ボクの好きな人
三井先輩に3Pシュートを教わって以来、僕は毎朝まだ誰も居ない体育館でボールを打ち続けている。
部活の後じゃ、流川くんや他の人達の邪魔になると思ったんだ。
でも未だに、ただの一度もシュートが決まった事はない。
道は長そうだ。
今朝も、練習をしていると後ろから声が掛かった。
野太いその声の主は赤木キャプテン。
全身に緊張が走る。
キャプテンと2人きりなんて初めてだ!!
「ちゅ、…ちゅーっす」
慌てて頭を下げた。
「最近、頑張ってるな
いいから続けろ」
「は、はいっ!!」
キャプテンの圧倒的な存在感に身体中ガチガチだ。
毛穴という毛穴から汗が噴き出して来る。
僕はまるでロボットのような動きでボールを放った。
案の定、ヘロヘロの放物線を描きながらリングの遥か手前でポトリと落ちる。
僕は反射的にキャプテンの拳に備えて身構えた。
「もう一度やってみろ」
思いの外、穏やかな声。
おかげでほんの少し身体の力が抜ける。
深呼吸して今度は気持ちを集中させ、ボールを放った。
ガコンッッ
やっぱりいつものようにリングの枠に当たって跳ね返ってしまう。
それを何度か繰り返すとキャプテンが僕の名を呼んだ。
「甲斐原、お前はボールを打つ瞬間に頭でしっかりイメージしてるか?」
「は?」
「自分が打ったボールがあのリングに吸い込まれるところをだ」
だいたい、まだ入った事がないからイメージもなにも…
僕はシドロモドロでそんなような事を返した。
「それじゃ何度やってもだめだな
お前、三井のフォーム見たんだろ?」
「えぇ、……まぁ」
忘れるわけない。
何度もウットリ見惚れた。
それまで流川くんのフォームが一番綺麗だと思ってたけど
三井先輩のそれは、もう芸術作品のようだった。
何回打っても全く同じ形でシュートしていた。
「その三井のフォームをイメージするんだ」
「ええーっ!!!
む、無理ですよそんな」
「俺も昔はフリースローが下手だった
だが巧い選手のフォームを見て、それに自分を重ねてトレーニングしたもんだ
イメージトレーニングってのも案外大切なもんだぞ」
「で、でもキャプテン…
三井先輩と自分なんて何もかも違いすぎてイメージを重ねるなんて無理…です」
言いながら自分でも情けなくなった。
今度こそ説教されるだろうと目を瞑って下を向くと
意外にもキャプテンが同調してくれる。
「ま、あんまりに目標が高過ぎてもイメージが湧かねーか……よしっ!!
次の日曜、別の高校の練習試合を観に行こう
10時に駅で待ってろ」
「あ、…はぃ」
キャプテンに言われるまま僕は頷いた。
とにかく緊張してて
まさかこの時、体育館の扉の陰で桜木くんが立ち聞きしてたなんて夢にも思わなかったんだ。
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