推しがオレを呼んでいる


行き交う人に道を訊ねながらインターハイ会場に辿り着くと既に試合が始まっている。

観戦席へ続く扉を押した途端、歓声が耳をつん裂いた。この盛り上がりと熱気、間違いない!

コートに目をやると見慣れたユニフォームにはSHOHOKUの文字。

電光掲示板の対戦相手は大阪の豊玉だ。

俺の視界はみるみる滲んでいく。

豪快なダンクを決める赤木。華麗なスリーポイントを打つ三井。司令塔の宮城が電光石火のドリブルで切り込み、流川が相手ディフェンスを素早く躱す。桜木さんもしっかり会場の注目(笑い)を浴びていた。

間違いない……本当に
本当に今、7年前の夏に居る!
インターハイで戦う湘北バスケ部をこの目で見てるんだ!

髪が逆立ち、全身の震えが止まらない。

未来から来た俺はこの試合、湘北が勝つと知っている。けれど本当にそうなるのか?というくらいの接戦で、豊玉はめちゃくちゃ強かった。

だが後半、片目の流川が得点を重ね続けると、他の4人も完全に火がついた。全員の歯車が噛み合った時の破壊力は子供の時も鳥肌が立った。それを今、高1になった俺が溢れ出る涙と洟水を拭いつつ、観戦席の最上段からジッと見守る。

すごい……
やっぱりこの5人が最強メンバーだ!!

親に連れられ、初めて試合を見た時の衝撃が鮮やかによみがえる。

結果、91-87で我が湘北高校は2回戦に勝ち進んだ。知っている展開でホッとする。

そして、改めて自分が未来から来た事を実感した。

湘北の試合が終わって、次の試合が始まっても俺は最上段の席に座り込んでいた。

その試合も終わり、またその次の試合が始まり、その試合も終わって……

ひとつの小さな閃きが明確な形になっていく。

豊玉戦を見て、俺は自分の認識が間違っていたと気付いた。インハイでの湘北の強さがあまりにも神憑っている。

やはり桜木さんが欠けなければ……

「まだ間に合う」

思わず声に出していた。その大胆過ぎる閃きに自ら恐れ慄きつつも、今現在の桜木花道は負傷していないという現実が俺をこの上なく昂らせる。

全国制覇は夢じゃない!!

ぶっちゃけこれから自分がやろうとしている事はこの後の歴史を確実に変えてしまうだろう。

けどそんなのは知ったこっちゃない。俺はどうしても全国制覇して高笑いする桜木さんが見たい。その思いに1ミリのブレも無い。

だから俺がこれからやるべき事はただ一つ。桜木さんに絶対に怪我させない事。

それにはどうすればいい?
どうすれば……

俺は漸く腰を上げ、ゆっくりとコートまで降りて行った。

明日、ここで、桜木さんは試合中に負傷する・・・

本日全ての試合が消化され、館内に閉館のアナウンスが流れた。

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