推しがオレを呼んでいる


「さぁ〜〜て
そんじゃそろそろ帰るかぁ〜」

桜木さんのその一言で、俺の幸せな時間は唐突に終わりを告げた。

「帰るって……
俺、いったい……」

思わず涙目になる。

帰る場所が分からないからじゃない。桜木さんと別れたくなかったからだ。

「桜木さん!
一緒に連れてってください!
俺、この世界で生きてく覚悟決めたんで!!」

思わず出た言葉に桜木さんはちょっと驚いたように俺を見下ろした。

「ほほぅ…」

そう言ってまた悪い顔でニヤリと顎に手を当てる。

「そーか、ショーネンは
イレギュラーだったな
……よし、じゃあ帰りはこれだ!!
・・・あばよっ」

ゴツンッッ

俺は額にとんでもない衝撃を喰らって意識がスっ飛んだ。


ーーーーーーーーー。


車掌に肩を叩かれて俺は目を覚ました。

ふらつく足でホームを降りると乗った電車の終点、小田原駅だった。

やらかしたぁ……
何、やってんだよ
帰るのどんだけ遅くなっちまうんだ

それにしても何だかずいぶん疲れている。身体のあちこちに痛みもあって、とっても長い夢を見ていた気がするけど、どんな内容だったか全然覚えていない。やれやれ、早く上り電車に乗り換えなくては…。


ーーーーーーーーー。


数日後・・・

スポーツ紙に
『桜木花道 一般女性と結婚』
の見出しが載った。

子供の頃からずっと応援して来た選手のおめでたい話にこっちまで嬉しくなる。

頬を染め、目を細めて喜ぶ写真を見ていると何故か激しい親近感が湧いて来た。一度も会った事が無い相手でも、長年好きだとこういう感情が芽生えるのだろうか。我ながらドン引きだ。

記事を読むと、相手の女性は高校時代のバスケ部マネージャーで、桜木選手がインハイで大怪我をした事がキッカケで交際が始まったと書かれていた。

「へぇ〜」

俺の中で不思議な合点の一致あった。何がどう腑に落ちたのか全く分からないけれど『あぁそれでか』と納得する俺が、自分の中にいた。

なんだよ、これ
気持ち悪りぃ……

その時だ。

俺の周りの空間が大きく歪んだ。

そしてその歪みの中からにゅっと出て来た太い腕に俺は首根っこを掴まれ、有無も言わせず引き摺り込まれた。

恐怖で叫ぶ俺の頭の中に直接、誰かの声が入って来る。

『ショーネン、出番だぞっ!
またゴリの差し金が来やがった
どうしても晴子さんとの仲を
ジャマしてぇらしい』

なんだ!?
何がどうなってる??

『忘れちまったのか?
この世界で生きてく覚悟決めたんだろ?』

数字の螺旋、捩れる時計板。その針は高速で逆回転する。遡る時間の中で俺は全てを思い出した。

7年前の夏の広島で桜木さんが呼んでいる!

再び目の前に現れた空間の歪みに俺は全力でダイブした。


   
ーーーーーーーーーーーーーーお題:タイムスリップ



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