ボクの好きな人
[エピローグ]
IH出場を逃した湘北バスケ部の夏は終わった。
だがその直後、3年生部員全員が「引退せず」という意志を顕にした。
もちろんそれは冬の選抜に夢を繋ぐという意味だ。
これで終わりじゃない!!
僕はこのチームの一員である事を心から誇らしく思う。
今日は1学期最後の日。
そして、流川くんが部活に参加する最後の日だ。
安西先生の提案で、これから紅白戦が始まる。
コートの脇で桑田くんと僕は
彩子さんと一緒に試合を見守った。
バスケを続けると決めてから不思議なほど毎日が清々しい。
もうこれがこの体育館で見る最後の流川くんのプレイなんだと思うと目が離せなかった。
自分を見失いかけた屋上でキミと会っていなかったら
今、僕は100%ここにいないだろう。
短かったけれど、流川くんと過ごした日々は
今まで生きて来た中で一番大切な時間だ。
たとえ一方通行でも構わない。
僕はキミが大好きだった。
「甲斐原くんも
試合に出てみますか?」
いつの間にか隣に安西先生が立っていた。
見れば、既に桑田くんが佐々岡くんと交替している。
「え?……でも
僕なんか、まだ…」
「何事も経験ですよ?」
先生は目を細めて笑った。
「……はいっ」
僕は腹を決めて石井くんと入れ替わる。
コートに入った途端、後ろから怒鳴られた。
「ボサっとしてんなっ
どあほう!!」
そっか、僕、流川くんと同じチームなんだ!!
別の意味で緊張が走った。
「甲斐原、マジで行くぜ
覚悟しとけ」
敵チームの三井先輩がニヤリとしながら横を走り抜ける。
「カイワレくん
この天才が練習の成果を見てやろう
遠慮なくかかって来なさい」
同じく敵チームの桜木くんが胸を叩く。
よしっ、頑張るぞ!!
僕はパチンと両手で顔を叩くと、とにかく走った。
コートの中を右に左に、前に後ろに、ボールを追ってひたすら走り続ける。
そんな初心者丸出しの動きが、一瞬僕を完全なフリーにした。
「甲斐原っ!!」
突然、流川くんのパスが僕に通った。
それはやっぱりあの時と同じ、僕がミスしようもないほど正確な場所で
受け止めた瞬間、手のひらから肩までジ~ィンと痺れた。
すぐに僕の前に桜木くんが立ちはだかる。
「リターン!!!」
リングに向かって走る流川くんが叫んだ。
同じだ……
静まり返った体育館に今と同じ声が響いた事を思い出す。
あの時は届かなかった僕のパス、今度は絶対に届かせる!!
咄嗟に身を低くし、襲い掛かる桜木くんを躱すと
軸足でターンしてドリブルで抜いた。
「流川くんっ!!!」
僕の放ったパスは真っ直ぐに流川くんの手の中に納まった。
そして、あっという間にレイアップシュートを決める。
数え切れないほど何度も頭の中で描いて来た光景が
今、現実のものになった。
本当の僕の一歩は、ここから始まるんだと思った。
試合は僕らのチームが勝った。
旅立ちの良いはなむけになったかな?
僕は汗を拭う流川くんに近づいた。
名前を呼ぶと、視線だけこちらに向ける。
「…僕、今度はちゃんと返せたね
ちゃんと流川くんまで届いたね」
「……あぁ」
「ありがとう…
今日の事、一生忘れない
もう、流川くんに……
会えなくなっても」
言いながら、下の目蓋に涙が溜まって来るのがわかった。
「おまえ、なんか勘違いしてねーか、この前から」
「…え?」
流川くんは少し困ったようにため息をついて言った。
「夏休みだけだぞ?」
「…………」
「…………」
「ほんと…?」
「……あぁ」
なんて間抜けな勘違い!!
「…………る
流川くんっっ!!!!!」
僕は思わず流川くんに飛び付いた。
その声に驚いて走り寄って来た桜木くんと三井先輩が
僕を引き離そうと躍起になってるけど…
…エヘッ、無駄かもよ?
