ボクの好きな人
翌日の昼休み
ほんの少しの期待を込めて僕は屋上に上がった。
たった一言の会話が思いの外、僕の中で大きな波紋になった。
それは、校内一の人気者でありながら常に1人で行動している流川楓という人間の中に
自分と似た何かを感じたからかもしれない。
また会えたらいいな…
鉄の扉をゆっくり開けると目当ての姿がこちらに背を向け、横になっていた。
ドキンと胸が跳ねる。
僕は息を整えながらそっと彼に近付くと
膝を抱えて隣にしゃがみ込んだ。
昨日と同じ軽い寝息を立てている。
起こすと大変な事になると噂で聞いていたが
それでも僕は大きな背中に向かって話し掛けた。
「ねぇ、……流川くん」
ゴクリと唾を飲み込み、様子を伺うが寝息のリズムは全く変わらない。
案外、深い眠りなのかもしれない。
僕は少し安心して、そのまま独り言のように話し続けた。
「僕、昨日キミが声掛けてくれなかったら
今、ここに居なかったのかな?」
やはり彼が目覚める気配はない。
「あのね……
時々僕、自分が見えなくなっちゃうんだ
いったい何のために毎日こうして生きてるんだか分からなくなる
急に僕が居なくなっても誰も気付かないんじゃないかって…
そんな事、みんなにとったらどうでもいい事なんじゃないかって…」
こんな事を人に話すなんて自分でも驚いたけど
流川くんなら…、
僕の心の闇に気付いてくれた流川くんなら解ってくれるかもしれない。
僕は夢中で苦しみや哀しみや憤りを彼の背中にぶつけた。
「だから正直いうと
キミみたいに生きてる人間がすごく羨ましいんだ
キミだっていつも1人なのに、どうしていつもライトが当たってるの?
僕もキミみたいに生きてみたいよ…
ねぇ…教えてくれよ
どうしたらキミみたいになれるの?…………フフッ」
急に馬鹿馬鹿しくなって、周りの景色が滲んだ。
まるで壁に向かって喋り掛けてるみたいで、僕は苦笑する。
顔を上に向けると涙が耳に伝って流れた。
雲1つない真っ青な空が余計に孤独にさせる。
とんだ勘違いをしていた。
知らず知らずに僕は、流川くんの眩しさに救いを求めていたのかもしれない。
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