ボクの好きな人
小さな僕に出来る事ってなんだろう…
桜木くんと並んで基礎練習を続けながら、ずっとそればかり考えている。
その目の前で流川くんが豪快なダンクを決めた。
隣で桜木くんが「カッコつけやがって」って怒ってる。
一度でいいからあんな風にリングにボールを叩き込んでみたいけど、この身長じゃ叶わぬ夢だから…
こんな僕に出来る事ってなんだろう。
体育館に赤木キャプテンの太い声が響き、練習が終了した。
僕は勇気を振り絞り、蛇口に頭を突っ込んで水を被っている三井先輩に近づく。
「ぁ、ぁの…
み、…三井先輩」
バサッと顔を上げ、辺りに水滴を飛び散らせながら
「あー?」と三井先輩が片目を開けた。
「なんだ
甲斐原じゃねーか 今日は牛乳持ってねーよ」
「ち、違います!!
ぁ、ぁの……ぉ願ぃが」
「あ゙~?聞こえねーぞ」
荒々しく髪を拭く三井先輩に僕の鼓動が高まる。
「お願いします!!!
僕に…、僕に3Pシュートを教えて下さいッッ!!!」
ダンクが無理なら、遠くから打てばいい。
それが僕の出した答。
おでこが膝にくっつくくらい深々と頭を下げて返事を待つ。
だけど三井先輩は
「ま~~だ早ぇよ」
と、つれなく背中を向けて行ってしまう。
「そ、そんなぁ~」
慌てて三井先輩の後を追うと誰かにガシッと肩を掴まれた。
「待ちたまえ、カイワレくん
この天才が教えてやろう」
桜木くんがニコニコ笑って見下ろしている。
「え?出来るの!?」
思わず訊ねると「とーぜん」と胸を叩いた。
すると、また別方向からの声。
「どあほう
てめーに何が出来る」
眼光鋭く、流川くんが言い放った。
「来い…
オレが教えてやる」
ふいに腕を掴まれ、僕はドキンとする。
「ルカワてめー!!!
さっきからカッコばっかりつけやがって!!!
カイワレくんは渡さねーぞ」
桜木くんが反対側の腕を掴んだ。
「んだと?……この」
一触即発!!!
左右から引っ張られる僕の頭の上で睨み合う流川くんと桜木くん。
い、痛い……
体が2つに裂けちゃうよ
そこへ割って入ったのは、三井先輩だった。
「おめーら、なんか勘違いしてねーか?
甲斐原はこのオレ様に3Pシュートを教えてもらいたいんだぜ?
…ったく仕方ねぇ
特別に教えてやるか
ほら行くぞ、甲斐原」
タオルをヒョイと肩に掛けた三井先輩は大人っぽくて、めちゃくちゃカッコいい!!
「有難うございますッッ」
僕はポカンとする2人の腕を振り払い、小走りでついて行った。
「あぁぁぁぁぁぁあ
ミッチーてめー!!!
返せコラァーッッ」
「………にゃろー」
背中に強い視線を感じたけど、これでまた一つ自分が自分を作って行くんだと思うと嬉しくて仕方ない僕だった。
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