流川くんの顔が浮かんで僕はボールを床に叩きつける。



別に彼が憎かったわけじゃない。



ただ、どうしてもそうせずにはいられなかった。



バウンドする音が虚しく天井に響く。



ボールは何度か弾んだあと、コートの端に転がり止まった。



行き場のない怒りと諦めが渦巻いていく。



固く拳を握り俯く僕は人が近付く気配に全く気付かなかった。



 「…なにしてる」



その声に無条件に僕の身体が反応した。



しどろもどろになる僕の横を流川くんは平然と通り過ぎる。



そして転がったボールを拾い上げ、人差し指でクルクルと回した。



 「オメー、バスケ出来んのか」



僕は慌てて首を振った。



 「た、体育の授業でやった程度で




言い終わらないうちに、もの凄いスピードでボールが飛んで来た。



そのボールは僕がミスしようもないほど正確な位置に投げ込まれる。



受け止めた瞬間、手のひらから肩までジーィンと痺れた。



 「リターン!!!」

 「へ?」

 「リターンだ、戻せ!!!」



言われるまま僕は痺れた右手で投げ返したが
ヘロヘロと情けない放物線を描いたボールは到底流川くんには届かず
ポトリと落ちて弱々しく弾み転がった。



 「あっ、………ゴメン」



でも流川くんは何事もなかったように片手でボールを掴み上げると
いきなりドリブルでゴールに向かって走り出しリングにボールを叩き込んだ。



豪快な音がシンとした館内に響き渡る。



 「すごい……」



初めて見るダンクシュートに僕は我を忘れた。


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