ボクの好きな人
「おー、あそこか」
桜木くんが校舎に隣接する体育館を指差すと
「そっちじゃないわ
ここのバスケ部は専用体育館を持ってるのよ」
と、彩子さんが言った。
「ぬっ!?専用だと?」
「生意気だな」
「チッ、さすがお金持ちの私立校だぜ」
「…フン」
みんな、すぐに反応する。
「それがこの学校のバスケ部に対する評価って事だ」
そういう赤木キャプテンもちょっぴり悔しそうだ。
過去16年間ずっとインターハイに出場しているっていうのは
成る程そーゆぅ事なのか、と僕は納得した。
敷地の一番奥に専用体育館はあった。
中に入ると高い天井に設置されたライトがコートを照らしている。
スタジアムばりの観戦席がグルリと四方を囲み、既にその半分は埋まっていた。
「これで本当に練習試合なのか!?」
三井先輩が素直に驚く。
「気に入らねーな…
な?花道」
「おーよ、リョーちん‼︎
ちょっと暴れてやるか」
腕を回しながらニヤリと笑い合う2人の頭に赤木キャプテンの拳骨が落ちた。
「くだらん事を言ってないで早く席に着かんか!!」
涙目で呻く2人。
その間に僕の左右を素早く三井先輩と流川くんが固めた。
緊張する!!
「あ―っ ずりぃぞぉ
ミッチー ルカワっ!!!
カイワレくんの隣はオレが座るって決まってんだぞっ」
桜木くんが喚き散らす。
「さぁな…」
「フン、…知るか」
「ちっくしょォォォオ!!!
ズルイズルイズルイズルイズルイ
……ガコンッ!!
「いーかげんにせんか!!!
馬鹿モノがっ」
もう一度、桜木くんの頭に拳骨が落ちた。
「イッ……テェ――ッッ」
「バ~~~カ」
「…どあほう」
桜木くんは頭を撫でながらシブシブ僕の真後ろの席に座る。
「ダンナ
なんでこんな奴ら連れて来たんです?」
「宮城、お前もだ」
「はぁ!?
そりゃねーや…」
シュンとした宮城先輩を横目に彩子さんがコートを指差した。
「見てっ
海南大附属の選手がウォーミングアップを始めたわ」
白地に紫と黄色のライン。
胸に同じ配色で「KAINAN」とプリントされたユニフォームを着た選手達がハンドリングやシュートの練習をしている。
そして観戦席にはベンチ入り出来なかった大勢のバスケ部員が「常勝」の横断幕を掲げ声援を送っていた。
海南大附属の選手層の厚さが一目で分かる。
「おぃ、ゴリ
なんでチームに大人がいるんだ」
桜木くんが指差す方を見ると確かに高校生とは思えない色の浅黒い選手がいる。
「たわけが
あれは主将の牧だ
正真正銘俺と同い年だ」
「なるほど…」
全員、妙に納得する。
「あの6番
いいシュート打つな…」
今度は三井先輩。
「2年の神 宗一郎よ
正確無比なスリーポイントシュートの名手と言われてるわ」
彩子さんが答えた。
「へぇ、名手ねぇ…」
三井先輩は不敵に笑う。
やがて試合が始まると、みんな海南大附属のプレイに釘付けになった。
もちろん僕もだ。
これが常勝海南のプレイ…
目まぐるしく入れ替わる攻防の中、海南側に無駄な動きは一切ない。
点差はあっという間に二桁になり、海南リードで前半が終わった。
後半、再びコートに選手達が散ると、赤木キャプテンが僕の名を呼ぶ。
「いいか、甲斐原
あの海南の15番
奴の動きをよく見るんだ
今日はその為に来たんだからな」
「は、…はいっ」
15番の選手…?
………あっ!!!
一瞬、自分がコートに立っているのかと錯覚する程、
その選手の背格好は僕と似ていた。
「海南のユニフォームを取った男、宮益義範
彼がそれだけの実力を持ってるって事よ」
彩子さんが続けた。
「宮益、さん…」
「そうだ
シュートだけなら神を除けばおそらく、宮益のスリーポイントシュートはチームNo.1だろう」
「チーム、…No.1」
思わず赤木キャプテンの言葉を繰り返す。
なんて良い響きだ。
今、自分が目で追っている自分とよく似た体格の選手が連続16年間インターハイ出場チームのNo.1……?
ちょっと信じがたい気持ちでいると、宮益選手にボールが渡った。
彼は落ち着いてラインを跨ぐと、素早いモーションから見事なスリーポイントシュートを決める。
途端に館内から歓声が沸き上がった。
すごいっ!!!
鳥肌がたつ。
もう一度見たい!!!
そして、もっとこの目にあの人のフォームを焼き付けたい!!!
頭の中で宮益選手と僕がシンクロする。
そうか…
これが赤木キャプテンの言っていたイメージするって事なのか!!!
全身に歓びの緊張が走った。
僕だってなれるかもしれない。
湘北バスケ部のスタメンに…
流川くんや桜木くんと一緒にいつかコートを走り回れる日が来るかもしれないんだ。
僕はお腹の底から熱い思いが湧き上がって来るのを感じた。
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