ボクの好きな人

[プロローグ]



 「死ぬんなら別の場所にしろ」



ふいに襟首を掴まれた。



なるほど、僕の足は金網に掛かっている。



おかしいな……
昼休み、屋上からの景色を眺めに来ただけなのに



首筋を擦りながら振り向くと、知った顔が無表情で僕を見下ろしていた。



1年10組 流川楓



バスケ部で活躍する彼を知らない湘北の生徒は1人もいないだろう。



彼は僕と対極の世界に生きている。



 「ま、まさか…
 そんな事するわけ…



でも流川くんには、そう見えたんだろうか。



今にもここから僕が飛び降りてしまいそうに…。



自分でも全く気付いていなかった心の闇が
彼には見えたんだろうか。



僕が言葉に詰まっていると流川くんが続けた。



 「なら、どこかに行け
 ……邪魔だ」

 「べ、別にここはキミの貸し切りってことじゃないだろ?」



秘密を覗かれたような焦りと照れ臭さが混ざって
僕は思わず彼を見上げて睨んだ。



流川くんの右頬がピクリと動く。



…まずい!!!



全身に鳥肌が立った。



だが彼はプイと横を向き
僕から数歩離れるとゴロリと横になってしまう。



ホッと胸を撫で下ろすと僕の背中はひんやり濡れていた。



初めて彼と口をきいた気がする。


1つ深呼吸をして、僕は遠くに連なる低い山並みに目を凝らした。



本当にここから飛ぼうとしていたのかもしれない…



子供の頃から口下手で、人付き合いが下手で
いつも1人でいる事が多かった。



そんな自分が嫌でわざと高校は知ってる人間が少ないところを選んだ。



ひょっとしたら真っ白な状態で1からやれるかもしれないと思った。



でも、駄目だった。



何も変わらなかった。



いつの間にか前と同じ毎日を過ごしてた。



チラリと後ろを見ると流川くんはもう軽い寝息を立てている。



 「いいな、キミは…」



僕には彼が眩し過ぎて直視出来なかった。


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