湘北☆cop

《case file 5》


この週末、片瀬湘北署管内で催される夏祭りに
悪質な手口で客から金を巻き上げる露店が出店するとのタレ込みがあり
その調査及び摘発の任務に新人刑事、桜木花道と流川楓が就く事となった。

殺人事件が良かったと文句を垂れる桜木の頭に、赤木の拳骨が落ちる。

 「たわけがっ!!
 殺人など滅多に起きるもんじゃねえ」

 「そりゃ刑事ドラマの観すぎだぜ、花道」

横で先輩の宮城が茶化す。

 「…ぃってぇ くっそ
 このゴリラ男とあの美しいハルコさんの血が繋がっているなど俺は絶対信じねーぞ」

 「ん~?
 何か言ったか桜木
 どうやらもう一発欲しいようだなぁ」

拳をグルグル回す赤木に、頭を押さえてブンブンと首を振る桜木。

流川が「どあほう」と呟く。

 「それで悪いが当日
 2人にはお前が付いてくれないか」

赤木は宮城に向き直ると何でも無いようにサラリと言い放った。

 「・・・え?
 えええーーーっ!??
 マジですかダンナっ!!」

まさかの任命に宮城の顔が歪む。

相手は見るからに問題を起こしそうなこの2人なのだから当然の反応だろう。

 「あぁ、本当だ
 俺と木暮、三井の3人はその日、例の別件で動くんでな 頼んだぞ」

 「・・・ハァ
 仕方ねぇか
 わかりましたダンナ」

ガックリと肩を落とす宮城に彩子がガッツポーズを送る。





夏祭り当日――

宮城、桜木、流川の3人が湘北署を出ようとすると
交通課の赤木晴子が追いかけて来た。

 「お、お疲れさまですっ
 あの……、お仕事
 頑張って下さい!!」

彼女は主に流川に向かって話しているのだが…

 「ご安心下さいハルコさん!!
 この天才桜木花道
 これしきの仕事など朝飯前ですから!!
 なーはっはっはっは」

胸を張り豪語する桜木の先で頬を染める晴子ビジョンはやはり流川Onlyで…

その流川は我関せずと、あらぬ方を向いている。

それを見ていた宮城は深く頷き、「俺がついてるぜ」と桜木の肩を叩くのだった。





祭りの会場に到着した3人は早速露店のチェックを開始する。

 「いいな、少しでも引っ掛かるところが有れば直ぐに俺を呼べ
 くれぐれもてめーらだけで動くんじゃねーぞ」

 「「 ウスッ」」

 「よし、じゃ俺は向こう側から回る
 お前らはその辺を行け」

そう指示すると宮城は人混みに消えた。

 「じゃあ始めっか~
 …って、てめー
 1人で勝手に始めんな」

既に流川はタコ焼き屋に並んでいる。

 「チッ、じゃ俺はこっちの焼きそば屋を…、おっちゃん1つくれ」

ソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。

空腹の桜木が、ろくに調べもせずに一気に焼きそばを完食すると
流川がタコ焼きの乗った皿を差し出した。

 「…食え」

 「え?いいのか?」

 「…ああ
 腹、減ってんだろ?」

 「わ、わりぃなぁ
 お前、案外いいとこあるじゃねーか」

だが、嬉しそうにタコ焼きを頬張った桜木の表情が次の瞬間、一変する。

 「…ぬ?こ、これ
 タコ入ってねぇぞっ!!?」

 「…ッッ!!」

 「さてはここかっ!!
 タレ込みのあったインチキ露店てのはっ!!」

怒り心頭、単独で店に踏み込もうとする桜木を流川が制した。

 「止めるなルカワ!!
 リョーちんを呼ぶまでもねーぞ!!」

 「…待て」

 「いや!!待てねぇ!!」

 「タコは俺が食った…」

 「・・・・・はぁ???」

 「意外に鋭いな、…お前」

裏返すと、全部のたこ焼きに穴が開いてる。

 「ルカワァ…てめぇ~
 ……コロスッ」

祭りの人混みの中、追い掛けっこが始まった。

アメフトさながらに人垣をすり抜けて走る2人。

と、逃げる流川の足が急に止まる。

彼の目を釘付けにしたのは射的屋の景品「黒猫の抱き枕」だった。

見るからに手触りが良さそうで頬摺りしたい衝動に駆られる。

追い付いて来た桜木に一時休戦を申し入れ、流川はコルク栓式の銃を構えた。

射撃には自信がある。

抱き枕と書かれた小さな立て札を倒すなど造作もない事だ。

だが、射的屋の銃は少々勝手が違った。

ましてや欲しい気持ちが先走り、何度やっても上手く行かない。

横で冷やかしながらあざ笑う桜木に「じゃあ、てめーがやってみろ」と流川はキレ気味に銃を突き付けた。

 「こんなもん簡単だろ」

だが、舐めて掛かった桜木もいざやってみれば結果は流川と大して変わらない。

互いに罵り合う2人。

その横でパンッ!!というコルクの銃声と共に、小さな立て札が倒れて落ちた。

呆気にとられる桜木と流川。

 「キミ達、片瀬湘北署の新人くんだよね?
 その程度の腕じゃ、とても実戦では使えないな」

隣の男が小馬鹿にしたように笑った。

 「て、てめーは
 この前の…」

見覚えがあるその顔と髪型に流川の目が鋭く光る。

 「これ、欲しかったんだろ?プレゼントするよ
 じゃ、いずれまた」

ヒラヒラと手を振って立ち去ろうとする男に桜木が噛み付いた。

 「待てコルァァァ!!
 舐めた口ききやがって
 てめーどこのどいつだ」

 「え?俺…?
 俺は腰越陵南署の仙道
 以後、お見知り置きを」





週明け、湘北署捜査一課に赤木の怒声が響き渡った。

 「この、たわけどもが!!
 お前らを遊びに行かせた覚えはコレっぽっちもねーぞ!!
 その上、よりにもよって
 非番で祭りに来てた陵南署のデカに手柄をくれてやるとは全く呆れてモノも言えん!!」

宮城、桜木、流川の3人が横一列に並ばされ、直立不動の姿勢で延々説教を食らっている。

 「赤木、もうそれくらいにしてやれよ」

見兼ねた木暮が間に入った。

 「おぃ
 陵南署のデカって
 もしかして…」

部屋の隅で雑談する三井と彩子。

 「そう、…仙道よ」

 「だと思ったぜ」

 「あの男の事だから、たまたま非番で来てたってのも怪しいけど…」

 「…だな
 にしても、俺らの所轄で好き勝手されんのは面白くねーな」

三井の瞳がギラリと光る。

一方、木暮の取り成しで
やっと赤木の説教から解放された桜木と流川は、改めて「打倒仙道」を心に誓うのだった。

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