だって、流川くんも僕の事ギュッと抱き締めてくれてるから…
ボクの好きな人―――
1年10組 流川 楓
湘北バスケ部のスーパールーキーです
[完]
IH出場を逃した湘北バスケ部の夏は終わった。
だがその直後、3年生部員全員が「引退せず」という意志を顕にした。
もちろんそれは冬の選抜に夢を繋ぐという意味だ。
これで終わりじゃない!!
僕はこのチームの一員である事を心から誇らしく思う。
今日は1学期最後の日。
そして、流川くんが部活に参加する最後の日だ。
安西先生の提案で、これから紅白戦が始まる。
コートの脇で桑田くんと僕は
彩子さんと一緒に試合を見守った。
バスケを続けると決めてから不思議なほど毎日が清々しい。
もうこれがこの体育館で見る最後の流川くんのプレイなんだと思うと目が離せなかった。
自分を見失いかけた屋上でキミと会っていなかったら
今、僕は100%ここにいないだろう。
短かったけれど、流川くんと過ごした日々は
今まで生きて来た中で一番大切な時間だ。
たとえ一方通行でも構わない。
僕はキミが大好きだった。
「甲斐原くんも
試合に出てみますか?」
いつの間にか隣に安西先生が立っていた。
見れば、既に桑田くんが佐々岡くんと交替している。
「え?……でも
僕なんか、まだ…」
「何事も経験ですよ?」
先生は目を細めて笑った。
「……はいっ」
僕は腹を決めて石井くんと入れ替わる。
コートに入った途端、後ろから怒鳴られた。
「ボサっとしてんなっ
どあほう!!」
そっか、僕、流川くんと同じチームなんだ!!
別の意味で緊張が走った。
「甲斐原、マジで行くぜ
覚悟しとけ」
敵チームの三井先輩がニヤリとしながら横を走り抜ける。
「カイワレくん
この天才が練習の成果を見てやろう
遠慮なくかかって来なさい」
同じく敵チームの桜木くんが胸を叩く。
よしっ、頑張るぞ!!
僕はパチンと両手で顔を叩くと、とにかく走った。
コートの中を右に左に、前に後ろに、ボールを追ってひたすら走り続ける。
そんな初心者丸出しの動きが、一瞬僕を完全なフリーにした。
「甲斐原っ!!」
突然、流川くんのパスが僕に通った。
それはやっぱりあの時と同じ、僕がミスしようもないほど正確な場所で
受け止めた瞬間、手のひらから肩までジ~ィンと痺れた。
すぐに僕の前に桜木くんが立ちはだかる。
「リターン!!!」
リングに向かって走る流川くんが叫んだ。
同じだ……
静まり返った体育館に今と同じ声が響いた事を思い出す。
あの時は届かなかった僕のパス、今度は絶対に届かせる!!
咄嗟に身を低くし、襲い掛かる桜木くんを躱すと
軸足でターンしてドリブルで抜いた。
「流川くんっ!!!」
僕の放ったパスは真っ直ぐに流川くんの手の中に納まった。
そして、あっという間にレイアップシュートを決める。
数え切れないほど何度も頭の中で描いて来た光景が
今、現実のものになった。
本当の僕の一歩は、ここから始まるんだと思った。
試合は僕らのチームが勝った。
旅立ちの良いはなむけになったかな?
僕は汗を拭う流川くんに近づいた。
名前を呼ぶと、視線だけこちらに向ける。
「…僕、今度はちゃんと返せたね
ちゃんと流川くんまで届いたね」
「……あぁ」
「ありがとう…
今日の事、一生忘れない
もう、流川くんに……
会えなくなっても」
言いながら、下の目蓋に涙が溜まって来るのがわかった。
「おまえ、なんか勘違いしてねーか、この前から」
「…え?」
流川くんは少し困ったようにため息をついて言った。
「夏休みだけだぞ?」
「…………」
「…………」
「ほんと…?」
「……あぁ」
なんて間抜けな勘違い!!
「…………る
流川くんっっ!!!!!」
僕は思わず流川くんに飛び付いた。
その声に驚いて走り寄って来た桜木くんと三井先輩が
僕を引き離そうと躍起になってるけど…
…エヘッ、無駄かもよ?
だって、流川くんも僕の事ギュッと抱き締めてくれてるから…
ボクの好きな人―――
1年10組 流川 楓
湘北バスケ部のスーパールーキーです
[完]
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