今日は厄日だ

御子柴は困惑していた…。





「今年も来るんだろ……。全国」などと、落ち着いたトーンで自分に話しかけてくる牧。
全国大会で見知った顔とはいえ、バスケをしていない普段の牧を、しかもこんな至近距離でじっくり見たのは初めてだった。




『牧……こいつ………。マジかよ…。
いやマジだ。
俺としたことが、今まで全く気付かなかったぜ…』


御子柴は動揺を悟られぬよう、努めて平静を装う。





「よう…御子柴。全国でウチと当たった時は覚悟しとけよ」…と魚住が煽れば

「ぬるいわっ。ウチの目標は、全国制覇だっ」…と赤木が割って入る。








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……


駐車場に駐まったマイクロバスは、静岡ナンバーのものだった。


降車し入店してきたのは、全国大会常連校であり昨年ベスト4の強豪、静岡常誠高校バスケットボール部の面々とその監督。

空席の都合上、静岡勢は神奈川勢とかなり離れたエリアに案内された。
だが、常誠の監督が安西の後輩であったということも手伝い、神奈川の各主将と静岡常誠の主将である御子柴とで、挨拶がてら少し話をする運びとなったのだ。









「おいおい。勝つのは常誠だぜ」



平静を装いそう返した御子柴だが、彼の困惑は更に大きいものになっていた。



『………魚住に赤木とか言ったな…。
……こいつらもだ。 絶対こいつらもだ……マジだぜオィ。
いったい何故………何故なんだ』




考えたところで答えは出ない。



しかし…………考えれば考える程、その御子柴の困惑は次第に熱い激情へと形を変えていった。





牧がこっちを見ている………。
ふと視線を移せば、魚住と赤木も真っ直ぐにこちらを見ていた。


漂うオーラ……


燃える闘志……


尚も熱い激情が、御子柴を襲う。


もう耐えられない…。



「ちょっと……悪い」



そう言って御子柴は店の外に出た。
溢れる出る激情の涙を雨で隠すべく、御子柴は空を仰いだ。



『熱い…。あんなに熱い男達が、神奈川には居る……』



御子柴は空に向かって何度も吠えた。
熱い激情を、雨空にぶつけるかの様に…。










明らかに30歳を過ぎている…。それでも尚、高校生としてバスケをしていたいなんて……。体力的にもキツイはずだ。それでも全国を目指すというその心意気……。



『牧、魚住、赤木……。
くそっ…カッコイイじゃねぇか……アイツら…。
神奈川、熱いぜ……。』





雨の中、天に向かって何度も何度も泣きながら吠え続ける御子柴。



一方、未だ悶々とトイレに潜んでいた藤真は、小窓から呆然とその吠える男を見ていた。
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