湘北☆cop

《case file 14》


就寝中だった赤木剛憲は、自宅前を通過する激しいサイレン音で目を覚ました。

火事か?

暗がりの中、デジタル時計に表示された時刻は2時を少し過ぎたところだ。

遠ざかる警鐘に事件性が無い事を祈りながら再び目蓋を閉じると、不意に懐かしい顔が浮かんで来た。

あの男は夢を叶えたのだろうか……

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名を青田龍彦という。幼少の頃からよく一緒にいたので、いわゆる幼なじみという間柄だ。

大抵の男の子はその時に放映中の特撮ヒーローに憧れるものだが、赤木と青田も例外ではなく、二人は毎日飽きる事なくヒーローごっこをして遊んだ。

赤木のお気に入りはデコられた白いバイクで颯爽と現れ、必殺技で敵を倒すデカライダー、青田のお気に入りは巨大合体ロボを操り、災害現場で街の人々を助ける炎レンジャー。

初めは仲良く遊んでいても、必ず最後はどちらがカッコイイかで喧嘩になった。

「フン
デカライダーなんて、いつもひとりのテキしかたおせないじゃないか!
それでおおぜいのひとをたすけられるのかよ!なさけない!」

「よくしらないくせに、わかったようなこというな!
ひとりだってテキをたおさなきゃ、ヘイワにならないじゃないか!」

「それに、バイクなんてカッコわりぃ!」

「なんだとぉ?!
ノロまなロボットといっしょにするな!」

今となれば何とも微笑ましい限りだが、当時は絶対に負けられない男のプライドを掛けた真剣勝負だった。

中学に入るといつしかお互いのそれが将来の夢になり、卒業文集では赤木は警察官、青田は消防官になりたいと書いた。

別々の高校に進学した二人は滅多に会う事も無くなったが、それでも顔を合わせると時間を忘れて夢を熱く語り合ったものだ。

あれから10年。多忙な日々が続き、長らく音信不通になっていた事に今更ながら気付く。

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青田は消防官になれたのだろうか?

取り留めもない回想ですっかり眠気を失った赤木はキッチンで水を飲んでいた。

「あれ?お兄ちゃんも眠れないの?」

明かりが点くと妹の晴子が立っている。

「ああ、さっきのサイレンでな
お前もか?」

赤木は白い光に目を細めながら訊ねた。

「うん、凄かったね
近くで火事かなぁ?」

そう言って眠そうに目を擦る。つくづく似ていない兄妹だ。

「晴子、覚えてるか?
……青田の事」

唐突な兄の質問に微妙な間が空いた。

「・・・青田?」

「そうだ、居ただろ?俺の友達で
……青田龍彦」

「ああ、たっちゃんの事?」

「た、……たっちゃんだと⁉︎⁉︎」

予想もしなかった妹の言葉に、赤木は目尻と目頭が引き千切れんばかりに目を剥いた。

「うん、龍彦でしょ?
だから、たっちゃん」

「ど、どーゆぅ事だ、晴子っ!
まさかオマエら・・・つ、つ、つ、、
付き合ってるのかっ‼︎⁉︎」

激しく同様する兄を見て、妹が声を上げて笑う。

「やだぁ〜!やめてお兄ちゃん!
毎年、私のお誕生日が近くなるとご飯ご馳走してくれるだけ
それよりたっちゃんて今、レスキュー隊で主任さんやってるんでしょ?」

「・・・・・」

「え?もしかしてお兄ちゃん……
たっちゃんと会ってなかったの?」

赤木の身体が怒りで震える。

(あ….あの野郎・・・
ちゃっかり晴子とは連絡取ってやがったのか‼︎‼︎
あんのヒキョー者が‼︎‼︎)

そうして青田とのノスタルジックな思い出は跡形もなく吹き飛ぶのだった。

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翌日・・・

昼になっても顔を見せない桜木花道に赤木が切れかけていると、バタンと勢いよくドアが開いた。

「いやぁ〜〜参ったぜ
夜中に隣から火が出てよぉ」

開口一番、桜木は悪びれた様子も無く言い放つ。

「マジかよ、花道⁉︎」

「アンタんちは大丈夫だったの?桜木花道」

ドア近くで立ち話をしていた宮城と彩子が直ぐに反応した。

「ああ、家っていってもボロアパートだがな、何とか無事だった」

「そう、なら良かったけど…
あ!それで遅刻を?」

「ダンナがたいそうなお冠だぜ?花道」

「なにっ⁉︎」

三人揃ってそーっと振り返ると赤木がズンズンズンと鬼の形相で近づいて来る。

「ち、違うんだゴリさん!
オレの話を聞いてくれって!」

「だ〜〜〜れがゴリさんだ!
このバカタレがっ‼︎
それならそうと連絡を入れんか!連絡を‼︎」

ゴンっ‼︎‼︎

早速、脳天に拳を食らった。

頭を抱えてうずくまる桜木と仁王立ちで制裁を続けようとする赤木の間に素早く木暮が割って入る。

「まぁまぁ落ち着けって、赤木
桜木だって悪気があったわけじゃないんだから
桜木も次からはちゃんと連絡入れろよ?いいな?」

いつもながらの迅速な木暮裁きに宮城と彩子が拍手を送る。

「全く、どいつもこいつも……」

赤木はドサリと自席に着いた。

「ヒデェよ、ゴリさんのヤツ!
オレはいち早く飛び起きて消火を手伝ったり住民を避難させたりして明け方まで大活躍したんだぞっ!それなのに……」

桜木は殴られた頭を摩りながら涙目で木暮に愚痴る。

「そうかそうか、偉いぞ桜木
よく頑張ったな」

「グレさんはいい人だなぁ〜
……あ、そーだ
聞いてくれ、グレさん!
オレ、現場に来てたレスキュー男にスカウトされたんだぞっ」

レスキューというワードに赤木の耳がダンボになった。

「いきなり『お前はレスキュー隊に入るべきだ、お前なら真剣にやればすぐにウチのNo.2だ‼︎』なんて言いやがってよ
しつこい野郎で参った」

「えぇ⁉︎
それで?何て答えたんだ?」

「トーゼン、その場でキッパリと断ってやった!」

「ホッ……良かった
お前の事だからそのまま付いて行ったんじゃないかと…」

「安心しろ、グレさん
何度誘われても付いて行かねーよ
ホース持つよりこっちの方が断然カッコいいからな」

そう言うと桜木は指でL字を作って、隣で舟を漕いでいる流川を「バン‼︎」と撃った。

「断然カッコいい……か
フン、たわけた事を」

桜木の言った一言が、やけに嬉しい赤木であった。



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