ボクの好きな人
あれは、流川くんなりの励ましだったんだ……
日を追う毎に僕はそう思うようになっている。
その証拠に流川くんは以前と何ら変わらない態度で僕と接していた。
一瞬でも如何わしい事を考えた僕の方がどうかしていたんだ。
このままどうにかされてもいい、なんて…
やっぱり僕、
流川くんの事…
「おい、甲斐原」
不意に名前を呼ばれて思考が停止した。
振り返ると三井先輩が立っている。
「ど、どーしたんですか?昼休みに1年の教室なんかに…」
「おぉ、ちょっとお前に用事があってな」
「えっ!?
ぼ、僕に?」
驚く僕に構う事なく、三井先輩は話を続ける。
「今日、部活終わったら付き合え」
「へ…?」
「心配すんな
ちょっとした課外授業みてぇなもんだ」
「課外、…授業?」
「あ、それとくれぐれも桜木と流川には見つからねぇよーに来いよ?
アイツら、うるせぇから」
「え、えっと…」
「いーから黙って言われたとーりにしろっ
……わかったな?」
「は、はいぃぃぃ!!!」
「よぉし、いい返事だ
じゃ、校門とこでな」
直立不動した僕の髪をクシャクシャにすると三井先輩はクールに去って行った。
突然の急展開に僕の頭から流川くんはすっかり消えていた。
居残り練習をする流川くんと桜木くんに見つからずに帰るのは至難の業だったが
どうにか脱出に成功した僕は校門に急いだ。
既に遠目からでも三井先輩の姿が確認出来る。
まずいっ!!!
更に全速力で走った。
「す、すみません!!!
お待たせしましたっ
ハァハァハァ……」
小脇にカバンを抱え、壁に寄り掛かった三井先輩の視線が注意深く周囲を探る。
「桜木達にはバレてねぇな?」
「はい、……たぶん」
「よし、じゃ行くか」
歩き出した三井先輩の後ろを僕は荒い呼吸のまま付いて行った。
連れて行かれたのは学校の近くの海浜公園だった。
すぐ目の前には相模湾が広がっている。
ここにはバスケのゴールポストが1つあって、下校時に時々桜木くんや軍団のみんなとバスケの真似事をして遊んだりしていた。
だから僕はすぐに3Pシュートの練習を見てくれるのだと思った。
でも三井先輩はズボンのポケットに手を突っ込んだまま
ジッと海を見ている。
それはそれで滅茶苦茶カッコいいんだけど、一向に何かする気配がない。
さすがに不安になって三井先輩に話しかけようとした時、物凄い爆音が近付いて来て僕らの横に止まった。
「遅ぇよ!!」
三井先輩が親しげに走り寄る先には、大型のオートバイにまたがった筋骨隆々の男がいた。
えっ…!?
し、知り合いなのぉぉお!?
「……なんだ三井
用事ってのは…」
低くて聞き取りづらい声。
今までの人生で一度も出会った事のないタイプの男に
僕は思わず後退りした。
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