湘北☆cop
《case file 6》
毎年、8月になると湘南地区では一泊二日で新人研修が行われる。今春配属された片瀬湘北署の新人2人ももちろん参加予定だ。
「ハ、ハルコさんは……
そ、その……さ、参加されないのですか?」
赤面しながら質問する桜木花道の肩には使い古した小振りのスポーツバッグ。それが二日分の荷物でパンパンに膨らんでいる。
「はい、私はもう新人ではありませんので」
「え……
あ、あぁそ〜ですよねぇ
当然この桜木、分かっておりましたとも!」
ナハハハ、などと笑ってはいるが実は晴子との距離を縮められるチャンスだと意気込んでいた桜木は内心かなりガッカリする。
・・・と、その横をチタン製の高機能スーツケースを引いて、流川楓が颯爽と通り過ぎた。
「る、流川さん!」
晴子のハートをあからさまにカッ攫っていく。
「あ、あの……」
「…?」
「け、研修
お気をつけ……てぇえ、え?えーっ!!
なんと!そこ彼処から集まって来た婦警やら女性職員やらの一団が流川と晴子の間にドッと雪崩れ込んで来たのだ。そして我先にと捜査一課のルーキーへ研修での無事を祈る言葉を投げ掛ける。
呆気に取られた桜木は忽ち壁際まで追いやられてしまった。
「ぬぬぬぬぬーーっ!!!」
どいつもこいつも、この天才を差し置きキツネ男ばかりチヤホヤしやがって!!
憤怒した桜木は目を三角にしてパンパンに膨らんだスポーツバッグを振り回した。
「「キャーーー!!!」」
あっという間に撤収する流川楓親衛隊。当然ながら晴子も一緒に逃げて行く。
「あ、ハルコさん!
待ってくださ………
・・・ルカワ、テメェぇぇえ」
怒りの矛先を流川に転じるも、既にそこに彼の姿は無かった。
「と言うわけで、だ
赤木と木暮は出張中だから
今日はオレがお前らに同行する事になった」
桜木と流川を自分の席の前に立たせて先輩風を吹かすのは三井寿だ。敬愛する課長の安西からの直々の任務という事もあり、すこぶるご機嫌且つ張り切っている。
「ウチの他は辻堂海南署、相模翔陽署、それと腰越陵南署が今回参加する事になってるみてーだな」
資料にザッと目を通しながら三井が研修の目的や内容を2人に説明する。
「腰越……」
「センドーのとこだな?」
「ああ、でもアイツは来ねぇよ
新人じゃねぇからな」
途端に「チッ…」と舌打ちする流川。
「運のいいヤツだ」
桜木は指をボキボキ鳴らす。
「おいおい、テメェら今のオレの話ちゃんと聞いてたのかよ?これは研修なんだぞ?
ったく、行って早々オレに恥かかせんじゃねーぞ!」
全く嫌な予感しかない。
それを聞いていた宮城が「三井さん、ご愁傷様」と心の中で手を合わせた。
とりあえず無事研修センターに辿り着いた片瀬湘北署の3人。それを出迎えたのは、相模翔陽署捜査一課の主任の花形透だった。身長197cmの高さでビシッと敬礼されるとかなりの威圧感がある。
「よぉ花形、相変わらず堅ぇな」
183cmの三井が花形を見上げながら彼の肩に手を置く。
「警察官として当然の事だろう」
三井の手を払い退けて露骨に嫌な顔をした。
「それより、そちらの2人が今年の新人だな?」
「おお、そーだ
バッチリしごいてやってくれよ」
一年毎の持ち回りで受け持つ研修当番。どうやら今年は相模翔陽署のようだ。
そんなやり取りを柱の陰からジッと見ている者がいた。
「三井、寿……
お前はオレに勝てない」
細い眉と目が地味過ぎる男、翔陽署の刑事、長谷川一志だ。
三井とは警察学校の同期だったが、当時バリバリのエリートコースを歩んでいた三井からは洟も引っ掛けてもらえなかった。
それでも長谷川はずっと三井に憧れていた。彼が本庁勤務になった時は自分の事のように喜んだ。
ところが、とある事件がキッカケでキャリア組から落ちこぼれ、見る影も無くやさぐれた三井を偶然街で見掛けた長谷川は酷くショックを受ける。そして、自分は絶対に立派な刑事になってやると固く誓ったのだ。
数年後、風の噂で三井が片瀬湘北署の捜査一課に拾われたと聞いた。
あそこまで落ちた人間がまともな刑事になれる訳がない!
三井への歪んだ想いが現在の長谷川を形成しているといっても過言では無い。
今はオレの方が優秀な刑事だ!
それをやっと証明出来る日がやって来たのだ。
長かった・・・
鼻の奥がツンとして長谷川の視界がボヤける。
柱の陰で涙を拭い、花形達の後を追いかけた。
「待て!三井っ!!」
「はぁ?
誰だ、テメェは」
いきなりの喧嘩腰の物言いに、桜木が反応する。
「ん?
