湘北☆cop

《case file 1》


ここは藤沢の繁華街――

とある居酒屋で男達が祝杯を上げていた。

 「では、この度の桜木花道くんの栄転を祝って…

 『乾杯!!』

大ジョッキが5つ、音を立ててぶつかり合う。

集まった5人は中学時代からずっと一緒にヤンチャをして来た間柄。

 「しかし、花道が刑事になるなんてなぁ~
 世の中、何が起きるか分からねぇな」

ネクタイを弛めながら苦笑するのは水戸洋平。
一応、某中小企業でサラリーマンをしている。

 「まさか花道が湘北署勤務になるとは夢にも思わなかったぜ
 あそこにゃ、俺らガキの頃、何度もお世話になったよなぁ」

家業のラーメン屋を父親と共に切り盛りする野間忠一郎が懐かしそうに言う。

 「まったくだ
 花道がお巡りになった時も驚いたけどよぉ
 今度はデカかよ」

相変わらず髪が金色の大楠雄二は最近、地元のバイク屋で整備の仕事に就いたばかりだ。

 「ヘマやって交番に戻って来る方に5000円」

焼き鳥をガッツキながら眼鏡を光らせたのは、どういうわけかニートのくせに金回りが良い高宮望。

そんな気の置けない友人達に囲まれて、上機嫌の桜木花道だ。

仲間には恥ずかしくて隠していたが、刑事になるのは実は彼の長年の夢であった。

それがようやく今、叶ったのだ。







桜木花道が配属された片瀬湘北署は、藤沢と鎌倉のちょうど境目辺りに有り、自宅からは江ノ電に乗っての通勤になる。

だが勤務初日、緊張もあっていつもよりかなり早く目を覚ました彼は藤沢から徒歩で署に向かう事にした。

カジュアルスーツに身を包み、足元は歩きやすいスニーカー。

刑事は足で稼ぐものだ、と以前にドラマで聞いた気がする。

もう、あの制服を着る事もないのかと少々感傷的にもなるが、いつも交番に遊びに来てくれた子供達に貰ったエールの言葉を思い出し、玄関先で両頬をパシンと叩いた。

朝から雲1つない澄んだ青空が広がっている。

県道へ差し掛かったところで桜木の目にミニパトが飛び込んで来た。

どうやら、乗用車とバイクの接触事故があったようだ。

制服姿の警察官が当事者達に事情聴取をしている。

通りすがりにふとその様子を見た桜木に電流が走った。

1人の女性警察官から目が離せない。

モロ好みだ…!!!

思わずその場で立ち止まり敬礼をした。

 「早朝からご苦労様です
 自分、今日から片瀬湘北署に配属になりました桜木花道と申します!!
 お手伝い出来る事があれば何なりとお申し付け下さい!!!」

辺り中に響き渡る名乗りに
皆、ポカンと桜木の顔を見つめる。

ややあって、例の女性警察官が一歩前に出て同じく敬礼をした。

 「ご苦労様です
 自分は片瀬湘北署交通課の赤木晴子と申します
 お申し出、誠に有難いのですが我々だけで処理出来ますのでお気持ちだけ頂戴致します」

その笑顔に、また電流が走る。

 「ハ、ハルコ…さん
 なんて素敵なお名前…」

 「はぃ?何か?」

 「あっ、いえいえ
 こっちの話です」

 「フフフ…、面白い方ですね
 同じ署内みたいなので
 これからも宜しくお願いしますね、えっと…
 「さ、桜木ですっ!!」

 「あ、ごめんなさい
 桜木さん」

 「こ、こちらこそ!!」

晴子は軽く会釈をすると、また事情聴取に戻った。

ついてるぜっ!!
あんなカワイコチャンが同じ署内にいるなんてよぉ

嬉しさに叫び出したい気持ちを必死に堪えて、桜木は片瀬湘北署を目指した。







♪オ、オ、オ~レは~
 天才~ 天才~~
 ポ~リ~ス~マン~~~

絶好調で鼻歌を歌う桜木。

と、その背後から近づく一台の自転車…

……ドガッ!!!

桜木に追突したあと

がっしゃぁぁぁんんんっっ

盛大にひっくり返った。

 「な、な、なんだぁ!??」

尻モチを付いたまま唖然とする桜木を余所に、スーツ姿の男がボーっとしながら自転車を起こしている。

 「おぃ、待てこら!!」

 「……ん?」

スーツ姿の男が眠そうに桜木を見た。

背丈は桜木とほぼ同じだが、ボディは若干スリムに見える。

 「てめえ
 人にぶつかっといて侘の1つもねーのか」

 「……あ
 人…、だったのか」

 「んだと!?コラァ
 てめえ、このオレに喧嘩売ってんのか!!
 どこのどいつだぁぁぁ」

 「…今日から片瀬湘北署に配属された流川 楓だ」

 「ルカワ!?…聞かねぇな
 って………え………
 片瀬湘北署だとーっ!!!」

 「……怪我はしてねーみてぇだな」

流川と名乗った男はまるで表情を変えずにボソリとそう呟くと、何事も無かったように自転車を漕ぎだした。

 「てめえ、待てこらっ!!
 ルカワっ!!
 逃げんじゃねぇぇぇえ」

走る自転車の後ろを追い掛ける桜木。

のちに終生のライバルといわれる二人の出会いであった。

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