湘北☆cop

《case file 13》


基本、ツーマンセルで動く片瀬湘北署捜査一課。このところずっと宮城リョータは桜木花道と組んでいる。初見の桜木は決して良い印象ではなかったが、こうして長い時間一緒に居ると彼に並々ならぬシンパシーを感じる宮城だ。

「あぁ〜腹へった!
そろそろメシにしよう、リョーちん」

午前中の聞き込み捜査を終え、桜木が「う〜〜ん」と伸びをしながら昼食の催促をする。

本来、後輩からのタメ口、ましてやリョーちん呼ばわりなど言語道断の有るまじき事。何人たりともそれをしようものなら、即座に跳び蹴りを食らわせ土下座させる勢いなのだが、何故かこの男だけは許せてしまう。

「そうだな
朝から歩きっぱなしだったし、さすがに少し疲れたな」

「でも疲れたわりに有力な情報、なぁ〜んも無かったよなぁ」

全国的で多発している高齢者を狙った詐欺事件は、ここ湘北署管内でも例外ではない。2人は早朝から被害者宅周辺をしらみ潰しに回り、犯人の手懸りを捜していたのだ。

「焦るなよ、花道
俺らのこういう地道な捜査が事件解決に繋がるんだからよ」

「ふぅ〜ん」

桜木はつまらなそうに相槌を打つ。密輸組織を一網打尽にした時の緊張と興奮が未だに忘れられないようだ。

「あんなデカい事件、滅多に無いんだぞ?」

宮城が釘を刺すと「わーってらぃ!」と頬っぺたを膨らます。

行きつけの定食屋に着くと臨時休業の看板が掲げてあった。

「ふざけやがって、あのジジイ!オレを餓死させる気かっ!
開けろ、開けろーっ!!」

空腹のあまり常軌を逸し、店の引き戸を叩き壊そうとする桜木。このまま街中で暴れられたら赤木に大目玉を食らうのは宮城の方だ。この近くに一度だけ彩子とランチした小洒落たイタリア料理の店があった事を思い出し、宥めに掛かる。

「待て待て、花道
スゲェいい店あっから我慢しろ」

金額的にやや高めだが、背に腹は変えられない。

上着のポケットに常備している固形の栄養補助食品を桜木に与え、とりあえず落ち着かせる。

「リョーちん、おかわりだ!」

「ねぇーよ、もう食ったのか?」

「おうよ!」

ナハハッと笑った顔がどこかあどけなく、大きな身体と酷く不釣合いだ。

「ったく…」

混んでいないと良いのだが、と祈る様に空を見上げる宮城。小洒落た店の前にこの男と二人で並ぶのは些か気が重い。

「そーいやリョーちん!
一度訊こうと思ってたんだけど…」

桜木がヌーっと覗き込んで来る。

「何だよ?改まって」

「・・・・・あっ
アヤコさん‼︎」

「えっ///
アヤちゃんっ⁉︎」

不意を突かれて声がひっくり返った。宮城は慌てて周囲を見回す。

「ちがった」

「……っっ‼︎」

動揺を隠せない宮城を桜木の生温か〜〜い眼差しが包む。

「ニヒヒヒ〜
リョーちん、アヤコさんに恋してるな?」

宮城はますます挙動不審だ。

「ふっふっふーっ
やっぱり!
でもアヤコさんはイカスからなー
フラれるかもよ」

「……………」

容赦無く痛いところを突いてくる。

宮城は怒る気にもなれず、これまでのあまりに不遇な恋路が蘇って逆に涙が頬を伝う始末。

「もうフラれたようなもんさ…」

当然怒りの跳び蹴りが来るはずと素早く構えた桜木は思わず拍子抜けする。

「そーなのか?
仲良さそうに見えるけどなぁ」

「同僚だからな、お互い大人だし、そりゃ建前だ…
本当は彼女の眼中にはオレなんていないのさ
初めっから全然相手にしてくれないんだ」

そう言って項垂れた宮城が桜木にはもう一人の自分に見えた。

「彼女の事を忘れるために他の女と付き合おうとしたけど、ことごとくフラれる始末さ、…10人連続」

「じゅうにん?……フッ
オレは50人だ」

ドヤ顔の桜木。

「・・・はぁ?!ごじゅうって
プッ、何だよそれシャレにもなんねぇ」

吹き出す宮城に桜木は大真面目で続ける。

「だがな、それはハルコさんと出逢う前の話だ!
オレはハルコさんを知ってから、ただの一度もよそ見はしていない!ハルコさん一筋だ!!」

言い放った桜木は最上級のドヤ顔を決めた。

「お、おい…ちょっと待てよ
ハルコさん、て……
あの交通課の?」

「そうだ!」

「ダンナの実の妹の??」

「そ、……そーだっ!!」

「スゲェな、花道
正気かよ、色んな意味で……」

「ふふっ、トーゼンだ
これはオレの最後の恋だからな
そして一端の刑事になった暁には・・・」

「暁には?」

「ハ、ハ、ハルコさんに………
キュ、求婚しようと思っている!!!」

一瞬、桜木に後光が差したように見えた。

「おおっ!眩しいぜっ花道!」

「オレは天才だからな
リョーちんも本気でアヤコさんに惚れてるなら、よそ見などせずに誠意を見せたまえ!」

宮城にはこの言葉が、頭上から金だらいを食らった程の衝撃だった。

「くっそぉーっ!
悔しいけど花道!オメェの言う通りだぜっ
よしっ!もぉ逃げねぇぞ!
オレも一端の刑事になって、この愛を貫いてやる!
やるぜ、花道‼︎」

「オウ
リョータ君‼︎」

男たちは更に分かり合ったのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

既に昼時を外れているせいか、イタリア料理店の前に行列は無い。

二人が仲良く肩を組んで店に足を踏み入れた途端、声が掛かった。

「あれー??
リョータと桜木花道じゃない?
アンタたちもココでランチ?」

「アヤちゃんっ」

「桜木さん、偶然ですね?」

「ハルコさんっ」

ハッと我に返り、泡を食って左右に飛び退く宮城と桜木。

「私たちも今からなの
良かったら一緒にどう?」

既にテーブルに着いている彩子と晴子が並んで手招きしている。

「え?いいの?アヤちゃん」

「もちろん!
(ラッキー!今日はリョータに奢ってもらっちゃお♪)」

「ハ、ハルコさんっ///」

「良ければどーぞ
(桜木さんてスゴク話しやすいから緊張がほぐれるわ♪)」

(うぉぉぉぉぉぉぉ!!!
オレたちゃ、なんてツイテるんだぁぁぁぁぁあ!!!!!)

宮城と桜木は溢れる喜びを固い握手で分かち合う。

しかしこの時、彼らはまだ知らなかった。ポトスの陰で見えずにいたが、彩子たちの向かい側にあともう一人いた事を……。

同席者は僅かに頭を振って呟いた。

「ハァ〜〜
どあほうが二人に……」

この後、店内で大乱闘が有ったとか無かったとか・・・



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