どうした、長谷川」
続いて花形がゆっくりと振り向いた。
「三井だ、湘北署の三井寿だ
ヤツはどうした?」
「ミッチーならもう帰ったぜ」
「・・・え?」
「当たり前だ
三井はこの2人を送り届けただけだからな」
「・・・!!!」
長谷川は自分が大きな勘違いをしていた事にたった今気付き、ガックリと膝をつく。
彼はてっきり三井が講師としてやって来たのだと思い込んでいた。
「ミッチーはもう新人じゃねーからなぁ」
や、そうじゃなくて……と反論する気力も無い長谷川。
「でもその気持ちはよ〜く分かるぞ!」と桜木が声を上げて笑った。
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毎年、8月になると湘南地区では一泊二日で新人研修が行われる。今春配属された片瀬湘北署の新人2人ももちろん参加予定だ。
「ハ、ハルコさんは……
そ、その……さ、参加されないのですか?」
赤面しながら質問する桜木花道の肩には使い古した小振りのスポーツバッグ。それが二日分の荷物でパンパンに膨らんでいる。
「はい、私はもう新人ではありませんので」
「え……
あ、あぁそ〜ですよねぇ
当然この桜木、分かっておりましたとも!」
ナハハハ、などと笑ってはいるが実は晴子との距離を縮められるチャンスだと意気込んでいた桜木は内心かなりガッカリする。
・・・と、その横をチタン製の高機能スーツケースを引いて、流川楓が颯爽と通り過ぎた。
「る、流川さん!」
晴子のハートをあからさまにカッ攫っていく。
「あ、あの……」
「…?」
「け、研修
お気をつけ……てぇえ、え?えーっ!!
なんと!そこ彼処から集まって来た婦警やら女性職員やらの一団が流川と晴子の間にドッと雪崩れ込んで来たのだ。そして我先にと捜査一課のルーキーへ研修での無事を祈る言葉を投げ掛ける。
呆気に取られた桜木は忽ち壁際まで追いやられてしまった。
「ぬぬぬぬぬーーっ!!!」
どいつもこいつも、この天才を差し置きキツネ男ばかりチヤホヤしやがって!!
憤怒した桜木は目を三角にしてパンパンに膨らんだスポーツバッグを振り回した。
「「キャーーー!!!」」
あっという間に撤収する流川楓親衛隊。当然ながら晴子も一緒に逃げて行く。
「あ、ハルコさん!
待ってくださ………
・・・ルカワ、テメェぇぇえ」
怒りの矛先を流川に転じるも、既にそこに彼の姿は無かった。
「と言うわけで、だ
赤木と木暮は出張中だから
今日はオレがお前らに同行する事になった」
桜木と流川を自分の席の前に立たせて先輩風を吹かすのは三井寿だ。敬愛する課長の安西からの直々の任務という事もあり、すこぶるご機嫌且つ張り切っている。
「ウチの他は辻堂海南署、相模翔陽署、それと腰越陵南署が今回参加する事になってるみてーだな」
資料にザッと目を通しながら三井が研修の目的や内容を2人に説明する。
「腰越……」
「センドーのとこだな?」
「ああ、でもアイツは来ねぇよ
新人じゃねぇからな」
途端に「チッ…」と舌打ちする流川。
「運のいいヤツだ」
桜木は指をボキボキ鳴らす。
「おいおい、テメェら今のオレの話ちゃんと聞いてたのかよ?これは研修なんだぞ?
ったく、行って早々オレに恥かかせんじゃねーぞ!」
全く嫌な予感しかない。
それを聞いていた宮城が「三井さん、ご愁傷様」と心の中で手を合わせた。
とりあえず無事研修センターに辿り着いた片瀬湘北署の3人。それを出迎えたのは、相模翔陽署捜査一課の主任の花形透だった。身長197cmの高さでビシッと敬礼されるとかなりの威圧感がある。
「よぉ花形、相変わらず堅ぇな」
183cmの三井が花形を見上げながら彼の肩に手を置く。
「警察官として当然の事だろう」
三井の手を払い退けて露骨に嫌な顔をした。
「それより、そちらの2人が今年の新人だな?」
「おお、そーだ
バッチリしごいてやってくれよ」
一年毎の持ち回りで受け持つ研修当番。どうやら今年は相模翔陽署のようだ。
そんなやり取りを柱の陰からジッと見ている者がいた。
「三井、寿……
お前はオレに勝てない」
細い眉と目が地味過ぎる男、翔陽署の刑事、長谷川一志だ。
三井とは警察学校の同期だったが、当時バリバリのエリートコースを歩んでいた三井からは洟も引っ掛けてもらえなかった。
それでも長谷川はずっと三井に憧れていた。彼が本庁勤務になった時は自分の事のように喜んだ。
ところが、とある事件がキッカケでキャリア組から落ちこぼれ、見る影も無くやさぐれた三井を偶然街で見掛けた長谷川は酷くショックを受ける。そして、自分は絶対に立派な刑事になってやると固く誓ったのだ。
数年後、風の噂で三井が片瀬湘北署の捜査一課に拾われたと聞いた。
あそこまで落ちた人間がまともな刑事になれる訳がない!
三井への歪んだ想いが現在の長谷川を形成しているといっても過言では無い。
今はオレの方が優秀な刑事だ!
それをやっと証明出来る日がやって来たのだ。
長かった・・・
鼻の奥がツンとして長谷川の視界がボヤける。
柱の陰で涙を拭い、花形達の後を追いかけた。
「待て!三井っ!!」
「はぁ?
誰だ、テメェは」
いきなりの喧嘩腰の物言いに、桜木が反応する。
「ん?
どうした、長谷川」
続いて花形がゆっくりと振り向いた。
「三井だ、湘北署の三井寿だ
ヤツはどうした?」
「ミッチーならもう帰ったぜ」
「・・・え?」
「当たり前だ
三井はこの2人を送り届けただけだからな」
「・・・!!!」
長谷川は自分が大きな勘違いをしていた事にたった今気付き、ガックリと膝をつく。
彼はてっきり三井が講師としてやって来たのだと思い込んでいた。
「ミッチーはもう新人じゃねーからなぁ」
や、そうじゃなくて……と反論する気力も無い長谷川。
「でもその気持ちはよ〜く分かるぞ!」と桜木が声を上げて笑った。
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