ボクの好きな人


このところの疲れが出たのかもしれない。



入学以来初めて学校を欠席して、今日で3日目だ。



一昨日、昨日と丸々二日間ひたすら眠っていたおかげで今はかなり調子が良い。



これなら明日は登校出来るだろう。



流川くんや桜木くんに早く会いたかった。



あれほど嫌だった学校に行きたくて堪らないなんて…



人間、変われば変わるもんだとつくづく思う。



これも自分が自分を作ってる事になるのかな?



そんな事を考えながら、僕は再び眠ってしまった。









どれくらい経ったのか。



激しく繰り返すチャイムに僕は目を覚ました。



枕元の時計を見ると四時半を少し回ったところだ。



両親は共働きなので今、この家には自分しか居ない。



相変わらず、けたたましくチャイムが鳴らされている。



うるさい……



居留守を使おうと一旦は布団を被ったが、それでも止まないチャイムに仕方なくインターフォンの受話器を取った。



 「……はい」

 「おぉ!!!
 カイワレモヤシ、生きてたか」



耳をつんざく大声の主は桜木くんだった。



 「えぇ!?
 どーしたの?」



僕が訊くと少し間があって



 「や、今日は部活が休みで暇だったから
 たまたま近くを通りかかっただけだ
 別にお前の事が心配だったとかそーゆぅんじゃねーから、誤解すんなよ」



と、答えた。



フフ、桜木くんは嘘が下手だな。



わざわざ僕の家を調べて訪ねてくれたのかと思うと心がほっこり温かくなった。



 「ありがとう」

 「だからそーゆぅんじゃねーよ!!!」



僕は笑いを堪えながら続けた。



 「よかったら上がって行ってよ、ウチ誰もいないし」

 「え?……いいのか」

 「もちろん!!」

 「し、仕方ねーなぁ
 カイワレくんがどーしてもって言うなら、ちょっとだけこの天才の顔を拝ませてやるか」

 「うん、お願いします
 待ってて、今開けるよ」



僕は嬉しくて、受話器を置くとすぐに玄関に向かった。



鉄のドアを開けると桜木くんが照れくさそーに立っていた。



築30年以上の古い公団住宅の3Fに僕の家がある。



間取りは3DKで、とりあえずテレビがある居間に通すと桜木くんはキョロキョロと部屋の中を見回した。



 「ごめん、狭くて…」



実際、190cm近い桜木くんが居ると六畳の居間がひどく狭苦しく見える。



 「いや、俺んちよりずっと広い」



桜木くんがボソッと言った。



その時またチャイムが鳴った。



僕は慌てて台所のインターフォンを取る。



 「はい」

 「……オレだ」

 「っっ!!
 流川、くん?」

 「…………」

 「どーしたの?」

 「……ちょっと、近くを通りかかった」

 「それでわざわざ?」

 「……別に」



これって夢じゃないよね?



胸がドキドキして顔が熱くなった。



 「あ、あの…
 よかったら上がって行かない?
 今、桜木くんも来てるんだ」

 「ぬ!?……何故」

 「あ、忙しいよね
 ごめん、変な事言って」

 「いや、…いいけど」

 「本当に?
 待ってて、すぐに開けるから!!」



僕のテンションは一気にMAXになる。



 「誰だ、カイワレくん」

 「流川くんだよ!!」

 「なにっ!?ルカワだと?
 やろー、なんでだ」



急いでドアを開けると流川くんは「よう」と表情1つ変えずに言った。



彼を居間に通すと、早速桜木くんが「何しに来た」と突っ掛かる。



それを受けて流川くんが
「それはこっちのセリフだ、とっとと帰れどあほう」と返したもんだから
狭い六畳が今にも戦場に変わりそうな雲行きだ。



必死の思いで2人を制止した僕は改めてお礼を言った。



 「今日は本当に有難う
 わざわざ心配して来てくれたんだよね?
 ……すごく嬉しいよ」



頭を下げると



 「「たまたま近くを通りかかっただけだっ!!」」



と、同時に否定した。



僕は思わず苦笑する。



全く、仲がいいんだか悪いんだか……



それから2人は部屋の右隅と左隅に背を向けて座り
何とか間を取り持とうとした僕はヘトヘトになった。



やがて流川くんが「…帰る」と言って立ち上がると
桜木くんも慌てて立ち上がった。



 「明日は絶対来いよ!!」



ニッコリ笑って僕の頭を叩く桜木くん。



流川くんは靴を履きながら「…じゃあ」とだけ言った。



2人が居なくなった居間はいつもより広く感じた。



ふと見ると、部屋の右隅と左隅に何か置いてある。



手に取ると2つは全く同じ栄養ドリンクだった。



一方にはさりげなく「桜木」と書いてある。



ありがとう……



僕は目頭が熱くなり、2本のドリンク剤がみるみる滲んでいった。



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