今日は厄日だ

神は俯いて、小さな声で言った。



「…………あ、すいません。 何か泣けてきちゃってて……。」




「「……………………!?」」


赤木と仙道が、様子のおかしい神を心配そうに見つめる。





神宗一郎は、強豪である海南大附属高校バスケットボール部のスタメン選手だ。
スリーポイントシュートを得意とし、特に牧のペネトレイトからのそれは、最強と謳われている。

一年生の時にはベンチ入りさえ叶わなかった神だが、毎日500本のシュート練習を欠かすことなく続け、シューターとしての才能を開花させたのだ。

毎日のシュート練習。
油分をボールに奪われた指先は疲弊し、右手の人指し指と中指の腹の部分は、いつもパックリと割れていた……。

何度も、薬を塗って絆創膏を貼った。
絆創膏はすぐに外れてしまう物、質感が微妙にシュートの軌道を狂わせてしまう物……様々だった。
より練習の妨げにならないものをと、あらゆる絆創膏を試した日々……。

「よかったら、使うか?」と、絆創膏を差し出してくれた同じクラスの男子生徒に、淡い恋心を抱いたりもしたものだ。








…………

「どうした? 神?」



赤木が切り出すと、俯いていた神はゆっくり顔を上げ、噛み締めるように話し始めた。



「ノブは牧さんを敬愛しています。だからいつも、少しでも牧さんに近づきたいって、努力してる……。」



神の言葉に、うんうんと頷く赤木と仙道。
それを確認してから、神は更に続けた。



「でも、牧さんも努力してたんですよ……。ノブに近づきたいって、努力してたんです。あの牧さんが………。
それを思うと、何か泣けてき……っっっ…」



言葉に詰まり、神はまた俯いた。


神の想いを汲み取れず、戸惑う赤木と仙道。
しばらく沈黙が続く………。





もう割れることなどない程、硬くなった神の指先の皮。

自分にも何か自信が欲しくて、ただただ必死にシュート練習に励んできた……。
絆創膏と格闘していた日々も、今では神にとって大切な時間だ。




「絆創膏には、結構詳しいんですよ、俺。」


再び話し始めた神に、赤木と仙道は静かに耳を傾ける。



「だから知ってるんですよ。あの絆創膏のこと……。
ノブが牧さんから貰ったあの絆創膏は…。」




赤木と仙道は、清田の手の絆創膏に目をやった。




あらゆる絆創膏を試した苦悩の日々が、懐かしく蘇る。
そして神は確信していたのだ。
そうだ……。あの絆創膏は…………











「あの絆創膏は
《見た目が10歳若返る!!魔法のビックリお顔クリーム》(通販専売)
を、1ダースセット購入時に付いてくるオマケですょ。」
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