湘北☆cop

《case file 2》


相模湾から程近いここ片瀬湘北署。

捜査一課の毎朝は事務員の彩子が煎れるコーヒーの香りで満ちている。

所属する刑事たちは皆、出勤するとすぐにそのコーヒーを飲むのが習慣だ。

主任の赤木剛憲もポットからそれを注ぐ。

お気に入りの白いマグカップには何故か、毛筆書体で大きく『全国制覇』とプリントされている。

 「おい、彩子
 確か今日からだったな
 新人が来るの」

コーヒーをブラックのまま啜り、赤木が訊ねる。

 「そうよ
 でっかいのが二人
 今ボスと一緒に署長に挨拶に行ってる」

 「二人か
 賑やかになりそうだな」

彩子の言葉を受けた木暮公延が呑気そうに笑う。

木暮のコーヒーにはミルクと砂糖がたっぷり…

 「たわけが!!
 最初が肝心なんだ
 甘やかすなよ木暮」

 「あはは、
 わかってるよ赤木」

二人は警察学校の同期でもあり、公私ともに相棒と呼び合う仲だ。

 「ダンナのいう通り!!
 どんな奴らかは知らねぇが俺がビシビシ鍛えてやりますよ」

渋くポーズを決めるやや小柄な刑事、宮城リョータの視線の先には彩子の姿が…

宮城は彼女に惚れていた。

 「あら、でも一人の子は私の中学の後輩で、噂じゃキャリアみたいよ?」

 「ほぅ、エリートか
 そりゃ楽しみだな」

叩き上げの赤木が不敵に笑う。

 「チッ、
 そんなもん現場も知らねぇただのヒヨッコだろ?」

 「あ、ウチにもエリートいましたっけね」

 「うるせー宮城!!
 キャリアだか警部補だか知らねぇが、ここじゃでけぇ面させねぇ」

一人で過剰反応している刑事、三井寿も実はキャリア組だが、問題を起こして出世コースから外れてしまっていた。

一課は彼らの他に安田、角田、潮崎の全部で7名の刑事がいる。

そしてここを取り仕切るのがその昔、本庁で白髪の悪魔と恐れられた安西光義。

安西はある事件の責任を取ってこの片瀬湘北署に来たらしいが、その詳細を知る者は少ない。

現在は白髪の仏と呼ばれるほど温厚で物静かな人物で通っている。

数分後、

安西が新人刑事2名を伴い一課に戻って来た。

部屋中の視線が二人に注がれる。

なんだ、あの赤い髪は!?とほとんどの者が驚く中
三井だけは、キャリアはどっちだと目を光らせた。

 「みんな、ちょっと集まって下さい
 紹介します」

安西の声にゾロゾロと彼のデスクを囲む。

 「今日からウチに来た
 桜木花道くん流川楓くんです」

 「ちゅーす!!」

 「…どうも」

 「桜木くんは藤沢の派出所から、流川くんは本庁からの転任です」

赤と青…

彩子は二人にそんなイメージを持った。

 「桜木くん、流川くん
 キミ達は当面、主任の赤木くんに付いて
 「課長!!
 俺が流川に付きますよ」

三井が安西の言葉を遮った。

宮城がやれやれと苦笑する。

 「わかりました三井くん
 では流川くんは三井くんについて下さい
 基本行動はツーマンセルですが我々は同じチームだという事を常に忘れないように」

安西の話が終わると各々席についた。

 「あんた達はこっちよ」

彩子が新人二人を手招きしてドアに近い一番端の席を指差す。

 「ねえキミ、流川さぁ
 もしかして富中出身?」

 「…はい」

 「わぁ~~やっぱり♪
 噂は聞いてるよ
 まぁガンバレ!!」

 「…うす」

彩子に背中をバンバン叩かれる流川を宮城が口惜しそうに睨んだ。

 「あのエリート野郎…
 気に入らねぇ
 三井さん、ビシッと頼みますよ?」

 「あたりめーだ
 任せとけ
 ……にしても何だって」

わざわざ本庁から…と、顎の古傷を撫でながら、改めて三井が首を傾げる。

席についた桜木たちの前に赤木が書類の束をドサリと置いた。

 「これは今までウチが関わってきた事例だ
 目を通しておくように」

ゴリラ男だ…ww

目の前の自分より大きな男を、桜木は一目見た時からそう思っている。

 「あの、…主任さん?」

 「なんだ桜木」

 「もしや、あだ名は
 ゴリさん?」

向かいで流川が咳き込んだ。

どうやら彼も同じ事を思っていたらしい。


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